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企業とNGOとのパートナーシップ実践論

ダイワJFS・青少年サステナビリティ・カレッジ 第4期・第12回講義録

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神山邦子氏
NPO法人 市民社会創造ファンド プログラム・オフィサー

大学卒業後、銀行・建築などの民間企業に勤務したのち、2002年より市民社会創造ファンド。企業や篤志家からの寄付をNPOにつなぐ助成金プログラムの立ち上げ・運営に携わる。この間、企業とのパートナーシップによる社会貢献事業として、「ダイワSRIファンド」助成プログラムを初め、3本の助成プログラムの立ち上げ、5本の運営を行う。

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金田晃一氏
武田薬品工業株式会社コーポレート・コミュニケーション部CSRシニアマネジャー

ソニー渉外部で対欧州通商政策、在京米国大使館経済部で対日規制緩和を担当。英国留学時に「多国籍企業による人間開発」に関心を持ち、帰国後、国際開発高等教育機構他で開発論を学ぶ。ブルームバーグテレビジョン アナウンサーを経て、ソニー(再入社)、大和証券グループ本社、武田薬品工業の3社でCSRの立上げに携わる。

◆講義録

文化の違いを橋渡し

金田: 私は今、武田薬品工業のCSR部門で働いているが、以前は大和証券グループ本社でCSR業務に携わっていた。大和証券には「ダイワSRIファンド」や「ダイワ・エコファンド」という非常に社会性の高い商品があるのだが、こういったものを世に出すからには、それに見合った形で企業市民活動も進めなくてはいけないという社風があった。実はこのサステナビリティ・カレッジも「ダイワ・エコファンド」から生まれている。今日は、「ダイワSRIファンド」から生まれた「ダイワSRIファンド助成プログラム」をテーマに、このプログラムを協働で運営している市民社会創造ファンドの神山さんと一緒に、企業とNGOとのパートナーシップ実践論について対談形式でお伝えしたい。

神山: 市民社会創造ファンドは助成プログラムの運営を主な事業とし、企業や個人の篤志家からの寄付の受け皿となって、資金面からNGOの活動をバックアップしている。

私たちの活動の特徴は、企業と現場のNGOをつなぐ役割を担っている点にある。社会の課題を解決するために、企業とNGOが双方の強みや弱みを補完することが大切だが、企業とNGOが直接パートナーシップを組むのは難しい面もある。企業とNGOはそもそも行動原理が違う。多少語弊があるが、企業は利潤を追求し、NGOは採算よりも目前の課題に対する支援活動を重視しがちだ。さらにサイズやスピード感も全然違う。企業は仕事を進めるスピードが非常に速い場合が多いのに対し、NGOは人も設備も整っていないこともあり、企業のペースに遅れがちになる。このように、文化がかなり違う両者の間に私たちが入り、異文化コミュニケーションの橋渡しをしている側面がある。

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私たちは企業や篤志家の方の志をお金という形でお預かりするわけだが、それをどの団体にどのように使ってもらうのが最も効果的なのかを常に考えながら活動している。社会で何が求められていてどこに課題があるのか、キーパーソンは誰かなど、日ごろの情報収集と多くの方とのコミュニケーションやネットワークを通して、社会的課題の「目利き」でありたいと努めている。

金田: 市民社会創造ファンドさんのような団体は「中間支援組織」と呼ばれている。さまざまな現場で素晴らしい活動をしているNGOがあっても、企業からは分からないことも多い。どのNGOをサポートすれば、資金が適切に流れ、本当の成果につながるのかも分かりにくい。

そこで、中間支援型のプロフェッショナルな組織が必要になってくる。市民社会創造ファンドさんでは、スタッフの方だけでなく外部の専門家の経験や知恵も適宜お借りしながらプログラムをつくることができる。このプログラムには、ドナーである大和証券、中間支援NPOである市民社会創造ファンド、現場で素晴らしい活動をしている個々のNGO、そしてそのサービスを受ける人たちと、多くのステークホルダーがかかわっている。

神山: 「助成」とは一種の「寄付」の仕組みだが、厳密にいうと両者には違いがある。通常の寄付であれば、企業から特定の団体に対して1対1の形で資金が提供されるが、助成金プログラムは1対多の関係で、一定のテーマに従って同時に複数に資金を提供することが多い。この場合の資金は、NGOなどに過去の実績などを評価して自由に使ってもらってもよいということで単に「差し上げる」のではなく、助成金では出し手の意思を反映させて、計画に基づいた活動に対して成果を期待する資金であり、NGOに活動の機会を提供するという意味を持っている。

また、単発で終わることもある寄付と違い、助成は年単位で長期にわたることも多い。助成プログラムの場合、プログラム自体の認知度が高まり、一定の成果が現れてくるまでの期間として、概ね5年が1つの区切りになるのではないかと思う。企業にはこのぐらいの期間コミットしていただきたいという意味に加え、一方で社会は次々と変化しており、プログラム立ち上げ時の社会背景や問題意識が数年先も変わらないとは限らないことから、プログラム全体の見直しが必要という意味もある。

やはり社会的なインパクトはなかなか見えにくく、本来じわじわと現れてくるものだと思う。助成プログラムでは、ある日ふと気づいてみると評価されていた、といったこともあるものだ。助成期間終了後に何年も経ってから、サポートしたNGOの活躍を新聞などで見かけることもあり、「あのとき応援できてよかった」と思えるのも醍醐味の1つだ。


人を大事にする助成のあり方

神山: では、大和証券さんと行っている「ダイワSRIファンド」助成プログラムを事例に、パートナーシップの形を具体的に説明しよう。

まず両者の役割分担としては、大和証券さんは資金を提供し、市民社会創造ファンドは提供いただいた資金でプログラムの企画・運営を行っている。企画・運営の中身は、助成プログラムつくり、助成先を選定していくプロセスを担い、さらに、プログラムの開始から終了まで団体の活動をフォローし、最終的には大和さんに活動報告を行うという流れである。

このプログラムの狙いはNGOスタッフと組織の育成だ。一般にNGOは基盤が弱く、スタッフもこれから専門性を伸ばしていかなくてはいけない段階にあることが多い。しかし、人材育成に出資してくれる企業は非常に少ない。人の育成には時間がかかるためだ。また、スタッフが「1.5倍成長した」などと簡単には言えないため成果も見えにくい。そうした中で、スタッフと組織の育成の重要さをご理解いただきご支援いただけたのは、大和証券さんに人を大切にする社風があるからだろう。

また、対象分野を「人間の安全保障」に設定した点も、企業として非常に英断だったと思う。子どもや環境関係には企業のお金が出やすいのだが、今回のような分野にはなかなか出にくいという実感がある。

人間の安全保障とは10年ほど前から国連が提唱している概念だ。グローバル化が進み、国境を越えて人が移動したり、国内でも紛争が起こったりする中で、従来の国家間の安全保障だけでなく、個人を対象とした人の"いのち"(生命・生活・尊厳)の保護と自立支援に取り組む必要がある。日本国内においても、昨今の経済状況などから困難な状況にいる人々が増えており、身近な人々のセーフティネットも考えていくべきだという問題意識が私たちにもあった。

助成期間は1年間、助成額は上限200万円と設定して、年に5~6団体を応援し、これまで15団体、述べ33人のスタッフ育成に寄与してきた。

その中から個別の助成先の事例を1つ紹介したい。医療通訳の派遣という事業を通して、日本に住む外国人の医療支援や文化交流を行っている「多文化共生センターきょうと」というNGOがある。日本語を話せない外国籍の人は、言葉の壁があるため具合が悪くても病院に行きたがらなかったり、行ったとしてもうまく症状を説明できず、適切な治療が受けられないことが多い。

そこで多文化共生センターきょうとでは、和歌山大学と協働で「エムキューブ」と呼ばれる多言語医療受付支援システムを開発した。病院の受付でタッチパネル式のこの装置を使えば、多言語で表示される質問に答えるうちに、受診すべき科を絞ってくれたり、受付や支払い方法などを教えてくれるシステムだ。

助成プログラムでは、2007~2008年の2年間にわたって応援したが、助成によりこの開発にボランティアとしてかかわっていた人を専従スタッフとして正式に雇用して、産官学民の協力プロジェクトの一員として重要な役割を果たした。先日会いに行ったところ、すっかり立派な中堅スタッフになっていて、とてもうれしく思った。

私たちはほかにも、いろいろな企業と組んだプログラムを展開している。お陰さまで2001年から今年の9月現在で、総額8億6,920万円、合計736のプロジェクトを応援してきたことになる。


表面化しにくい課題の解決を目指して

金田: 私のほうからは企業側の考え方をお話ししたい。こうしたプログラムを行うにあたって、私はいつも「MRI」を考えている。Mというのは Mission 「使命」、Rは Response 「対応」、Responsibility 「責任」もここから来ている、そして、Iというのは Interest 「利益」だ。

企業は、プログラムを生み出すきっかけとなる商品およびプログラム自体で、いかに社会に貢献できるか、すなわち、Mについて考える。また、社会的な課題やニーズをきちんとつかえまえ、それに対応しているかという視点も必要。それがRにあたる部分だ。さらに、そうした貢献よって企業にどういうメリットがあるかも併せて考えなければならない。これがないと継続して活動できないからだ。市民社会創造ファンドさんとのプログラムでは、きちんと説明責任に答える形で活動内容を報告してもらえるため、今度は企業自身がCSRレポートや株主への事業報告などで、幅広いステークホルダーにも情報開示ができる。社会の課題やニーズにきっちり応えれば、例えばレピュテーションという形などでメリットが戻ってくる。これがIである。

こうしたMRIのバランスがうまく取れるような形でプログラムを進めるのが理想的だ。そのために、企業が持つヒト・モノ・カネ・ノウハウ・ネットワークなど、さまざまなリソースを組み合わせて、社会的課題にぶつけて具体的な成果を出すことが求められているのだ。

現在所属している武田薬品工業の話もさせていただきたい。実は武田でも市民社会創造ファンドさんと組み、長期療養の子どもたちを支援する「タケダ・ウェルビーイング・プログラム」を展開している。大人の患者さんに対するサポートはある程度あるが、子どもに関してはまだまだ課題が多い。社会的に重要でありながら、なかなか表に出ていない問題で、困っている方が大勢いる領域だ。

例えば、親の関心が病気のお子さんに集中しまうと、その兄弟・姉妹へのケアがどうしても手薄になり、そうした子どもたちの生育環境や精神状態に大きな影響があるという。また、入院中のお子さんがいる場合、家族はずっと病院に泊まるわけにはいかず、病院の駐車場の車中で寝泊まりするケースも少なくない。もちろん、つらい治療に耐えてがんばっている子どもたち自身に、いかに楽しい時間を提供するかも大きな課題だ。

武田のプログラムでは、こういった課題に取り組む団体に対して「計画型助成」という形でサポートしている。どの団体にどういった支援をすれば課題解決に最も効果的かを検討した上で、専門家の方々と一緒に支援すべき団体を選定するという、一般公募とは違うプロセスを取っている。

神山: 長期的に入院している子どもがかなりいることを、私自身もこのプログラムにかかわって初めて知った。成長段階にあり社会性も身につけなくてはいけない時期にある子どもには、退院後に社会に戻っていくためのサポートも必要だといった課題もある。

金田: 市民社会創造ファンドさんのような中間支援組織を通して、企業側からはなかなか見えない社会的課題を現場のNGOの皆さんに教えてもらいながら、その課題にいかに対処していくかが重要だ。ここに企業側から見たNGOとのパートナーシップの意義があるのだろう。


◆配布資料

「企業とNGOとのパートナーシップ実践論」(PDFファイル 約38KB)


◆「私が考えるサステナブルな社会」

グローバル化が進み、国境を越えて人が移動したり、国内でも紛争が起こったりする中では、従来の国家間の安全保障だけでは十分ではなく、個々の人間の視点からの取り組みも必要で、日本国内においても身近な人々の「人間の安全保障」という概念が大切だと思います。(神山)


◆「次世代へのメッセージ」

企業からは見えにくい社会の課題を現場のNGOに教わりながら、またNGOが必要とする支援を企業が提供しながら、共に課題解決にあたるパートナーシップが必要です。企業とNGOをうまくつないでくれる中間支援組織の力を借りながら、より多くのパートナーシップが生まれればと思います。(金田)


◆受講生の講義レポートから

「私もファンドに投資していますが、これまでは利益を追求してきました。今後はファンドの内容まで把握して投資していきたいと思います」

「NGO/NPOも『仕事』にできる環境ができつつあることに喜びを感じました。公共と行政の位置づけが変わりつつあるのだと実感しました」

「NPOと企業がコラボしやすいテーマ以外の深刻かつ重要なイシューに、もっと助成金や支援が行き届くにはどうすればいいのか、もっと考えてみたいと思います」

「企業とNGO/NPOの中間のコンサル団体の必要性に気がつきました。企業の方から市民社会創造ファンドに声がかかると聞き、資金を調達する側だけでなくドナーからのニーズも多いことに驚きました」


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