2018年01月01日
Keywords: 食糧 レジリエンス 生態系・生物多様性 防災・減災
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東日本大震災の被災者支援プロジェクト「JKSK結結プロジェクト」が、東京新聞への連載を通じて被災地復興の様子を伝える「東北復興日記」。今回は、2017年6月6日に掲載された、居久根が果たす役割を伝える記事をご紹介します。
イネの害虫で厄介なのは、斑点米の原因となる米粒ほどの小さなカメムシです。米が固くなる前のミルク状の時に、とがった口ですすり、痕に黒い斑点を残すのです。斑点が増えるたびに米の格付けが落ち、買い取り価格が下がります。
農薬で防ぐことができますが、天敵を使うことでも制御できることが分かってきました。天敵とは皿状の巣を張るアシナガグモ類のこと。無農薬の水田に多くいて、朝露の際には見事な景観になります。
冬の間はどこで過ごしているのか不明でしたが、昨年の調査で、宮城県から岩手県に広がる農家の屋敷の周りに植えた木(居久根)で越冬していることが分かりました。専門家にもあまり知られていないことでした。
居久根は、冬の季節風や、洪水、地震から屋敷を守るなどの利点は分かっていましたが、天敵を育む場所でもあったのです。こうした視点で見てみると、カエルやトンボなども居久根に依存していることが分かります。
宮城県北部に広がる大崎平野の農地「大崎耕土」には、全世帯の4割に当たる24,300戸に居久根が残っているまれな地域です。東日本大震災で内陸部の最大震度を観測しながら、減災システムが働いた要因でもあります。これが価値のある一要素として評価され、大崎耕土は世界農業遺産に認定されるための過程を歩んでいます。(※1)
居久根が持つ天敵を育む役割は、農作物を害虫から守ることで安定的な生産につながり、食料の自給にも一役買います。大崎の中で、平野部であっても震災後に孤立した集落に暮らす農家の方からは「震災の後、外部からの支援が無い状態が一カ月以上続いても、不自由なく持ちこたえることができた」と語る人々が幾人も見られました。(※2)
農水省によると、世界農業遺産は、社会や環境に適応しながら何世代にもわたり形づくられてきた伝統的な農業と、それに関わって育まれた文化、ランドスケープ、生物多様性などが一体となった世界的に重要な農業システムを、国連食糧農業機関(FAO)が認定する仕組みです。
農村文化の豊かな地域では、生物と文化の多様性が向上するシステムの重要性が見えてきます。
NPO法人田んぼ理事長
岩渕成紀
※1:2017年12月12日、大崎地域が世界農業遺産に認定されたことが発表されました。
宮城県大崎地域の世界農業遺産認定について|農林水産省
※2:今回の掲載にあたり筆者が加筆したもので、東北復興日記には掲載されておりません。