2017年12月28日
Keywords: ニュースレター 市民社会・地域 教育 生態系・生物多様性
JFS ニュースレター No.184 (2017年12月号)
Copyright 2017 NPO法人 森の生活 All Rights Reserved.
前号でお伝えしたように、地元の森林を基盤に、産業振興と地域エネルギー供給を進める北海道の下川町では、長年にわたる取り組みが実を結び、2014年からは、先人が植えた木を伐採し、そこに植林をする「循環型森林経営」ができるようになり、持続可能な森林経営が実現しています。その基盤の上に、新しい産業が興り、移住者も増えています。
下川町にとって、森林は、産業とお金と地元のためのエネルギーを生み出し、移住者を惹きつける大切な資源なのです。この大切な森林資源を守りつづけるために、下川町では森林教育にも力を入れています。今号では、下川町で行われている、幼児から高校生まで、15年間の総合的な森林環境教育について、お伝えしましょう。
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下川町の森林環境教育は、2006年度にNPO法人森の生活が、幼児センターを対象に、森のあそびを実施したことからスタートしました。その後、2007年度には、下川町役場が独自に町内の小・中・高校に対し森林体験プログラムを実施するようになり、2009年度からは、より体系的で理解しやすいプログラムを実施するために、これらを森林環境教育として統一し、取り組むようになりました。こうして、町内の幼児センターから高校までの一貫した森林環境教育プログラムが行われるようになったのです。
2009年度より、NPO法人森の生活がコーディネーターとなり、下川町から事業委託を受けて実施しています。森の生活の報告書から、プログラムの内容についてお伝えします。
下川町では、森林環境教育の目標として、以下の3つを掲げています。
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幼児センターではほぼ月に1回、 小学生から高校生までは、年に1度、森林環境教育が行われています。小・中学校では、教室での事前授業から、実際に森に行ってのプログラム、最後に教室での事後授業という流れで、数日かけて授業に組み込んで行います。高校については、学校林を活用する等して、さらに発展的な森林環境教育に取り組んでいます。
プログラム内容は、森林環境教育プログラムLEAFに基づいて、企画・実施されています。LEAFとは、北欧発祥の森林環境教育プログラムで、現在26カ国で取り組まれており、日本ではNPO法人FEE Japanが活動を推進しています。
LEAFでは、人間が持続可能な生活を送る上で、森林が重要な役割を担っていることを子どもたちに知ってもらい、学んでもらうことをビジョンとして掲げています。プログラムは、活動を中心とした参加型で、実践的な方法を取り、多層的・複層的に森林を知ることができるよう、文化的、生態学的、経済的、社会的な森林の役割について考えさせる内容を目指し、"Clever Question, Good Decision"を大切にしています。
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森の生活では、2016年度には、延べ1310人の子どもたちに27プログラムを提供しました。2016年度の実施プログラムを紹介しましょう。LEAFの6つのステップに沿っています。
<STEP1 野外で楽しく遊ぶ> 下川町幼児センター 森の遊び
2016年
4/21:白樺樹液を飲んでみる
5/17:身近な草花を見る
5/19:春の植物を観察し、名前を知る
6/2:春の親子遠足(ヨモギ摘み)
7/21:木の葉や花、野の花を見る
8/25:夏の生き物を探す
9/1:秋の親子遠足(落ち葉や枝集め)
9/15:焼き芋
9/21:どんぐり拾い
10/5:森でドングリ、キノコ、落ち葉探し
12/15:雪を楽しむ、動物の足跡探し
2017年
1/25:(くるみ組のみ)白樺の樹皮でしおり作り(工作)
1/26, 2/9:雪山でソリすべり
3/2:修了式(森のあそびのスライドショー上映、森の妖精から「修了証書」の授与)
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<STEP2 自然を体感して気づく> 下川小学校
1年生 お気に入りの木を見つけよう
2年生 木の図かんをつくろう
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<STEP3 環境のしくみを理解する> 下川小学校
3年生 森林のしくみを調べよう
4年生 森づくりについて学ぼう
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<STEP4 人間と自然の相互作用を理解する> 下川小学校
5年生 木材の活用法について学ぼう
6年生 木材製品と生活について考えよう
<STEP5 環境問題に自分なりの判断を下す> 下川中学校
1年生 「炭焼き学習」オリエンテーション
2年生 森の仕事見学
3年生 今こそ知ろう・探ろう・伝えよう 下川
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<STEP6 未来に対して責任を持つ> 下川商業高校
1年生 下川商業高校x士別翔雲高校キャンパス交流
2年生 森林の経済的価値と下川町の森の仕事
3年生 植樹祭
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イラストにあるように、町のさまざまな場所を活動フィールドとして、実施されています。
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森の生活では、プログラム実施後に先生方へのアンケートを行い、定量的な評価をもとに、プログラムの改善に努めています。また、「下川町森林環境教育関係者打ち合わせ会議」を年2回実施して、森林環境教育の計画・評価・改善のプロセスに関係機関(教育機関・教育委員会·役場)の参画を促し、森林環境教育を協働の体制で進めています。
森の生活・代表理事の麻生翼さんに、子どもたちや親の反応をお聞きしました。以下、麻生さんのお話です。
幼児センターでは、「子どもたちがすごく楽しみにして行く」という親の言葉をよく聞きます。「楽しんで帰ってきました」と。お母さんが子どもと道を歩いていたら、「お母さん、これ食べられるから天ぷらにして」って草を指さしたそうです。ヨモギだったんです。毎年春先に、幼児センターでヨモギを摘むんですよ。ちゃんと見分けられるのですね。
調査したことがあるのですが、「木を切り倒すのを見たことありますか」と子どもに聞くと、通常は3割ぐらいしか「はい」と答えないそうです。でも、下川町だと、8割以上が「はい」と答えます。小学校6年生の女の子が「将来なりたい夢」に、「森林専門官」と書いて、それについて調べて、保護者の前での学校の発表会で発表したということもありました。
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また、うれしかったのは、小学校2年生が、「地域の宝を見つけよう」という授業で、6班に分かれて、それぞれの班で、「下川の宝物って何だろう」と話し合って、それについて調べる、という調べ学習がありました。6グループのうち、3グループぐらいが、「下川の宝物は森」と話し合って調べたそうです。
それで、先生が「森について聞くなら、誰に聞きに行ったらいいだろう?」と聞いたら、「森の生活」と返ってきた、ときいて、すごくうれしかったです。小学生がここまで来てくれて、みんなが考えてきた質問を僕にしてくれました。その質問が面白くてね。「下川に木は何本ありますか」「えー? 何本だろうね」とか(笑)。
子どもたちにとって森が身近なもの、大事なものになっていることが感じられますね。
前号でお伝えしたように、下川町は、町の面積の9割以上を占める森林を持続可能に活用して、産業振興と地元のエネルギー供給をまかなおうとしている、持続可能なまちづくりのお手本の1つです。そして、本号では、そのための「人づくり」もしっかり進めていることをお伝えしました。
今年の11月に、下川中学校で、中学2年生を対象とした「SDGs(持続可能な開発目標)」の授業がありました。生徒は8つのグループに分かれ、2030年に下川町がどんな街になっていてほしいかを考え、17あるSDGsの目標から、町にとって特に大事なものを3つ選んで議論しました。8グループのうち、7グループが目標15(陸上の生態系)を選んだそうです。中学生にもしっかり、森の重要性が根付いていることがわかります。こういう子どもたちが大きくなって、森林を持続可能性の基盤に置きつつ、さらなるまちづくりを展開していくことを楽しみにしています!
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枝廣淳子