ニュースレター

2017年08月22日

 

公害の経験を活かし、持続可能な社会に貢献

Keywords:  ニュースレター  3R・廃棄物  エコ・ソーシャルビジネス  市民社会・地域 

 

JFS ニュースレター No.179 (2017年7月号)

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北九州市は、日本列島の西端、九州の最北端に位置し、近代以降日本有数の重工業地帯として、また国際貿易港として発展を遂げています。その一方で、1960年代には、工場廃水やばい煙による公害問題が深刻化したため、市と企業、市民が一体となり、懸命に取り組みました。さらに低炭素化社会の実現に向けた取り組みも推進し、北九州市は2008年7月、国から環境モデル都市に選定され、2011年12月には環境未来都市にも選定。その過程で蓄積された公害防止技術や3Rへの取り組みのノウハウ、省エネルギー技術等は同市の大きな財産となっています。

JFS ニュースレター No.80(2009年4月号)
「環境モデル都市」の取り組み事例 その2
http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id029001.html

これらの財産を海外にも展開することで、悪化の進む地球環境の保全と持続可能な社会の発展に貢献すべく、北九州市では2010年6月にアジア低炭素センターを開設しました。今月号のニュースレターでは、環境ビジネスの手法を活用してアジアの低炭素化を推進する北九州市の取り組みをお伝えします。

北九州モデル

北九州市には「エコタウン」という事業があります。9つの研究施設と25のリサイクル事業をもち、あらゆる廃棄物を他の産業分野の原料として活用し、最終的に廃棄物をゼロにすること(ゼロ・エミッション)を目指す、資源循環型社会の構築を図る事業です。「北九州エコタウンプラン実施計画」を策定して、基本的な取り組みの方向を定め、環境政策と産業振興政策を統合した独自の地域政策を展開しています。以下の4つの特徴があります。

  1. リサイクル事業成立のための社会システムの確立
  2. 基礎研究・技術開発・事業化に至る「総合的展開」
  3. 廃棄物の広域的な受入
  4. 情報公開と環境学習の拠点

北九州市では、エコタウン事業の取り組みをはじめとした、都市環境行政のノウハウ等を体系的に整理した「北九州モデル」を策定。新興国のニーズに合わせた持続可能な都市づくりのマスタープランを提案し、グリーンシティ(環境配慮型都市)の輸出を推進しています。

2011年12月、北九州市とお隣の福岡市は国の「グリーンアジア国際戦略総合特区」に指定されました。官民が連携し、今まで培ってきた環境技術と社会システムをパッケージ化して、アジアの諸都市に提供。アジアの活力を取り込むことで、グリーンイノベーションをアジアから世界に展開する拠点となることを目指します。目標として、2020年までに約5兆円の追加売上を掲げており、国の目標の50兆円超の約1割を占めています。

JFSでは、北九州が行っているアジアでの環境配慮型都市づくり支援の取り組みについて、ニュース記事でご紹介しています。


環境配慮型都市づくりのノウハウを体系化「北九州モデル」を3か国語で発信(2013年11月20日)
http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id034460.html

北九州市が開設し運営に関わるアジア低炭素化センターは2013年9月3日、同市の経験に基づく環境配慮型都市づくりのためのノウハウを体系的に整理した「北九州モデル」を作成したことを公表した。都市の発展や低炭素社会づくりに役立つアジア型都市開発モデルとして、このような方法論の作成は日本初。

同モデルは、廃棄物管理、エネルギー管理、上下水管理、環境保全の4つの環境分野を統合した街づくりのノウハウのほか、リサイクル工場を集積させた「北九州エコタウン」等の実例を紹介するケーススタディや、マスタープラン作成に役立つチェックリスト等のツールキットを含む。日本語、英語、中国語の3か国語で作成され、それぞれインターネットに掲載されている。

同市は新成長戦略のリーディングプロジェクトの一つとして、「アジアに貢献する都市インフラビジネスの展開」を位置づけており、環境姉妹都市・スラバヤ市、友好協力協定を締結しているハイフォン市などを対象に、「北九州モデル」を活用し、マスタープランの策定段階から参画することで、パッケージ型都市環境インフラの海外輸出を促進するとしている。


北九州市 アジアで環境配慮型都市づくり支援を通じ企業の海外展開促進(2014年5月23日)
http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id034912.html

北九州市が2010年6月に開設したアジア低炭素化センターでは、アジアなど新興国の環境配慮型都市づくりを支援するため同市のノウハウを体系化した「北九州モデル」を生かしながら、海外展開を図る市内民間企業等を積極的に支援。国等の支援制度の活用や企業への助成等を通じて、企業と連携してプロジェクトを実施している。

2013年度末の活動実績によると、これまで、国等の資金を活用した調査等は50件、約26億円、市の助成は8件、約3100万円。分野別では廃棄物管理・リサイクル(16件)、上下水(19件)、エネルギー(7件)、温暖化対策(5件)、まちづくり(3件)等、対象国ではインドネシア(18件)、中国(11件)、ベトナム(8件)、カンボジア(9件)等となっている。

同センターがプロジェクトを支援している企業は65社、これまでに4社がビジネス展開を果たした。同市は、地方自治体の先駆けとして環境インフラ輸出に注力しており、マスタープラン策定の上流段階から参入することで、企業が持つ技術力を活かしたまちづくりを提案でき、ビジネス展開しやすい環境の整備が可能となるとしている。


環境国際ビジネス事例

北九州市は、具体的にはどのようにアジアでの環境配慮型都市づくり支援の取り組みを行っているのでしょうか? 2つの都市での取り組み事例をご紹介します。

1)インドネシア・スラバヤ

北九州市とインドネシア・スラバヤ市は、1997年のアジア環境協力都市ネットワーク構築時から連携を図っています。2002年には国際協力銀行の支援のもと廃棄物に関する調査を実施し、廃棄物リサイクル事業に取り組みました。

廃棄物全体の5割を占める有機ゴミに注目したJ-POWERグループ株式会社は、市民参加型のコンポスト事業を進めました。その結果、スラバヤ市の廃棄物量が32%削減されるとともに、市民の環境意識に変化が生じています。

スラバヤ市では、1日に1,200トンの家庭ごみを直接最終処分場に埋め立て処分している、という状況がありました。これを改善するため、西原商事はリサイクル施設を導入し、有価物、有機ごみ、異物の選別を実施。有価物は資源回収業者へ販売、有機ごみはたい肥化、異物は石炭代替燃料に加工するなど、廃棄物リサイクルの事業化を進めました。その結果、埋め立て処分量は4分の1になったのです。

このほかにも、北九州市の複数の企業が、コジェネレーション・省エネ事業や飲料水供給事業、環境衛生事業に取り組んでいます。

北九州市とスラバヤ市は友好関係を深め、2012年には環境姉妹都市提携を締結しました。現在はグリーン・ローカーボンの視点から、社会制度の構築や市民意識の変革などの施策も盛り込んだ総合的なまちづくりを行っています。

2)マレーシア・フレーザーヒル

マレーシアを代表する観光地であるフレーザーヒルでは、処分場の残余容量逼迫と50キロメートル離れた山麓にある処分場への輸送負担、地下水汚染が問題となっており、対策を急ぐ必要がある状況でした。

北九州市のひびき灘開発株式会社、楽しい株式会社、北九州市環境整備協会はJICA草の根技術協力事業と連携。マレーシア国固形廃棄物管理公社等へのコンサルティングを通じて、廃棄物管理能力向上を支援しました。

この活動により、資源ごみの分別収集・リサイクルシステム、事業系生ごみの分別収集・コンポスト化システムを構築。旧処分場の環境汚染状況調査を実施して環境汚染防止ガイドラインを作成するとともに、現処分場の延命化対策を提案することで、現地職員の理解向上や意識の大きな変化にもつながっています。

環境国際協力・ビジネスの方向性

北九州市では、アジアでの環境配慮型都市づくり支援を行うにあたり、政府や国際機関と連携して段階を踏みながら、環境国際協力からビジネスへの展開を図っています。現地の人に喜ばれる、先例にとらわれないその地域に合ったプロセスで、関係構築、ビジネスモデル調整、事業化を進め、WIN-WINの実現を目指しているのです。

こうした丁寧な取り組みを進めることで、北九州市にとっては市内企業を中心に海外でのビジネス展開により地域の活性化につながり、アジア諸国にとってはCO2削減と同時に汚染の緩和や生活の質の向上につながります。それが、アジアの都市と北九州市、そして世界の持続可能な社会づくりに資することと思います。

スタッフライター 久米由佳

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