ニュースレター

2013年11月12日

 

日本のエネルギーをめぐる現況

Keywords:  ニュースレター  エネルギー政策  原子力  政府 

 

JFS ニュースレター No.134 (2013年10月号)


2011年3月11日の東日本大震災とその後の東京電力福島第一原子力発電所の事故が起きる前の2011年2月時点で、日本には54基の原子力発電所があり、電源構成は原子力31.3%、火力63.1%、水力5.1%、再生可能エネルギー0.5%でした。

東日本大震災の地震と津波によって、福島第一原子力発電所の6基のうち、1~3号機は炉心損傷・冷却機能喪失・建屋損傷を起こし、定期点検中だった4~6号機のうち、4号機も水素爆発を起こして建屋を大きく損傷しました。東京電力の福島第二原発の原発4基、東北電力の有する原発全4基、日本原子力発電の1基も震災によって運転を停止しました

福島第一原発のうち5号機と6号機については、事故直後から廃炉の意向が東電から出されていましたが、今年の9月になって、安倍晋三首相が視察後に廃炉するよう東電に指示し、全6基の廃炉が確実となりました。

5、6号機が再稼働できる可能性はなかったにもかかわらず、すぐに廃炉を決定しなかったのは、引当金不足が原因とみられています。国内全50基を廃炉とした場合、業界全体で4兆4000億円規模の損失が発生するという試算もあり、その場合、東電など電力6社が債務超過に陥ります。これまでは、原発が40年以上稼働するという前提で電力会社が廃炉費用を40年で引き当てる仕組みだったため、原発を早期に廃炉にすると一度に巨額の特別損失が発生し、廃炉費用の引き当て不足が生じやすくなるのです。

そこで経済産業省は、電力会社が原発の廃炉に必要な費用を減価償却費として、原発の運転終了後10年間にわたって処理し、電気料金に算入できる会計制度を導入することとしており、年内にも実施する方向です。これによって電力会社は廃炉の財源を確保しやすくなり、老朽化した原発や安全基準に満たない原発を廃炉しやすくなります。この変更を受けて、福島第一原発の5、6号機の廃炉も確実となったと考えられています。

大震災のあと、原発の稼働状況はどうなったのでしょうか? 日本の原発は13カ月ごとに定期検査を受けることになっており、震災で停止しなかった全国の原発も順次、定期検査のために運転を停止していき、2012年5月には42年ぶりにすべての原発が止まりました。

定期検査が終わった原発も、国民感情や地元不安もあって運転再開ができず、ほとんどが止まったままです。その中で、唯一再稼働された関西電力の大飯原子力発電所3、4号機も、2012年7月に再稼働した後、13カ月ごとの定期検査のため、今年の9月15日に運転を停止し、現在は1年2カ月ぶりに国内のすべての原発の稼働が止まっています。

原発の再稼働には、今年7月に発表された原子力規制委員会の新規制基準への適合性審査が必要です。現時点で6電力会社から14基の原発の審査申請が出され、審査が終わるのを待っている状況です。また、審査合格後、再稼働するには自治体の同意が必要となります。福島原発の事故後、国の防災重点区域が半径30kmに拡大され、関係する自治体が増えたこともあり、自治体の同意を得るのに時間がかかるという見方もあります。どの原発がいつ再稼働するかなどの見通しは立っていません。

原子力規制委員会のウェブサイトはこちらです(汚染水の状況などについても載っています)。
http://www.nsr.go.jp/ (日)
http://www.nsr.go.jp/english/ (英)

震災前は日本の電力の3割強を担ってきた原発が稼働していない状況であるため、電力不足が心配されてきましたが、現在まで停電や計画停電など大きな問題は起きていません。冬には暖房など電力需要が高まりますが、政府はこの冬についても、原発ゼロを前提に電力需給見通しを立て、企業や家庭に節電を要請することで乗り切れるとみています。

「電力供給が需要をまかなえているなら原発はなくてもいいじゃないか」という声もありますが、一方で、原発が停止している間、その代替としてフル稼働している火力発電の燃料費が膨らみ、コスト負担がどんどん大きくなっていくとともに、それだけ二酸化炭素を排出してしまうという問題が生じています。

経産省が発表した2012年度のエネルギー需給実績(速報値)によると、石油や天然ガスなど化石エネルギーへの依存度は92.1%でした。9割を超えたのは、1978年度以来、34年ぶりです。これまで化石エネルギー依存度が最も高かったのは1973年度の94.0%で、その後石油危機の教訓から、エネルギー源の多様化を進めてきましたが、震災前と比べて原子力が94.4%減ったかわりに、天然ガスが20.4%、石油が4.7%増えたため、化石エネルギー依存度が急激に高まっています。

ちなみに、2012年度のエネルギー需要については、東日本大震災前の2010年度と比較すると、節電の浸透で電力が8.0%減、燃料となる石油も4.1%減でした。部門別に見ると、産業部門が5.5%減、家庭部門が5.3%減と、産業界でも家庭でも省エネを進めていることがわかります。

日本は化石エネルギーの自給率はほぼゼロ、ほぼ全量を輸入に頼っています。化石エネルギーの燃料費は世界的にも上昇しており、日本の支払う化石エネルギーのコストも増加の一途をたどっています。

経産省が10月に発表した試算によると、2013年度に電力9社が支払う燃料費は2010年度と比べて、原発代替分だけで3.6兆円増えるとのこと。内訳は液化天然ガスが1.7兆円、石油が2.1兆円、石炭が0.1兆円の負担増で、原発用ウランは0.3兆円減ります(1ドル=98円で試算)。

原発代替分以外も含めた2013年度の電力9社の燃料費の試算は7.5兆円でした。2010年度に比べて3.9兆円の増加となりますが、その9割以上が原発の停止によるもので、産業界などからは「高い電力料金は国際競争力を弱める」「早く原発の稼働を」といった声が上がっています。

また、経産省の発表によると、発電や自動車燃料などのエネルギー消費による2012年度の国内二酸化炭素排出量は、前年度比2.8%増の12億700万トンと、3年連続で増えています。震災前に比べて、エネルギー消費量は減っているのですが、化石燃料が増加しているためです。

まもなく、ポーランドで第19回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP19)が開催されます。日本では、2009年に民主党の鳩山由紀夫元首相が温室効果ガスを「2020年に1990年比で25%削減する」との中期目標を掲げましたが、自民党の安倍晋三首相は今年1月、目標達成は実現不可能であるとし、11月のCOP19までに日本の中期目標を見直すように指示していました。

日本の排出する温室効果ガスのうち、約95%が二酸化炭素です。また、日本の排出する二酸化炭素のうち、約94%はエネルギー使用時に排出されます。つまり、どのようなエネルギーを使うかが二酸化炭素排出量に直結するため、エネルギー政策と温暖化政策を分けて考えることはできません。

エネルギー政策については、大震災後に新しいエネルギー基本計画を作るための委員会が設置され、私も委員のひとりとして関わってきましたが、政権が自民党に変わってから、脱原発派の委員のほとんどを入れ替えた新しい委員会で基本計画の議論を進めています(私も委員ではなくなりました)。

エネルギー基本計画ではエネルギー供給のあり方についても扱いますが、原発の再稼働については原子力規制委員会の安全基準の適合審査が必須であるため、経産省では「自分たちでは原発比率を定めることはできない」「温暖化目標を定めれば、原発比率が詮索されかねない」として、温室効果ガス削減の中期目標は出せないというスタンスをとっています。

一方、環境省では「目標を持たずに世界と交渉することはできない」として、目標設定への働きかけをしていますが、経産省と環境省が合同で事務局を務め、目標を議論する審議会でも、新たな目標を出すのは困難とする経産省側の委員と、出すべきだとする環境省側の委員の意見がぶつかって、審議がしばらく中断し、再開後も意見の隔たりは変わらず、議論が進んでいないのが現状です。

11月のCOP19までに目標設定ができるのかあやぶまれ、環境NGOなども危機感を募らせるなか、10月1日に「安倍政権は2020年までの温暖化ガスの削減目標を2005年比6%か7%程度とする調整に入った」との一部報道が流れました。同日の記者会見で菅義偉内閣官房長官はこの報道内容を否定していますが、経産省・環境省の対立が膠着状態の中、首相官邸が乗り出したのでは?という見方も出ています。

日本の排出量は京都議定書の基準年の1990年から2005年の間に増えていますから、この「2005年比6%か7%」という削減目標では、日本の実質の排出量は1990年よりも増えることになってしまいます。「京都議定書の目標よりも緩い目標は許されない」と環境NGOなどは抗議の声を上げていますが、どのような展開および決着になるか、予断を許さない状況です。

原発の停止を補いながら、火力発電の燃料コスト増大にもつながらず、海外の情勢に左右される輸入に頼る必要もなく、温暖化につながる二酸化炭素を大量に排出することもないエネルギー源――再生可能エネルギー――に大いに期待したいところです。

昨年7月に固定価格買取制度が導入され、日本の再生可能エネルギーは確かに普及しはじめています。しかし、残念ながら、ほぼゼロからのスタートのため、日本のエネルギーをしっかり支える柱の1本に成長するにはもう少し時間がかかります。

来月号では、日本の再生可能エネルギーの現況についてお届けする予定です。どうぞお楽しみに!


(枝廣淳子)

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