ニュースレター

2018年01月12日

 

100%再生可能エネルギー達成に向けて

Keywords:  ニュースレター  再生可能エネルギー 

 

JFS ニュースレター No.184 (2017年12月号)

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イメージ画像:Photo by BlackRockSolar Some Rights Reserved.

東京都市大学ISO学生委員会は2017年10月28日、第19回環境ISOフォーラムを開催しました。このフォーラムは年1回開催されるもので、東京都市大学横浜キャンパスにおけるISO14001に係る活動を報告する場で、情報共有に加え学生の環境意識を向上することも目指しています。

今回のフォーラムでは、認定NPO法人環境エネルギー政策研究所(ISEP)主席研究員・松原弘直氏が、学生に向けて「国内外の自然エネルギー最新動向 ~100%自然エネルギーに向かう世界と地域~」と題した講演を行いました。

今月号のニュースレターでは、松原氏の講演内容を要約し、100%自然エネルギー(再生可能エネルギー:以下、再エネ)達成に向かう、最新の動きをお伝えします。


パリ協定と世界の再エネ動向

これだけ大勢の学生さんの前で話すのは久しぶりです。再エネの動きに興味を持つ若い人が、こうやってどんどん増えてくれると、本当に嬉しいと思います。今日は、世界そして日本国内でどれだけ再エネが普及を始めているか、100%再エネの世界に向かっているんだ、という希望のある話をしたいと思います。

最初に「なぜ再エネなのか」という根本的なところをお話します。気候変動の問題とエネルギー問題は複雑に絡み合っていますが、その中で重要な役割を果たしつつあるのが再エネです。

皆さんもご存知のように、気候変動を引き起こしている主な原因は、化石燃料の利用により排出される温室効果ガスです。世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して2℃未満に抑えるためには、温室効果ガスの排出量を2050年に1990年比で半減させることが求められます。「気温上昇1.5℃未満を視野に入れ2℃未満に止める」としたパリ協定が2015年12月に採択、2016年11月に発効されました。

このことは、非常に重要な2つの意味を持っています。ひとつは、再エネの普及が世界中で可能になったことが、明確に意識されたということです。もうひとつは、長期的見通しの中で2050年以降、温室効果ガスの排出量を実質0にしなければならないと言われたことにより、エネルギーの主役は再エネにならざるを得なくなりました。100%再エネの実現が、強く意識されたのです。

実際に、600人以上の都市・地域リーダーや110以上の企業が、100%再エネへの転換を宣言するという動きが出てきています。やや出足は遅れたものの、この動きに日本の企業も参加し始めています。こういった動きを加速させようと国際的な再エネ関連NGOが協働して2017年5月、世界100%再エネプラットフォームを設立しました。自治体では、100%再エネを目指す都市・地域ネットワークに、11の都市が参加(2017年3月現在)するという動きが出てきており、注目しています。

では次に、世界ではどれくらい再エネが導入されているかについてお話します。風力発電は1990年代から導入され始め、2000年代に入ってから徐々に増え出し、これまでの累積導入量は約500GWになります。これは原発500基分に相当します。一方、太陽光発電が増え始めたのは約10年前です。累積導入量は約300GW、風力発電を上回る速度で増加しています。

REN21が2017年6月7日に発表した『自然エネルギー世界白書』によると、再エネ市場への投資額は、2004年の約450億ドルから、2015年には約3100億ドルと順調に伸びていたのですが、2016年は前年比23%減の約2400億ドルに減少しました。なぜ減った? と最初は不思議に思ったのですが、理由がありました。太陽光発電の導入コストが急速に下がっているのです。再エネは、導入量が増えても投資額が減るという状況まできています。

再エネの発電コストは、どうなっているでしょう? 陸上風力や水力、地熱発電は化石燃料を使った火力発電と同等のレベルにあります。太陽光も条件が良いものは、火力と同等レベルに下がってきています。洋上風力もコストが下がってきている等、将来的には再エネの発電コストは、火力と同等あるいはそれ以下にできるのではないかという見通しが立ってきています。

日本における100%再エネへの道

100%再エネに向かうためにはどうすれば良いか? 結局こういうことになります。化石燃料や原子力を使った持続可能でないエネルギーは、少しずつ減らさなければなりません。エネルギーを使う量を減らすことと、再エネを増やすことで挟み撃ちをしていくと、将来的には100%再エネになります。

再エネを普及させるためには、政策目標が大事です。ヨーロッパ各国では2020年に電力の再エネ比率30%前後あるいはそれを上回る、という目標値を設定し、すでに達成している国もありますし、そうでない国も目標に向けて伸ばしています。これに対し日本が掲げている目標は、2030年に24%程度です。ヨーロッパに比べると10年遅れており、この遅れをどうやって取り戻すかが問われています。

日本の2011年以降の状況を見ると、原子力は急激に減少し、化石燃料は一旦増えた後減少に転じ、再エネは増えています。その結果、CO2排出量が減少傾向を見せている一方でGDPが増加するという、いわゆるデカップリングが始まったのでは、と期待できる数字が見えてきました。こうした現象は、ドイツをはじめヨーロッパでは当たり前になっています。

日本では2030年のエネルギーミックスについて、再エネと原子力をあわせた非化石電源比率を44%にするとしています。その中で原子力の比率を20~22%としていますが、リスクが大きいこともあって原発再稼動が進まない現状を踏まえ、再エネ比率を上げて目標を達成すれば良いのではないかという声が出てきています。現に、太陽光発電の導入が進んでいる九州電力エリアでは、原発の電力はエリア内では不要ということで、エリア外に供給されているという状況もあります。

このように再エネへの転換が進む一方で、空き容量が無いために、新たに再エネ設備を作っても接続できないという問題が出てきました。そういった状況を少しでも改善しようと、地域で分かれている電力会社の枠を超えて広域で電力融通の調整をしよう、ということで電力広域的運営推進機関ができています。

また、電力自由化になり、利用者が電力会社を選べるようになったのですが、電源構成の情報公開が義務化されていないため、再エネ電力を欲しいと思っても電気の中身がわからない状況もあります。そこで、再エネをなるべく取り入れようという電力会社をウェブサイト等で紹介し、それに切り替えていこうという、パワーシフト・キャンペーンが行われています。

地域・個人の役割

100%再エネを目指す動きの中で重要なのは、地域が主体となることです。地域での社会的な合意形成や収益を地域にできるだけ還元するために、地域経済効果も大事になってきます。自治体としても再エネを推進しようということで、条例がつくられてきています。大規模な再エネ開発として、大きな太陽光発電施設が森林を切り開いてつくられてしまうような事例もあり、それは問題だということで、事前に調整するためのガイドラインやゾーニング制度もつくり始められています。合意形成や持続可能性が、再エネの世界でも重要だということです。

2014年5月、地域が主体となって再エネを推進する「コミュニティパワー事業」を通じて持続可能な地域社会を創ることを目指し、全国ご当地エネルギー協会というネットワークが立ち上げられました。国際会議ということで、第1回世界ご当地エネルギー会議を2016年に福島で開催し、これを世界に広げていこうとしています。2018年には、アフリカで第2回の会議が開催される予定です。

最後に、100%再エネを実現するために一人ひとりができることをまとめ、講演の締めくくりとします。

知ること

  • 気候変動のリスクを知る
  • 原発の制約とリスクを知る
  • 化石燃料の制約を知る
  • 自然エネルギーの可能性を知る
  • 省エネルギーのメリットを知る

参加すること

  • セミナーやシンポジウムに参加する
  • NGOのサポータや会員になる
  • ボランティア活動に参加する
  • 地域の活動に参加する
  • 選挙などを通じて政治に参加する

考えること

  • 持続可能な社会について考える
  • 次世代のことを考える
  • 未来のエネルギーのビジョンを考える
  • 省エネルギーの方法を考える
  • 自然エネルギーの増やし方を考える
  • エネルギーの選び方を考える

実行すること

  • 省エネルギーを実践する
  • CO2排出量を8割減らす
  • 自然エネルギーを選択する
  • 自然エネルギーを導入する
  • 消費者として企業を選ぶ
  • 政党や政治家を選ぶ

今日は再エネの現状と未来についてお話させていただきましたが、皆さんにとっての未来は見えてきましたでしょうか? 皆さんがこれから進む道の中で、再エネは大きな役割を果たすはずです。是非、何らかの関わりをもって主体的に考えていただければと思います。

(編集:スタッフライター 田辺伸広)

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