ニュースレター

2016年07月29日

 

地域と都市と学生が連携して「こども食堂」に挑戦!

Keywords:  ニュースレター  市民社会・地域  食糧 

 

JFS ニュースレター No.167 (2016年7月号)

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JFSの代表を務めながら、東京都市大学環境学部で、研究室をもってゼミ活動をはじめて1年ちょっとになります。「社会を変えながら、社会を変えられる人を育てる」をキャッチフレーズに、さまざまな取り組みをしてきました。

東京都市大学環境学部 枝廣淳子研究室
http://www.yc.tcu.ac.jp/~edahiro-web/index.html

昨年9月に、熊本県の山奥にある集落を訪問してゼミ活動を行ったようすは、JFSニュースレター記事でも紹介させていただきました。

JFSニュースレター No.160(2015年12月号)
限界集落のトップランナー、再エネをとっかかりに「幸せ実感日本一の集落」へ!
http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id035427.html

6月22日、このようなこれまでの取り組みをベースに、エダヒロ研のゼミ生、水増集落、東京・世田谷区で活動されている方々と一緒に、1日限定の「こども食堂」を開催しました。

地域と都市と学生が連携しての「こども食堂」開催へ

日本でも格差の拡大が社会問題となっています。特にこども(17歳以下)の相対的貧困率は16.3%、なんと6人に1人のこどもが貧困の状態にあります。こどもの貧困と孤食の問題解決を目的とした「こども食堂」が首都圏を中心に全国各地で開設されています。

JFSニュースレター No.163(2016年3月号)
こども食堂――こどもたちに暖かい食事と居場所を提供する取り組み
http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id035532.html

幸せ経済社会研究所やJFSの本拠地である東京都世田谷区内でも、いくつものこども食堂が展開されており、さらなる開設を望む声も多く寄せられています。こども食堂がそのミッションを果たし、地域のこどもの居場所となっていくためには、今後さまざまな支援やネットワークづくりが必要になります。

一方、地方では人口減少と高齢化が進み、集落や農業の維持など危機的な状況を迎えています。枝廣研究室が2015年から研究活動を行っている熊本県上益城郡山都町島木の水増集落も、10世帯18人、平均年齢72歳という、いわゆる"限界集落"の一つです。水増集落についてはこちらをご覧ください。
http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id035427.html

しかし、地方には都市にないものもたくさんあります。おいしい空気や水はもちろんのこと、お米や新鮮な野菜、栄養満点の大豆、そしてそれらを生産する人たちのあたたかさや、その土地に根ざした歴史や文化などは、都市の人たちにとってはなかなか手に入れることのできない"宝物"です。

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「水増のお米や野菜を都会のこどもたちにもいっぱい食べてほしい」――そんな水増集落の皆さんの思いを都市につなぐ取り組みとして、世田谷区のこども食堂実践者のご協力を得て、水増の食材によるこども食堂を開催しました。世田谷区でも今後こども食堂を広げていきたいとのことで、今回はまずは多くの人にこども食堂を知ってもらい、体験してもらうことを目的にしました。

こども食堂~準備、当日

今年の1月から研究室で企画と準備を進めてきました。担当の学生たちは、世田谷区や他の地域で開催されているこども食堂に何度か参加し、実際に体験しながら、企画を考えました。当日はゼミ生のほぼ全員が参加し、役割分担に従って、運営をしてくれました。

当日ははるか熊本から、水増集落の方々など10人が「久しぶりの東京です」と笑いながら、飛行機でやってきてくれました。集落の皆さんや学生も交え、調理チームが作業を開始します。今回の調理を担当してくれたのは、世田谷区で300人を超えるメンバーで活躍する「おとこの台所」こと、定年退職後の男性たちの料理チームの有志の7人です。お揃いのエプロンもステキで、包丁さばきもさすが!です。

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調理チームの作業と並行して、16時にまずは「おとな食堂」がオープン。メディアの方などを対象に、主催者の挨拶と水増の紹介。水増の食材を使った数々の料理やシフォンケーキなどに舌鼓を打ちながら、話が弾みます。

そのうち、ひとり、ふたりと子どもたちがやってきます。受付係や会場係の学生も忙しくなってきます。今回の会場は、大人数が参加でき、調理室も整っている世田谷区のキャロットタワーという大きなビルの中で行ったため、お母さんたちが子どもたちを連れてきてくれます。関係者のSNSなどでの案内や世田谷区内の掲示板などを見て、「子ども食堂って、初めて聞いたけど、楽しそう!」と参加してくれた親子が多かったようです。全部で25人ものこども、21人の親が参加してくれました。

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17:30頃、食事の用意が整い、主催者の思いをお話ししました。また、学生から水増集落への義援金が手渡されました。4月に熊本を襲った地震は水増集落にも被害を及ぼし、1棟が全壊、もう1棟が半壊しました。学生たちは、お世話になった集落の方々を少しでも支援したいと、6月初旬に開催された大学の学園祭で、水増集落から送ってもらったお米や野菜などを販売し、寄付金を集めました。10万円ほどの支援金をお渡しすることができました。

そして、水増集落の方からの食材の紹介、男の台所チームからのメニューの紹介。みんなで記念撮影し、いよいよ「いただきます!」。「おいしい!」とあちこちから声が上がります。

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<メニュー>
写真● 竹の子とグリーンピースの炊き込みご飯
(水増のお米は「日本の棚田百選」にも選出されました!)


写真● 野菜たっぷりの豚肉味噌
(九州地方料理・水増の幻の大豆、八天狗の味噌を使用)

写真● 生野菜のアンチョビ・マヨネーズソース
(熊本の新鮮な野菜で!)


写真● 八天狗の豆乳スープ



写真● 卵焼き(水増の平飼い卵で)



写真● ジャーマン・パンケーキ
(水増のジャガイモを使って)


写真● 鶏汁(水増の伝統料理)



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● ワラビの煮つけ




写真● 八天狗の坐禅豆



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● 八天狗豆乳をつかったシフォンケーキと手作りブルーベリージャム





食べ終わったこどもたちは、学生のお兄さん、お姉さんとゲームやトランプなどの遊びに夢中になっていました。その間、お母さんたちもゆっくりおしゃべりしながら食事ができます。「卵焼きを食べなかったうちの子も、おいしい!って食べていました」「この味付け、どうやっているのですか?」など、あちこちで話が弾んでいました。

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食事の後、駆けつけてくださって、一緒に食卓を囲んでくれた世田谷区の保坂区長も感想などをお話ししてくれました。最後にアンケートを書いてもらい、こどもたちとお母さんたちは帰って行きました。「また参加したいです!」「とっても楽しかった」「こうやってたくさんのいろいろな人と食べたり話したりできる場がもっとほしいです」という感想をたくさんいただきました。調理チームと会場係と片づけをして、終了。学生たちと水増集落のみなさんは、近くのお店で交流会を開き、久しぶりの親交を楽しみました。

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水増集落の荒木さんからは、「私たち、70歳以上の平均年齢ですが、あと4、5年みんなで頑張ろう、こどもたちや孫たちが帰ってくる、そして都会から皆さんが来られるような村をつくっていきたいなという気持ちでおります。ぜひ一度、遊びに来てください」とのメッセージ。

今回の共催者であるNPO法人せたがや福祉サポートセンター代表の光岡明子さんは、「世田谷の子ども食堂と熊本の水増集落、そしてそこを繋ぐ東京都市大という3者それぞれが初めての試みでしたが、初めてとは思えない程和気あいあいとした会になった事が印象的でした。思いや目的は一緒で、これからますます大事なのは『住みやすく人と人との関係を大切にするまちづくり』だと、実感できました。今回の試みがきっかけとなり、3者がそれぞれに持つ強みを共有して交流がさらに進み、課題解決や目的達成の連携ができることを期待します」との感想。

「おとこの台所」グループ代表の名取順一さんからは、「都市と地方との交流が大事であり、今回の狙いは良かったと思います。子供達に新鮮な農産物を食べてもらうのは最高だと思います。集落の方とも料理をしながら話ができて、その人柄が素晴らしく、機会があれば是非訪れてみたいと感じました」との感想をいただきました。

問題意識と今後へ

今回は、従来の都市-地方の概念にありがちな「都市が地方を支援する」関係性ではなく、「地方が都市を支援する」新たな形を模索する、地方創生の実験的な取り組みとして行いました。

これまでの地方と都市との関係は、地方から見ると、「テイク・アンド・テイク」が多かったように思います。「補助金ください、交付金ください。支援がなければやっていけません」という具合です。実際に地方交付金がなければ、地域は経済的に成り立ちませんから、そういう側面は強いのだと思います。

しかし、その「テイク・アンド・テイク」の関係性から、「テイク・アンド・ギブ」も少し出てきました。たとえば、今多くの自治体が「ふるさと納税」のしくみを活用して、「ふるさと納税してくれたら、地域の特産品などを送ります」として、資金を集めています。「与えてくれたら出す」です。(ふるさと納税については来月のニュースレター記事で紹介します)

今回の水増集落の取り組みは、「ギブ」だけです。「水増の豊かな農作物を東京のこどもたち、皆さんに食べていただきたい」。「よかったら、そのうち遊びに来てくださいね」と添えるだけです。通常は与えられる対象である限界集落であっても、「テイク」から入らないこの関係性は非常に大事ではないかと思っています。

いくつか地域にかかわって、地方創生のお手伝いをしたり、そういった取り組みを取材している中で、地方創生の取り組みがうまくいっている地域には、いくつかの共通点があると感じています。

その1つは、「頼るのではなく、自分たちで立つ」気概と取り組み。そのために、食やエネルギーなどを含め、いろいろな意味での外部依存度を下げる。おそらくその結果でもあるのでしょう、自分たちの取り組みや地域に誇りと主体性を持っていることも共通点の1つです。「自分たちの手綱は自分で握っている、自分たちで決めていくんだ」と。水増も、まさにそういう地域ではないかと思います。

今後を考えたときに、私の最大の問題意識は「東京創生」です。いまは地方の疲弊や消滅が問題視されていますが、今後は都市の問題のほうが大きくなるでしょう。東京は、おそらく、2020年の東京オリンピックまでは何とかもつでしょう。しかし、2020年後の盛り上がった後の落ち込みは大きくなるでしょうし、人口の高齢化も、地方に比べると、すさまじい勢いで進むことが予測されています。

東京をはじめとする都市をどうやって持たせるのか、再生するのか、創生するのかーーこれは非常に重要な課題です。首都圏に住む私たちは、現在地方創生がうまくいっている地域や、素晴らしい取り組みをしている田舎から学んでいかねばなりません。

また、今回は、平均年齢72歳の集落の方々から、定年退職後のおとこの台所チーム、子育て世代のお母さんたち、学生たち、そして、小学生や幼稚園・保育園のこどもたちまで、世代を超えた共創の場となりました。このような多世代共創の場をどのように作っていけるか、続けていけるかも考えていくべき課題です。

今回は1回限りとしての開催でしたが、さっそく、「これを機に、世田谷のこどもたちが、夏休みに水増に遊びに行けたらいいね」「おとこの台所チームが、食材を探しに水増にいけたらいいね」などと、次の展開につながりそうな会話が広がっています。

研究室でも今回の取り組みを、横展開可能な形にして伝えることで、他の大学と他の地域、他の都市と他の地域など、いろいろなつながりづくりを通して、あちこちの地域を応援していけたらと思っています。

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枝廣淳子
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