ニュースレター

2014年01月03日

 

市民農園ぞくぞく開設、都会暮らしのなかで農業への関心高まる

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JFS ニュースレター No.136 (2013年12月号)

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カロリーベースの食料自給率は40%と低い日本ですが、近年、市民の農業への関心が高まっています。今回は市民農園をめぐる動きをお伝えします。

特に、都市住民が土とふれあうなど、レクリエーションの場としての市民農園に対するニーズの増加に伴って、市民農園の開設数が年々増加しています。農林水産省によると、特定農地貸付法および市民農園整備促進法に基づいて開設されている市民農園の数は、1993年3月31日には691だったのが、2012年3月31日には3,968にまで増え、20年間で6倍近くの増加となりました。

近年、都市住民と農村の交流やレクリエーション等の余暇活動として行う農作物の栽培、農作業を通じた教育、障害者や高齢者に対する効果などへの関心が高まっており、農林水産省でも都市と農村の交流を推奨しています。同省は、2002年に「食」と「農」の再生プランを発表し、「都市と農山漁村の共生・対流」を重要な施策と位置づけるとともに、農山漁村の各種資源の最大限の活用、都市と農山漁村で交流できるライフスタイルの実現に取り組んできました。

2003年4月には構造改革特別区域法が施行され、農地の遊休化が深刻な問題となっている地域には特定農地貸付法等の特例措置を講じ、市民農園の開設を促しています。その後、小面積の農地を利用して野菜や花を育てたい人が増えてきたことから、構造改革特区を全国展開することとなり、2005年9月1日には改正特定農地貸付法の施行によって、自治体、農協、個人など多様な人々が市民農園を開設できるようになりました。2006年3月には市民農園で栽培された農作物の販売も問題ではないという考え方を示すなど、開設にあたって積極的な姿勢をとっています。

市民農園の形態としては、都市の住民が自宅から通って利用する日帰り型の市民農園と、農村に滞在しながら農園を利用する滞在型の市民農園(クラインガルテン)があるほか、教育的な機能や医療上の効果を期待して、学校法人や福祉法人が農業体験や園芸療法のための学童農園・福祉農園を開設する例もみられます。

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おぢやクラインガルテン ふれあいの里
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日帰り型市民農園には、健康づくりや子供の情操教育のために農的暮らしを求めるニーズの高まりに応えるべく、農家が個人で開設しているところもあれば、社員の家族のふれあいの場を提供するとともに農業への理解を深めることを目的として、民間の企業が開設しているところも多くみられます。

土や自然とふれあって野菜や草花を栽培することで明るく健康な家庭づくりに役立ててもらおうと、体験学習や余暇活動の場としての活用をうたっているところや、プランターの高さが57cm~67cmの間で変えられる身体障害者用の区画を設けているところもあるなど、それぞれに特徴がみられます。利用者同士の交流の場として休憩所や調理室を備えているところや、農園近くの温泉施設が格安で利用できるプランを備えたところもあり、レジャー施設としての人気も高まっています。
http://www.maff.go.jp/j/nousin/nougyou/simin_noen/s_zirei/higaeri.html

多くの農園では、はじめて農作業をする人にも安心して楽しんでもらえるようにとの配慮から、作業に必要な農具も貸し出し、野菜づくりに詳しいスタッフがサポートしてくれるなど、さまざまな工夫がされています。JFSでもこれまでに何度かご紹介した体験農園「マイファーム」(http://myfarmer.jp/)では、利用者の80%以上が初心者ということで、事前見学ができるようになっており、実際に畑での様子を見ながら疑問に思うことや不安に感じていることなどを相談する人も見受けられます。

マイファームでは、有機無農薬栽培、自然栽培を基本としており、「土に種をまき、水をやり、肥料をあげて収穫をする。栽培の一連の流れを自分の手で体験すると、野菜はみな同じ姿や色をしているのが当たり前ではないことや、様々な味わいがあることも分かる。何よりも、もぎたての味わいの豊かさを知ることができる」として、「これからの未来のために、みんなに知ってもらいたい、考えてもらいたい」とコメントしています。

まちに残る空きスペースを利用して誰でも野菜づくりを手軽に楽しめるようにしたいとの発想から生まれた市民農園もあります。東京タワー近くの森虎農園を開設する東邦レオの「まちなか菜園」です。
http://www.machinaka-saien.jp/farm/moritora/

ここでは、「都市の新たなライフスタイル」を提案、「無理せずよりみち感覚で楽しめる『じぶん農園』」で野菜を育て、「ココロとカラダも健康に!」をモットーとしています。種苗、菜園道具、肥料、薬剤、支柱などの基本資材は全て用意されており、収穫後にはBBQも楽しめます。男女別のロッカールームも備えており、仕事帰りにスーツで農園に向かえるところも都心ならではといえるでしょう。

このように、ゆとりとやすらぎの場として広く活用されている市民農園ですが、なかでも最近、急増しているのが、都心のビルやマンションの屋上を利用した屋上菜園です。

JR東日本が主宰する「ソラドファーム」は、23区内の恵比寿駅・荻窪駅及び関東エリアの駅に直結する駅ビル屋上や、隣接する場所に設けた会員制の貸し菜園です。収穫祭や栽培レクチャーなどのイベントを開催し、会員同士の交流等情報交換が盛んに行われています。レクチャーは初心者に人気があり、ふだんはスタッフが菜園のメンテナンスを行ってくれるので、きちんと手入れをしながら植物を育てることができます。
http://www.soradofarm.com/

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小田急電鉄が開設する貸し菜園「アグリス成城」は、野菜づくりははじめてという会員がほとんどで、「安心して野菜づくりを楽しめる貸し菜園」を目指し、カルチャースクールやフラワーショップを併設しています。利用者からは、「常駐のスタッフがいらっしゃるし、初めての私でも安心」「家族みんなでつくった野菜はとても美味しいし、農薬を使わないで作った野菜なので安心して食べることができます」「グループでお互いの進捗状況を確認しながら講義と実技の両方を体験できるので安心でした」「仲間も増えるし、色んなことが学べる」との声が寄せられています。
http://www.agris-seijo.jp/

他にない特徴を前面に打ち出す貸し農園も増えてきました。ダイバーシティ東京プラザの屋上で展開する「都会の農園」は、東京ベイエリアの景色を臨みながら、野菜や果物の栽培が楽しめます。この農園の特色は、酒米をアイガモ農法で栽培していること。収穫した酒米で酒仕込みをし、お台場産の純米酒として試飲会も行われています。
http://www.city-farm.jp/

また、アーツ千代田の屋上菜園は、東京の新たなアート拠点として「3331 ArtsChiyoda」の屋上に誕生したオーガニック菜園です。化学肥料等を使用せずに野菜やハーブを育て、月に1回のペースでオーガニック菜園の専門家によるレクチャーを開き、週に2回はスタッフによる定期的な水やりのサービスが受けられます。
http://www.3331.jp/farm/

植物を育てる楽しみ、心待ちにしていた収穫、自分で育てた野菜や果物をいただく喜び、旬の野菜が食卓に並ぶうれしさ。日本での都市型農園の広がりから、お金でモノを買うのではなく、こうした自然や人とのふれあい、手を動かすこと、土に触れることから、幸せを感じる人が増えてきていることがわかります。

世界には、都市に供給するための農作物を栽培する農地が都市の周辺に広がっているところもたくさんありますが、これまでの日本は、「都市」と「農村」が分離されてきました。都市の中に農園を作ろうという動きは、都市や日本の食糧自給に向けてはささやかな歩みですが、人々の幸せ観の変化とともに、これからも広がっていくことでしょう。

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(スタッフライター・飯島和子、枝廣淳子)

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