ニュースレター

2018年03月30日

 

エネルギー100%自給へ、そして自治体ICO構想も!~岡山県・西粟倉村の自立へ向けた取り組み(後編)

Keywords:  ニュースレター  再生可能エネルギー  市民社会・地域  生態系・生物多様性 

 

JFS ニュースレター No.187 (2018年3月号)

写真
あわくら温泉
Photo by きんちゃん Some Rights Reserved.

前号では、「やる気のある若者が移住・起業する村~岡山県・西粟倉村の自立へ向けた取り組み」として、2008年の「百年の森林構想」から、さまざまな動きが始まり、展開して、今では村の人口の9%にあたるほどの人が移住して、多くの起業家が活躍する西粟倉村の様子をお伝えしました。今回は、エネルギー自給をめざし、自然資本から、社会資本・経済資本へと取り組みを広げつつある同村の様子をお伝えします。

エネルギー100%自給の村へ

西粟倉村には、3カ所の温泉地があります。お湯を沸かすボイラー用に、3カ所あわせて、年間21万3000リットルほどの灯油を使っていたそうです。今では、その約8割が薪ボイラーに替わっています。薪はもちろん、村内の5,500ヘクタールの森林から。それまでは「価値がない」と見られていた、低質材です。かつては、灯油代として域外に流出していた年間1000万円強が、地域内で循環するようになったのです。温泉施設にとっても、灯油よりコストが下がるので、3施設で年間200万円ほど燃料コストが下がるといううれしい状況になっています。

西粟倉村では、「百年の森林」をつくろうと、間引きのための間伐や、路網を整備する際にも伐採します。10本のうち2本ぐらいは品質の良い木材として市場で売れ、3本ぐらいは合板用などに販売されます。残りの5本は低質材で、市場では売れない木です。搬出するコストのほうが高いため、切り捨て間伐として、山の中に置いておくか、せいぜいがチップ材にしかなりません。外材との競争もあって、チップ価格は安いので、森林から搬出しても赤字になるといいます。

そうした木材は「地域の中で有効に活用することが一番望ましい」という考えで、村の中で燃料化し、村の中で使う取り組みを進めてきました。その大きな推進者が、2014年に西粟倉村に移住した井筒耕平さんです。薪工場の運営、薪・丸太ボイラー導入コーディネートによって、実践的な木質バイオマス利用を進めつつ調査研究やSNS発信を行う「村楽エナジー株式会社」を立ち上げ、2015年には、閉鎖していた「あわくら温泉元湯」を再生し、開業しました。村楽エナジーのウェブには、「熱を販売しています。燃料費削減、地域からの資金流出ストップ、林業支援、気候変動防止という4つの目的を持ち、手段としてバイオマス利用をしています」とあります。

村役場の上山隆浩さんは、こう教えてくれました。「製材の過程で出るチップ材も有効に利用できるように取り組んでいます。チップを燃やすボイラーを設置して、地下にパイプラインを敷設し、チップボイラーで暖めたお湯を各施設にパイプラインで送って、各施設の暖房や給湯を一括管理する地域熱供給システムです。建設中の保育所や、再来年にかけて建てる木造の町役場、小中学校、お年寄りの介護施設やデイサービスの施設、診療所などに送ります。工事は今年から始まっており、2020年に完了予定です。完成後は、さらに1,000トンぐらいの端材が活用できるようになります。こうして、山全体の木をカスケード的に全て使っていける仕組みを、地域の中でつくろうとしているのです。もう少しでできそうです」。地域熱供給によって、地域の熱需要の40%近くをまかなえるようになる計算です。

西粟倉村では、水力発電も行っています。「森林を整備すると、川の水量が安定してくるので、水力発電ができるようになります」。現在、村は290kWと5kWの水力発電所を持っていますが、もう1つ199kWの水力発電を計画中で、2020年度ぐらいから運用したいと考えています。

固定価格買取制度によって、290kWの水力発電は年間7000万円ぐらいの売電収入を生んでいます。新規の199kWの水力発電の売電収入は5000万円ぐらいになります。「村の税収は1億3000万円ぐらいですが、発電所2カ所で、ほぼそれと同じ収益が得られるのです」と上山さん。「水力発電は、安定するとそんなにコストがかからない。太陽光や風力と違って24時間稼働するので、設備効率は90%とか86%とか、非常に高いです」。

現在、西粟倉村では、域内の電力需要の4割弱を地域のエネルギーでまかなっています。もうひとつの水力発電が稼働を始めれば、その割合は7割に増える予定だそうです。

村楽エナジーの井筒さんは、このように述べています。「エネ事業者には、大規模なソーラー発電や風力発電、バイオマス発電を仕掛けるメガ事業者があり、"ご当地エネルギー"と呼ばれる、地域独自のエネルギー事業者も増えつつあります。僕たちがやっていることは、第3の道なのではないか。それは、再エネ事業だけではなく、ローカルで必要な観光や福祉などのサービスも展開するローカルコングロマリットというか、ローカルインフラというか、そういうことまで視野にいれている"再エネ事業者"というあり方です。地域から出ることなく、様々な事業を行い、徹底的にローカルにこだわります」。

森林管理も進化していく

「百年の森林構想」を立ち上げてから、「森の学校」のマーケティングや取り組みが非常にうまくいっていることもあり、現在は、木材の供給が追いつかない状況だそうです。上山さんはこう言います。「現在は、村が森林所有者と話をして、その森林を森林組合に手入れをしてもらい、その材を森の学校に出すというやり方をしています。しかし、村がその担当である限り、どうしても手が回らなくなる。そこで2017年10月に「百森」という民間の事業所を立ち上げて、村が果たしている役割を包括委託契約で任せる予定です。東京から来た若い人や森林組合の経験のある人、森で働きたい人たちなどが加わって、森林資源の価値の最大化を図る取り組みを進めていくことになっています。行政が主体ではスピードにも限界がありますし、いろいろな新しいスキームも進めていきたいので、民間のベンチャーでやっていこう、ということです」。

もう1つ、森林のデータ化も進めています。村ではGISを使って、一人ひとりの森林を地番ごとに管理しています。それに加え、昨年度は、飛行機を飛ばしました。1平方メートルに4点、レーザー光線を当てることで、樹種、木の大きさ、胸高直径などのデータが全て得られます。○○さんの地番の山には、スギが何本、ヒノキが何本あって、1本ずつの大きさも全部わかります。3Dで地形も出る上、災害履歴もわかるので、どこに作業道を入れればよいかもわかります。

このように収集したデータをもとに、持続可能な森林づくりを進めています。林齢を上げながら100年の森林をつくっていく取り組みは経済的にも持続可能にやっていく必要があります。「間伐だけやっていると、2060年頃に間伐する木がなくなることが推定されます。そこで、成長の良い場所は主伐をして、経済林として新しく植えていく作業をやる必要があります」。

西粟倉村では、「1年に、スギなら8ヘクタールほど主伐をして、40ヘクタールほど間伐して、択抜が3ヘクタールほど。これをずっと続けると、2060年ぐらいまでに林齢が平準化してくる」というモデルができています。そこで、20年間にわたって、どこを主伐して、どこを間伐して、どこを択伐するかという計画をつくって、作業を進めています。林齢が平準化すれば、林業として経済的に成り立つようになりますが、ここは全国的な課題となっています。「モデルとして1つつくれば、他の地域でも使えるので、西粟倉村でそういうモデルをつくっているところです」と上山さん。

自然資本から、社会資本・経済資本へ

西粟倉村では、豊富な森林資源を活かし、その自然資本の価値を引き出したり、価値を付けたりすることを進めてきました。「『百年の森林構想』からの9年間、かなりできてきた」と上山さんは言います。西粟倉村では、31社のローカルベンチャーが立ち上がっており、うち6社は単独で事業採算がとれるようになりました。こういった企業が地域の雇用を創出し、税収をつくり出しているのです。

こうした動きを地域内だけにとどめず、志を同じくする地域と組んで、さらに全国に広げていきたいと西粟倉村では考えています。そこで、2016年9月、地域の新たな経済を生み出すローカルベンチャーの輩出・育成を目指し、NPO法人ETIC.とともに、「ローカルベンチャー推進協議会」を立ち上げ、現在10の自治体とともに活動を進めています。

西粟倉村では、森林資源の活用といった自然資本中心の取り組みから、それ以外のベンチャーも立ち上がるようになりました。ゲストハウスや日本酒の出張バー、ジビエ料理、モンテッソーリ教育、助産師、高齢者福祉など、社会資本型のサービスにかかわる人々が増えています。上山さんは「次の10年はそういったところを意識していくことが大事だと考えています」と言います。「西粟倉村のビジョンは、2058年に『上質な田舎をつくる』ことです。そのために自然資本に注力してきましたが、社会資本の向上へと広がりつつあります。次には、経済資本を伸ばすような取り組みを進めていきたい、経済の土壌を豊かにしていきたいと考えています」。

国の地方創生推進交付金は2020年度までです。西粟倉村では現在、その資金をローカルベンチャーの資金にしていますが、2021年度からは自力でその手当てをしなくてはなりません。「ふるさと納税もその1つのやり方ですが、地域や国を超えて世界的に資金を調達できる仕組みはないかと考えていました」という西粟倉村は、ビットコインやブロックチェーン技術に詳しい民間事業体と共同で、ICO(Initial Coin Offering)という新しい取り組みの研究を始めています。村の新たな財源としての自治体ICOの可能性を検証していくそうです。

このように次々と新しい取り組みを展開する西粟倉村。上山さんは、「NPOや民間企業などのスキームがいろいろと参考になります」。足元の森林とエネルギーの土台をしっかり固めつつ、やる気のある移住者や起業家を惹きつけ、これまでになかった自治体運営に挑戦を続ける西粟倉村の今後から、目が離せません!

枝廣淳子

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