ニュースレター

2016年04月21日

 

こども食堂――こどもたちに暖かい食事と居場所を提供する取り組み

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JFS ニュースレター No.163 (2016年3月号)

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必要な人に食べ物を届けようという取り組みは、発展途上国でも先進国でも行なわれています。例えば、食品が廃棄処分される前に食べ物に困っている施設や人に届けるフードバンクは、米国やヨーロッパを中心に広がっていますし、日本でも取り組む地域のネットワークができるなど、動きが出てきています。最近、日本で広がってきた取り組みの1つが「こども食堂」です。こども食堂とはどのような取り組みなのでしょうか。今月号のJFSニュースレターでは、こども食堂について、この取り組みが広がりつつある背景とともにお伝えします。

こどもの6人に1人は貧困:格差が広がりつつある日本の状況

2012年度版の厚生労働白書によると、こども(17歳以下)の相対的貧困率は16.3%、なんと6人に1人のこどもが貧困の状態にあります。

※「相対的貧困率」とは、先進国の貧困を表す時によく使われる言葉です。これは、国民の所得の中央値(所得の低い額から順番に並べたときにちょうど真ん中の額)の半分未満の所得しかない人々の割合を示しています。なお、発展途上国の貧困を表す時に使われるのは「絶対的貧困」です。これは、収入や支出がある基準に達していない状態を指します。例えば、世界銀行は2008年に、1日あたり1.25ドル未満で暮らしている人びとが貧困にあたるという基準を設定しています。

日本は、1970年代に「一億総中流」という言葉が流行するなど、経済格差の小さい国であると長い間考えられてきました。たしかに、不平等や格差を表すジニ係数をみても、1970年ごろは、格差が非常に小さかったことが分かります。しかし、その後、格差は徐々に拡大し、現在ではOECDの平均よりもジニ係数が大きい(格差が大きい)国となっています。

図:所得格差の傾向、ジニ係数
出典:OECD『格差縮小に向けて 日本カントリーノート』より作成

※ジニ係数とは不平等さを表す係数で、主に社会における所得分布の格差を測る指標として用いられます。ジニ係数は0から1の間の値をとり、0に近いほど格差が小さく、1に近いほど格差が大きくなります。

そして、格差が広がる中で、貧困も大きな問題になっています。OECDのFactbook2010によると、OECD加盟国のうち、日本の相対的貧困率は4番目に高いのです。中でも深刻なのが、母子家庭の貧困問題です。2011年のデータによると、児童のいる世帯の平均所得金額が697万円であるのに対して、母子家庭の手当を含めた平均年間収入は291万円でした(厚生労働省の全国母子世帯等調査より)。こどもをめぐる貧困は、社会的な問題になっています。

こどもの貧困への取り組み

こどもの貧困は、生活の大変さから学習する機会を十分に得られず、それが将来の格差につながるなど、長期間にわたり影響を及ぼす可能性があります。政府も2014年に「こどもの貧困対策推進法」を施行し、教育、生活、就労などの支援を進めていますが、その取り組みはまだ十分とはいえません。

またこどもの貧困では食の問題も深刻です。親が夕食時も働いているために、夕食はお菓子やコンビニ弁当を一人で食べているこどもたちがいます。こうしたこどもたちは学校の給食でしか十分な栄養をとっていないことも多く、夏休みなどの長期休暇の後は痩せているこどもがいるといった声も教育現場からあがっています。中には、給食費を払えないという深刻なケースもあります。

こうしたこどもをめぐる食の問題を解決しようという草の根の取り組みが、「こども食堂」です。

こども食堂とは

「こども食堂」は、こどもたちに無料またはわずかな参加費で食事を提供する取り組みです。食堂といっても、毎日営業しているレストランとは異なり、月に1~2回程度、ボランティアによって運営されていることがほとんどです。食材も、多くが寄付によってまかなわれています。利用者は、経済的に苦しい家庭のこどものほか、共働きで食事の支度をする余裕のない家庭のこどもなど、さまざまです。

例えば、あるこども食堂は、毎月、第一と第三水曜日の17:30から19:30まで開催されていて、誰でも300円で夕食を取ることができます。また、他の例では、月曜日の18:00から20:00まで開催されており、こどもは無料、大人は300円で食事を取ることができます。

こども食堂への関心は、ここ1~2年で急速に高まり、新聞でも「〇〇地域でこども食堂がオープン」という記事をよく見かけます。また「自分でこども食堂を始めたい」という人も多く、2016年1月に開催された2回目の「こども食堂サミット」では、200人の定員が事前に満員になってしまうほどの関心の高さでした。

さまざまなタイプのこども食堂

一口に「こども食堂」といっても、どのこども食堂もとても個性的であり、また、食事を提供する以外に色々な役割を担っています。例えば、多くのこども食堂では、食べ物だけではなく、「こどもの居場所」も提供しています。こどもたちは食事の前後に、勉強したり、遊んだりすることができるのです。「居場所をつくる」ことを重視した取り組みでは、「こども食堂」という言葉を使わず、年齢、国籍を問わず、さまざまな人が来やすいように工夫しているところもあります。また親が一緒に参加することで、子育ての悩みを聞いてもらう場にもなり得ます。

開催場所も、お店、個人宅、あるいはお寺などさまざまです。個人宅で開催する場合には、調理施設が十分ではない、大きな鍋がないといった問題も生じることがあります。その点、多くのお寺には広い厨房があり、大きなお鍋やお皿も揃っています。こどもたちが遊ぶ場所も十分にあることから、開催しやすいかもしれません。

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また、料理の作り手という観点でユニークな事例として、「仕事を引退した男性」が中心というこども食堂もあります。最近こそ「イクメン」という言葉が流行るなど、日本でも育児をする男性は珍しくありません。でも日本の男性は、若い頃は仕事に忙しく、子育てや地域の活動には積極的に関われない人も多いのが現状です。そうした男性がこども食堂の運営に関われば、こどもとの関わり合いはもちろん、地域との関わりも持つことができます。

また高齢者のお宅を会場としたこども食堂では、お年寄りとこどもがふれあう機会にもなります。こどもにも食事作りに関わってもらうことで、こどもが自分自身で食事を作れることを目指しているこども食堂もあります。

このように考えると、こども食堂には、社会や地域の問題を解決するさまざまな可能性があるのです。また徐々にですが、最近では、自治体がこども食堂を支援する動きも見られます。

こども食堂を運営するにあたっての苦労

このような広がりを見せるこども食堂ですが、始めるにあたっては苦労も多いそうです。一番大きな問題は、支援が必要なこどもたちが来てくれるようになるには時間がかかることです。初めはこどもが1~2組で、あとは全部大人のボランティアや見学者で「大人食堂という名前の方が適切では?」という状態になることも多いようです。でも、定期的に開催を続けることで、口コミやSNSなどを通じて、少しずつこどもが来るようになるとのことでした。

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スタッフライター 新津尚子

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