ニュースレター

2010年09月14日

 

日本の食料自給率――現状と向上のための各地の取り組み

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JFS ニュースレター No.93 (2010年5月号)

皆さんは自国の食料自給率について考えることはありますか? 日常ふんだんに食べるものがあり、農業も盛んな国だと、あまりそうしたことに考えが及ばないかもしれません。しかし、異常気象による干ばつや水害といった、農業に直接影響を与える自然災害が増えていること、中国やインド等かつての食料輸出大国が人口増加と食生活の変化に伴い、食品によっては輸入国へ転じていること、長距離輸送によるエネルギーの浪費、温室効果ガス排出の増大という、いわゆるフードマイレージの問題など、食や農業を取り巻く環境が大きく変わりつつあります。そんな現代においては、いかに輸入に頼らず自国で食をまかなえるか――すなわち「食料自給率」に着目することは重要です。国の安全保障問題にもつながることから、日本でも昨今、注目を浴びるようになってきました。


日本の食料自給率の現状

食料自給率とは、国民の一日分の食料をどの程度まで自国内で生産できているかを示す指標です。日本で用いられる数字はカロリーベースと言われるもので、(国民一人の一日あたりの国産供給カロリー)÷(国民一人の一日あたりの総供給カロリー)という形で計算されます。これに加え、先進国から途上国にいたるまでデータが揃っている穀物自給率も国ごとの比較の際にはよく使用されます。

この食料自給率、日本は1961年には78%であったのが、その後は下降の一途をたどり、10年後の1971年には20%ダウンして58%、1989年にはついに50%を割り、1998年からは40%という数字が続いています。2006年度には40%も割って39%に落ち込んだことから、マスコミ等でも大きくとりあげられるようになり、国民の間でもよく耳にする言葉になりました。この数字は、主要先進国の中ではもっとも低く、比較的低い国でもスイスが50~60%の間を行ったりきたり、お隣の韓国も40%台後半といったところです。

主食である米は100%近く自給している日本ですが、穀物自給率を見ると、食品全体で見る食料自給率よりもさらに低く、28%(2008年度)しかありません。これは、畜産物の飼料となるトウモロコシなどの穀類をほぼ100%輸入に頼っていること、また麺類やパン等に使用される小麦やそばも10~20%程度しか自給できていないことが原因です。

かつて78%あった自給率が約半分の40%にまで落ち込んでしまった原因には、農業離れ、輸入依存等さまざまな要素が考えられますが、大きく影響しているものの1つが、国民の食生活の変化です。国が豊かになるのと同時に食生活がどんどん欧米化し、肉類・油脂類の摂取は1960年と比較すると3~4倍に増え、反対に米の消費は約半分に減少しています。つまり、自給できる食品の消費が減り、逆にほとんど自給できていない食品の消費が増加し、自給率の低下に拍車をかけているのが現状です。


自給率の向上に向けて

このような危機的とも言える食料自給率に対し、日本政府も手をこまねいているわけではありません。「FOOD ACTION NIPPON」と題し、2015年度までに現状40%の食料自給率を45%にまで向上させようと、国民が食料自給率の向上に向けて具体的な行動を起こしていけるような普及・啓発を実施しています。
http://www.syokuryo.jp/index.html

特に政府が積極的に取り組んでいることの1つが、米粉の活用です。主食として消費される米は減少しているわけですが、小麦のように粉として使用することで異なった消費の方法を模索・提案しています。米粉は欧米でもグルテンアレルギーの人々の代替食品として注目を集めていますが、日本でも古くから和菓子の材料などとして消費されてきました。

しかし、米粉にはもっと多くの可能性があるとして、政府が率先して広報活動を行い、専門サイトを立ち上げ、和菓子だけに限らず、メインの料理から洋風デザートにいたるまで、レパートリーも豊富なレシピや米粉製品の紹介、各地や関連企業で実施されるイベントの紹介などを通じて米粉の消費拡大を進めています。

JFS記事:米粉で食料自給率アップを目指す 業界が団結
http://www.japanfs.org/ja/pages/029644.html

このような、米粉に限らず、国産製品を広めるためのイベントや普及活動を運営する団体や企業は、推進パートナーと呼ばれ、政府によって、食品関連企業をはじめとする国産品を応援する人々の組織化が進んでいます。政府は、2009年10月現在で2,000社強だったこの推進パートナー数を、今年度には5,000社にまで引き上げようとしています。

また、2009年秋よりスタートしたのが「マルシェ・ジャポン・プロジェクト」です。「おいしさ 手わたし わくわく市場」というメッセージで、現在、全国17カ所で開催されており、欧米の街角や広場などでよく見かけるマルシェ(市場)を再現したものです。国産の野菜を中心とし、乳製品や加工品なども立ち並ぶマルシェは、固定客がついている開催地も多く、消費者にとっては週に一度のお楽しみになっているようです。
http://www.marche-japon.org/

その魅力は、単にかごに入れるだけのスーパーマーケットでの買い物と違い、旬の食材やおいしい食べ方について教えてもらったり、珍しい食材に出会えたりすることや、何よりも作り手や売り手とコミュニケーションを取りながら買い物ができることでしょう。生産者にとっても、直接消費者と接することで、消費者が何を求めているのか、生の声を聞くことができ、今後の生産の参考になり、何より励みになるため、双方向にとって有益な取り組みと言えます。

消費者に対する広報活動だけでなく、実際に生産を行なう農家に対しても、今年新たな助成制度を導入しました。この4月にスタートしたばかりの戸別所得補償モデル対策は、(1)シンプルでわかりやすい助成により、水田を余すことなく活用して自給率の低い作物の生産拡大を促そうという「水田利活用自給力向上事業」と(2)水田農業の経営を安定させるため、米作に対して補填する「米戸別所得補償モデル事業」、2つの事業をセットで行うことで食料自給率を向上させようという取り組みです。

具体的には、(1)の「水田利活用自給力向上事業」では、水田で麦・大豆・米粉用米・飼料用米など自給率向上につながる作物を生産する販売農家・集落営農者に対し、主食用米と同等の所得を確保できる水準の支援を行ないます。支払いは、作物につき10アールあたりの単価を設定して行なわれます。これにより、余っている米の生産を抑え、自給率向上のポイントとなる作物の生産を高めようという考えです。

(2)の「米戸別所得補償モデル事業」では、米の生産数量目標に従って生産する農家に対し、主食用米の作付面積10アールあたり15,000円を定額交付し、恒常的なコスト割れをなくそうという試みです。日本の農家に対する直接補償制度は欧米と比較するとまだ金額的にも3分の1以下と低く、自国での生産を向上させるための手立てが遅れています。今回の制度の導入により農家の負担が軽減され、新たな担い手の増加にも期待がかかります。

政府の呼びかけに応じて、民間でもさまざまな取り組みが始まっています。違法の農薬が輸入野菜から検出された事件などを受けて、買い物の際には表示を見て、割高であっても国産のものを選ぶ国民が増えつつありますが、外食する際には表示の義務がないため、どのような食材が使用されているかわかりません。

そんな状況に着目して、北海道から始まり、今、全国の飲食店に少しずつ浸透しつつあるのが「緑提灯」です。提灯とは、竹ひごを多数組み合わせて筒状に組み、その周囲に障子紙を張って、中に蝋燭を立てて使用するもので、言ってみれば昔の懐中電灯や軒先の外灯です。現在では、ほとんどが蝋燭から電気による灯りに替わっていますが、「赤提灯」と言えば、会社帰りのお父さんが立ち寄る酒場の愛称でもあります。

それに目をつけたのが、この「緑提灯」です。国産の材料を率先して使用している店舗のみが掲げられる提灯です。国産食材を50%以上使用していれば掲げることができ、50%以上で1ツ星、以降10%増えるごとに星が増え、90%以上使用している店は5ツ星の緑提灯となります。目に留まりやすいため、食べ物の自給率に無関心だった人にも訴えることのできる有効なツールと言えます。

JFS記事:緑提灯の店を増やして、地産地消推進
http://www.japanfs.org/ja/pages/024804.html

それ以外にも、農家の後継者、全国各地の新たに就農した若手農業者、意識の高い消費者が集まるネットワークを形成することで、21世紀の農業を支える新たな仕組み作りを行うNPOや、遊休地や耕作放棄地を開墾するプログラムを作り、都市住民に呼びかけたり、会社のCSRと結びつけて、地方に都会の人を連れてきて開墾にいそしむ週末を提供しているNPOなどがあります。農と一般市民をつなげることに注力する団体や、直接市民が農業に取り組める援農を促進したり、市民農園を提供する自治体や企業も急速に増えています。

JFS記事:若者向け農業季刊誌「Agrizm」創刊
http://www.japanfs.org/ja/pages/029960.html

食料自給率をきっかけに、国民が自分の食生活や日本の農業の現状、また世界の農業・食品事情などを見直すことが大事です。「自分が毎日食べているものがどこからやってきたのか」「それはこれからもずっと変わらず栽培や入手可能なものなのか」――正しい情報を見極め、そのために自分は何を選び、自分にできることが何なのか考え、行動すること。望ましい未来を選び取るための1つの大切な道しるべなのです。

参考文献:
『食料自給率の「なぜ?」 ~どうして低いといけないのか?~』(末松広行 著)

日本の食料自給率
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/012.html

世界の食料自給率
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/013.html

(スタッフライター 長谷川浩代)

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