ニュースレター

2015年10月30日

 

市民に緑地を! ――神奈川県横浜市の都市農業

Keywords:  ニュースレター  市民社会・地域  食糧 

 

JFS ニュースレター No.158 (2015年10月号)


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神奈川県横浜市は、人口約370万人を有する政令指定都市です。横浜市には、多くの商業施設がある「みなとみらい」地区や中華街など数多くの観光スポットがあります。横浜駅までは東京駅から電車で約30分であることから、横浜市は東京のベッドタウンとしての役割も果たしています。

その一方で、横浜市は農業も盛んです。東京に近い大都市に、なぜ緑がたくさん残っているのでしょうか? その鍵は、横浜市の都市農業政策にありそうです。

2015年8月6日、東京都市大学環境学部(横浜市)主催の市民講座「世界の現状・地元の取り組み~農と食を考える--世界と横浜の都市農業--」が横浜市都筑区役所で開催されました。横浜市の都市農業政策については、横浜市環境創造局みどりアップ推進部農政推進課の丸山知志氏にお話を伺いました。丸山氏の講演内容から、横浜市独自の取り組みを中心にご紹介します。


農業が盛んな横浜市

意外かもしれませんが、横浜市では農業が盛んに行なわれています。野菜・米・果実の栽培、乳牛の飼育などさまざまなタイプの農業が展開されています。ただし、農業人口が多いわけではありません。2010年の段階で、横浜市の人口367万人のうち農業就業人口は6,577人です。農業就業者の割合は全体の1%にも満たない計算になります。それに比べて、広いのが農地面積です。農地面積は3,088ヘクタールと、市域の7.3%を占めています。横浜市は農業が盛んだと言われる理由は、農地面積の割合が大きいためです。


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現在残っている農地のほとんどは調整区域、つまり政策で「残そう」と決めた地域です。たとえば、この会場は港北ニュータウンの中にありますが、このあたりは1950年代まではほとんどが山と農地でした。ニュータウン建設事業が発表されたのは、高度経済成長只中の1965年です。建設事業では、農地の乱開発の防止と都市農業の確立などを基本理念として区画整備が行われました。このような形で政策として農地を守ったことが、現在の都市農業につながっています。

横浜市の野菜生産量は約6万トンで、60~70万人分の野菜を生産しています(2007年の推計)。これは横浜市民約370万人が消費する野菜の6分の1を生産している計算になります。品目としては、小松菜やホウレンソウ、カリフラワー、キャベツ、トマトが盛んに生産されています。その中でも、小松菜は国内トップクラスの生産量を誇っています。

果物も約2,000トンの生産量があり(2007年の推計)、このうち横浜市認定のブランド「浜なし」が1,400トンを占めています。「浜なし」は、農作物直売所などで販売されるため、ほとんど市場には出ていません。その他にも、豚や乳牛、花(パンジー、ニチニチソウなど)も生産されています。

都市農業を支える横浜市独自の取り組み(1): 持続可能な都市農業のために

横浜の農地は農畜産物を供給するだけではなく、緑地も含めた景観とスペースを市民に提供する役割も担っています。横浜市の特徴は大都市でありながら、市民の身近な場所に農地があることです。こうした農地を、横浜市ではオープンスペースとしても捉えているのです。

横浜市では、こうした都市農業を推進するために、今年の2月に「横浜都市農業推進プラン」を策定しました。「横浜都市農業推進プラン」には、2本の柱があります。1つめは「持続できる都市農業を推進すること」、2つめは「市民が身近に農を感じる場をつくる」ことです。

1つめの柱「持続できる都市農業の推進」のための制度に、横浜市が独自に定めている「農業専用地区」があります。これは、農業のための土地を確保することによって都市農業の定着を図るとともに、緑地空間として都市環境を保全し、総合的、計画的に地域農業の振興を図ることを目的としたものです。横浜市の農業専用地区の構想は、国の農業振興地域整備法が制定される前からありました。

たとえば、港北ニュータウンでは、1965年のニュータウン建設事業発表後、1969年にニュータウンの面積2,530ヘクタールのうち、約1割にあたる230ヘクタールの土地が農業専用地区に指定されています。これは農地の乱開発を防止し、都市環境を保全するためで、高度経済成長期に行なわれた事例として全国的にも先進的なものでした。こうして、横浜市では市街化区域(住宅地)の中に市街化調整区域(農地)がモザイク状に入り込んでおり、住宅のすぐ近くに農地があるのです。


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農業専用地区に指定されると、井戸やポンプなどが整備されます。こうした設備によって、今年のように猛暑が続いても植え付けや収穫ができるそうです。農業専用地区は全市域に広がり、現在では、横浜市内で28地区、1,071ヘクタールが指定されています。

都市農業を支える横浜市独自の取り組み(2): 市民が身近に農を感じる場をつくるために

「横浜都市農業推進プラン」の2つめの柱「市民が身近に農を感じる場をつくる」取り組みは、「横浜みどりアップ計画(計画期間:2014年度から2018年度)」として定められています。

「横浜みどりアップ計画」とは、景観や生物多様性の保全などの農地が持つ環境面での役割に着目したものです。具体的には、「農に親しむ取組の推進」(良好な農景観の保全、農とふれあう場作り)と「地産地消の推進」(身近に感じる地産地消の推進、市民や企業と連携した地産地消の展開)が農業施策として定められています。

 
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このうち地産地消の取り組みとして、横浜市では直売が盛んに行われています。さきほどご紹介した通り、横浜市には市街化区域の中に市街化調整区域があります。生産者が消費者の近くに住んでいるために、直売に適しているのです。

旬のとれたての農産物を販売しており、売り手と買い手が「顔の見える関係」にあることからリピート率も高いそうです。「この野菜珍しいけれど、どんな風に食べればいいの?」といったやり取りができることも、直売所の魅力です。農家の出荷先も、以前は市場中心だったのが、直売所に出荷する割合が増えています。直売の野菜を買える所は、直売所のほか、スーパーの地場野菜販売コーナーも含めると、横浜市に概ね1,000箇所あります。


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また農地がない都市部でも、地産地消の取り組みが進められています。横浜といえば、「みなとみらい」地区が有名です。「みなとみらい」には、ほとんど農地はありませんが、消費者はたくさんいます。そこで「みなとみらい農家市場」を毎月第4日曜日に開催しています。朝の6時半くらいから長い列ができるほど人気があります。この他にも、みなとみらい地区のホテルで地場産野菜のフェアを開催するなど、横浜市ではさまざまな形で地産地消の取り組みを進めています。


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横浜市では1960年代から農地を守る政策を実施していたこと、その政策により住宅地のそばに農地があり、地産地消が盛んに行なわれるほか、農地が緑を市民に提供する役割を果たしていることなど、東京に近い大都市の取り組みとして、とても興味深くお話を伺いました。

横浜市では「環境創造局」の中に、都市農業を担当する部門が含まれています。また10年前に環境創造局が発足する前は、「緑政部」が都市農業の保全と振興を担当していたそうです。こうしたところにも、「農地は緑地空間を市民に提供する役割を担っている」という横浜市の都市農業に対する考え方がよく表れているのではないでしょうか。


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(編集:スタッフライター 新津尚子・徳田美涼)

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