ニュースレター

2016年11月30日

 

余っている所から足りない所へ「食」をつなぐフードバンク関西

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JFS ニュースレター No.171 (2016年11月号)

日本では、まだ食べられるのに廃棄されてしまういわゆる「食品ロス」が、年間500万~800万トンにもおよびます。これは、1年間のコメ収穫量にも匹敵する量です。一方では、失業や病気などで、その日の食べ物にも困っている人たちがいます。

そんな「もったいない」状況をなくそうと、廃棄される運命の食べ物を、必要とされる場所へ届けるというつなぎ役をしているのがフードバンクです。

兵庫県芦屋市に拠点がある認定NPO法人フードバンク関西では、企業や個人から寄贈された食品を、支援を必要とする福祉施設や個人世帯に無償で分配しています。その事業の具体的な取り組みについてご紹介します。

「もったいない」食品ロスの現状

日本の食料自給率は39%(カロリーベース、2015年度)。日本は、食料の6割を海外に依存しています。にもかかわらず、なぜこれほど多くの食品が捨てられているのでしょうか。

食品関連企業で食品ロスが生まれる理由のひとつとして、賞味期限の設定と表示方法の問題があります。企業が消費者の意向を先読みして、賞味期限を最短(品質保持期限の8割)にしているものの、製造年月日の表示がないので、消費者には賞味期間がわからず、期限が過ぎたものに対して、消費者が安全性を自分で判断ができないという状況があります。

また、製造・卸から小売業者に渡す期間は、賞味期限の3分の1以内、小売り業者が店頭に置く期間は、次の3分の1(賞味期限の3分の2)以内とする「3分の1ルール」という食品流通業界の商習慣も、食品ロスを多く生み出す理由となっています。

一般家庭からの食品ロスは、事業系よりさらに多く、生ゴミの22%は手つかずの食品で、その4分の1が賞味期限以前に捨てられています。原因としては、食品の買い過ぎや、総菜の作り過ぎなど、家庭での適正量が把握できていないことなどが考えられます。

他方、日本でも格差は拡大の傾向にあり、相対的貧困率(可処分所得が全国民の中央値の半分に満たない国民の割合)は年々上昇し、2012年には16.1%になっています。また、子ども(18歳未満)の貧困率は16.3%と、6人に1人が相対的貧困という深刻な状況です。(2013年厚生労働省調べ)

主な活動内容

アメリカで始まったフードバンクは、既に40年の歴史を持っています。日本では2002年に東京で初のフードバンク団体が設立されました。それとは別の動きとして、フードバンク関西は、2003年にアメリカ人のブライアン・ローレンスによって設立されました。

フードバンク関西と提携している企業としては現在、一般的な食品を提供してくれる64社、防災備蓄食品を提供してくれる21社があります。集まった食品は70人のボランティアの手で、福祉施設や困窮する市民、母子家庭などに届けられています。

主に取り扱う食品として、

  • 製造過程で生じる規格外品(商品のラベル印字ミス、量目不足、形が悪いなど)
  • 流通過程で商品として扱えなくなった食品(梱包破損、包装破損)
  • 売れ残り食品(納品期限切れ、販売期限切れ)
  • シーズンが終わった季節商品
  • 個人の家庭から使いきれずに寄付された食品
  • パン、野菜、果物など日常的に売れ残る商品

これらを各所へ届ける方法として、次の事業を行っています。

  • 福祉施設へのデリバリー
  • 緊急支援を必要とする市民への「食のセーフティネット」
  • 貧困母子世帯への支援の仕組み「子供元気ネットワーク」
  • 「子ども食堂」での食材支援

では、その内容について、詳しく見ていきましょう。

104カ所の福祉施設で喜ばれている食品デリバリー

関連企業から集めた食品を、神戸、大阪、阪神間を中心とした児童養護施設、障害学童保育施設、ホームレス支援団体、母子生活支援団体やDVシェルター、障害者通所作業所などに届けています。2016年現在、104カ所に届けており、1カ月あたりの受益者は1万人にのぼっています。

受け取り団体には、月に1回レトルト食品や缶詰、調味料、菓子類のほか、隔週1回の頻度で大型スーパーから供給されるパン、野菜、果物も届けられます。

受け取った側の施設からは、

  • 「うれしい」「また来た!」と、こどもたちが喜んでいる(兵庫県・児童養護施設)
  • へとへとの状態の方に、レトルト食品や缶詰など、すぐに食べられるものはありがたい(DVシェルター)

などの声が届いています。

緊急支援を必要とする市民への「食のセーフティネット」

施設への定期的な配送とは別に、一時的な困窮により、その日の食べ物にも事欠く状態になった個人や世帯への緊急食支援が、2012年から始まった「食のセーフティネット」です。

これは、行政と協働でおこなっている事業で、行政の福祉関連部署から、生活保護申請に来たが保護費が支給されるまでの期間が暮らせない、保護対象ではないが困窮しているので食支援が必要などの情報が入ると、フードバンク関西が準備した1週間分の食品を、行政担当者の手を通じてその日のうちに対象者に届ける仕組みです。食品の対価は不要なのでコストが最小限であること、食を通じて心理的な安心が得られるなどのメリットがあります。

「子ども元気ネットワークひょうご」

最近日本で急増している母子家庭には、母親の不安定な非正規雇用や低賃金、長時間の就労で、やっと暮らしを立てている世帯も多く、貧困の中で育つ子どもたちが増えています。

そこで、フードバンク関西と他の3つのNPO法人が協働で「子ども元気ネットワーク」を立ち上げ、母子世帯を応援しています。

その1つが、「認定NPO法人女性と子ども支援センターウィメンズネットこうべ」で、シングルマザーの生活相談、就労相談、子どもの学習支援をしているNPOです。相談に訪れる方の中から、特に困難な状況にある世帯を見出して会員として選びます。

新たに大阪で同じ趣旨の活動をしている認定NPO法人「いくの学園」も平成28年4月からネットワークに加わり、ここでも特に支援を必要とする母子世帯を会員として選んでいます。

もう1つは、「NPO法人フリーヘルプ」で、上記2つのNPOが選んだ会員に対し3カ月に一度、衣服と生活用品を支援しています。

フードバンク関西は、現在38世帯の会員に対し、1カ月に一度食料支援を行います。

これらのNPOの支援の連携によって、母親が孤立から脱し、仲間と支え合う安心を得て、余裕を持って子育てをする環境を作ります。

子ども食堂への食材支援

ここ数年、共働きや片親世帯が増加し、一人で夕食をとる子どもの数が増えています。そんな子ども達に無料や安価で食事を提供する民間の「子ども食堂」が、全国で急増しています。

フードバンク関西もその支援として2016年3月から、子ども食堂に対し、食材の支援を始めました。関西地域でも、小学校学区に一つの子ども食堂の開設を理想として、子ども食堂を増やす事を目指しており、それを通じて子ども達の孤食や欠食の問題の緩和と、地域ぐるみの子育て環境を作りたいと、他の団体と連携してこのプロジェクトに取り組んでいます。

私たちが活動に協力できること

私たち個人が、フードバンク関西の活動を支援したいという場合、さまざまな方法があります。

  1. 食品を寄付する

    家庭で使いきれない食品があれば、量の多少にかかわらず、宅配、または直接事務所に持ち込むことができます。未開封、常温保管可能、賞味期限まで1カ月程度のもので、特にお米、乾麺、缶詰、瓶詰、レトルト食品、インスタント食品、調味料、乳幼児用食品、飲料(アルコール類を除く)の寄付を受け付けています。

  2. フードドライブ

    フードドライブとは、家庭に眠っている食品を学校、地域、職場などに持ち寄り、それらをまとめてフードバンクに寄付する活動です。

  3. お金を寄付する

    フードバンク関西では、無償で引き受けた食品を、無償で配っているため、事業から収益がなく、寄付金によって運営されています。賛助会員になる、随時寄付をするという方法があります。

  4. ラッフルキルト

    ラッフルとは、「慈善福引」という意味で、ラッフルキルトは欧米ではチャリティ募金としてよく使われる方法です。チケットを購入した人は、キルト作家の作品が当たるというしくみで、毎年クリスマスシーズンに行われています。

  5. ボランティア

    フードバンク関西の特徴は、専従職員は置かず、すべてがボランティアで運営されている、ということです。提供企業から食品を集め、福祉団体に食品を配送する、また、事務所にて行う検品、在庫管理など、それぞれができることを担当しています。

ボランティアの方からは、次のような声が寄せられています。

  • 食品をお届けすると、喜んで受け取っていただき、笑顔で有難うと言っていただく。食べ物は生きていく原点で、その仲介が出来るのは私の喜びでもあります。(デリバリー担当 Nさん 男性)
  • テレビの報道で大量の食品が廃棄されている事実を見て驚きました。何か支援することはできないかと始め、最近では施設に少しでもお役に立つ組み合わせでお届けできるよう腐心する毎日です。(在庫管理担当 Iさん 女性)

理事長の浅葉めぐみさんは、「企業の方は、まだ食べられるものを捨てるのは心苦しいと思い、受け取る方は、食べ物が届くことを楽しみにし、喜んでくださる。双方が満足できることのつなぎ役ができるのは、ボランティアとしても本当にうれしく、このやりがいがモチベーションと充実感になっているのではないでしょうか」と、話しています。

多くの人の善意によって、余っている所から足りない所へと食べ物がつながれ、生かされるこの取り組みに、今後ますます注目していきたいと思います。

〈参考〉
フードバンク関西
http://foodbankkansai.org/

スタッフライター 大野多恵子

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