ニュースレター

2013年07月23日

 

フードバンクから見える食品廃棄の現状と被災地支援(前編)

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JFS ニュースレター No.130 (2013年6月号)


日本の食料自給率は40%前後と、先進諸国の中でも非常に低い値である一方、毎年約1800万トンもの食料が廃棄されています。そのうち500~800万トンはまだ食べられる食料です。他方で、近年相対的貧困率が上昇し続け、2011年現在人口の16%であり、これはおよそ2000万人に相当します。

注:相対的貧困率とは貧困線に満たない世帯員の割合。2011年の貧困線(等価可処分所得の中央値の半分)は112万円。

この2つの問題に対処するひとつの手段が「フードバンク」です。食品企業・学校・農家・個人などから無償で提供された、品質には問題がないが市場では販売できない食品を、必要としている人たち(福祉施設・団体・個人)へ無償で配る活動です。フードバンクはアメリカで40年以上前に始まり、日本では「セカンドハーベスト・ジャパン」理事長のチャールズ・マクジルトン氏が、2000年にフードバンクを始め、2002年3月11日に法人化。2010年にフードバンクの全国ネットワークが発足して、今は11団体が加盟しています。

今号では、JFSゼネラル・マネージャーである小田理一郎が主宰するサステナブル・フード・ビジネス研究会が、セカンドハーベスト・ジャパン・アライアンス事務局長の大竹正寛氏と被災地支援に尽力される配島一匡氏を招いて開催した研究会から、日本の食品廃棄の現状についてご紹介します。


<セカンドハーベスト・ジャパンの活動>

セカンドハーベスト・ジャパンの活動は、大きく4つの事業に分かれています。

まず、炊き出しを行う「ハーベストキッチン」。毎週1回、70~80名のボランティアの協力を得て、上野公園で約400人に配食しています。個人ボランティア以外にも、CSR活動の一環として、企業単位での取り組みも増えています。

2つめは「ハーベストパントリー」で、施設などに入居できない難民の方や、生活困窮者向けに、2週間分の食べ物をパッケージにして、月1~2回(生活状況による)宅配便で送る活動で、平均約7,000円に相当する商品を送っています。

3つめはフードバンクの広報活動である「政策提言」。各種メディアへの働きかけ、シンポジウムなどの開催、勉強会の講師、展示会への出展など、多くの方にフードバンクという活動を正しく知ってもらうための事業です。

そして基幹活動となるのが「フードバンク」です。フードバンクのシステムは、余剰食品を抱え頭を悩ましている企業と、ギリギリの運営費で生活弱者の方々を支援している福祉団体とのつなぎ役であり、金銭が介在しない、提供側と受け取り側のどちらにもメリットのある全く新しい食品流通システムだと考えています。

主な食品提供者は、食品メーカー、問屋、スーパーマーケットなどの業者のほか、個人もあります。現在、毎月の定期便として、主に関東の福祉施設など300カ所に配布、支援企業数は約400社になりました。

2010年は、全国から約813トン、キロ当たり平均600円として商品価値にして約4億8700万円の食品が集まりました。2011年は震災があったため、日本国内に加え海外からも大量の食品が届き、2010年の2倍となる1,600トンに達し、福祉貢献度としては9億6000万円程度となりました。提供企業側は、2010年は8100万円、2011年は1億6000万円程度の廃棄コスト(キロあたり100円で換算)削減につながっていると考えられます。

こうした食品を、児童養護施設、母子支援施設、DV(ドメスティックバイオレンス)のシェルターや障害者の施設、また3.11以降は被災地の仮設住宅や避難所、在宅の「みなし仮設」に住んでいる方々に届けています。

それに加え、今後私たちがやりたい活動として、CRM(Cause Related Marketing)があります。CRMとは、社会問題に対して、自社ブランド・サービスを関連づけた販売活動を行い、問題解決を図るとともに、営業利益を上げる戦略的マーケティングです。例えば震災復興の一環として、英国の航空会社ブリティッシュ・エアウェイズと組み、エコノミークラス「ワールド・トラベラー」に搭乗した際、チケット代から5,000円を震災復興支援としてセカンドハーベスト・ジャパンに寄付するというキャンペーンを行い、2011年5月中の短い期間だけで、約2000万円の寄付が集まりました。


<業界の慣行が生み出す食品廃棄問題>

フードバンク活動の背景には、食品廃棄と貧困の問題があります。冒頭に述べたように、日本で廃棄される食料は年間約1800万トン、うちまだ食べられるものが500~800万トンです。これは日本で年間に生産される米の量とほぼ同じで、およそ48億円の商品価値(600円/kgで換算)になります。先述の通り、2010年には813トンの寄贈がありましたが、これは廃棄される800万トンの1万分の1、0.01%に過ぎないのです。

提供される食品は、商品の品質とは関係のないキャンペーンパッケージなども増えていますが、一番多いのが、賞味期限が近いものや販売期限切れのものです。食品業界には3分の1ルールという、食品の製造日から賞味期限までを3分割し、1)店頭に並ぶまでの「納入期限」を過ぎたものは出荷しない、2)店頭で「販売期限」を過ぎたものは売らない、とする暗黙のルールがあります。賞味期限まで余裕があっても返品され、大量の食品ロスが生まれているのが、今の日本の食品システムです。

次に多いのが外装破損、その他お中元、お歳暮、クリスマスなど、季節商品の余り、そして規格外の野菜の提供も多くあります。

3分の1ルールについては、業界での改善に向けた取組が始まっています。その内容は、1)納品期限の見直し・再検討に向けたパイロットプロジェクトの実施、2)賞味期限の見直し、3)表示方法の見直し、4)食品ロス削減に関する消費者理解の促進、5)フードバンクの活用などその他の食品ロス削減に向けた取組といったものです。


<飽食の国・日本で増え続ける貧困>

もう1つの問題は貧困です。「相対的貧困率」というデータを見ると、厚労省が出した2011年の数値は過去最悪の16%、約2000万人となっています。

セカンドハーベスト・ジャパンでは、この中で約200万人が深刻な状況に陥っていると推計しています。内訳は、1)一人親家庭の中でも特に母子家庭の10%にあたる423,396人、2)高齢者の5%にあたる149万人、3)在日外国籍難民の10%にあたる207,850人、4)ホームレスの全員にあたる9,576人です。これらは、国から発表されている母数に、セカンドハーベスト・ジャパンで低めに見積もった割合を乗じて算出した数字です。

この中で高齢者の割合が高いことも問題です。65歳以上の高齢者は2013年には4人に1人、2035年には3人に1人になるといわれており、今後貧困者が増えることが予想されます。


<提供側・受け取り側それぞれのメリットは?>

セカンドハーベスト・ジャパンは、食品関係以外の企業からもさまざまな形の支援を受けています。倉庫の無償提供、空で戻るトラックによる運搬、自社便を使用した直接搬送などもあります。

食品を提供する企業がフードバンクに参加するメリットは、1)廃棄コストの削減、2)コストをかけず、本業に即した形での社会貢献活動です。さらに、支援先の人々は、いずれ自立して消費者になる方たち。統計では日頃食べ慣れたものを買う傾向が非常に高いということで、マーケティング上のメリットもあります。

受け取る側のメリットは、まずは食費の削減。食品が提供されることにより、浮いた予算をほかの部分に投入できます。また、職員と利用者のコミュニケーション・ツールとして、使われている例もあります。

こうした中で大切なのは、食品提供側と受け取り側は必ず平等でなければいけないことです。「提供するほうが上、もらうほうが下」という構図になってしまうと、フードバンクは決して成り立ちません。


<全国に広がるフードバンク>

全国に広がる11のネットワーク団体の1つ、「フードバンク山梨」では、行政と協働して、「食のセーフティネット事業」に取り組んでいます。寄贈された食品の中から、南アルプス市の生活保護課に相談をしに来た人たちに、2週間分の食品を支援し、生活保護を受けずに自立してもらう仕組みです。

2010年5~12月の間に、生活保護者40名のうち14名がフードバンク山梨からの支援を受け、結果9名が就職という成果がありました。南アルプス市の生活保護課では、この事業で4000万円の税金削減という費用対効果があったそうです。この仕組みは非常に面白いので、ほかの地域でも今後どんどんやっていきたい事業です。


<「地産地消」のネットワークづくりを目指す>

全国にはいま、「フードバンクガイドライン」に調印した11団体を含めて、フードバンク団体が40以上あります。

食品のロスは全国各地で発生しており、同時に食料を必要としている施設も全国にあります。セカンドハーベスト・ジャパンは、なるべく最寄りのフードバンクを紹介し、地域で出た食品ロスはその地域のフードバンクに提供してもらい、その地域の福祉施設など困っている人たちに再分配できる仕組みをつくっていきたいと考えています。

つまり地産地消です。これが一番効率的で、地域の活性化にもつながると考えています。今回の震災でも、地域を拠点にする仕組みが非常に役立ちました。


後編に続く)


サステナブル・フード・ビジネス研究会 講演録より(編集:長谷川浩代)

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