ニュースレター

2017年04月22日

 

日本の中高生の環境活動 ~ 中高生環境・社会活動グループ実践賞より

Keywords:  ニュースレター  教育 

 

JFS ニュースレター No.175 (2017年3月号)

JFS代表・枝廣淳子も教授を務めている東京都市大学環境学部では、中高生の環境保全に向けた行動を支援することを目的に、中高生が行っている実践的な取り組みを表彰する「中高生環境・社会活動グループ実践賞」を主催。2013年から年1回、コンテストを開催しています。

第4回となる2016年はJFSも協力団体に加わり、10月22日に表彰式を開催。優れた取り組みを行っていると認められた4つのグループそれぞれに優秀賞が贈られ、その中から最優秀賞が選ばれました。

評価基準は、「環境・社会活動の内容と方法」「環境・社会活動の成果」「他の中高生の巻き込み度合い」「他主体の巻き込み度合い」「参加中高生の満足度・学びの深さ」「社会的インパクト」「自立発展性・活動の継続性」の7点。枝廣を含む5名が審査にあたりました。

どのような取り組みが表彰されたのでしょう? 早速、ご紹介していきます。


自分たちの手で森を守る取り組み

最優秀賞に輝いたのは、森林活動を行っている「NPO法人緑のダム北相模・地球環境部」。優秀賞としては、環境コミュニケーション賞を受賞しています。

地球環境部のメンバーは、東海大学付属望星高校、杉並区立高井戸中学校、三鷹市立第二中学校の生徒と卒業生。相模湖嵐山の森の一区画において、森林管理を自ら調査、立案、実行しています。彼らの間伐や枝打ちのレベルは高く、プロの林業家から合格点をもらえるほどの腕前です。

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Copyright NPO法人緑のダム北相模 地球環境部 All Rights Reserved.

位置や伐採量など、森林の基礎情報をデジタルデータとして一元管理する、森林GISにも取り組んでいます。自分が所有する林の境界が分からず手入れが進まないという、日本の多くの民有林が共通して抱える課題の解決に挑戦。森林整備を行いながら、GISを活用して所有林の境界を調査する取り組みを、麻布大学との協働で進めています。

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Copyright NPO法人緑のダム北相模 地球環境部 All Rights Reserved.

森林整備の重要性をアピールする間伐材を活用したイベントでは、中高生の想像力が遺憾なく発揮されています。接着剤を使わずに、わずか3種類の積み木で東京駅やアンコールワット遺跡などを製作。作品を目の当たりにした参加者からは、完成度の高さに感嘆の声が上がりました。

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Copyright NPO法人緑のダム北相模 地球環境部 All Rights Reserved.

受賞理由:複数の中・高校からなるグループが自主・自律的に森林整備活動に取組んでいることは高く評価できる。森林GISを用いた先進的な森林管理システムの構築と大学などとの協働を実践しており、組織や活動の持続可能な取組であり、社会へのインパクトも大きいと評価される。

キノコと廃材で土壌改良

静岡県立富岳館高等学校・キノコ研究班は、土壌改良資材を開発し、東日本大震災での津波に起因する塩害水田の回復等に役立てる取り組みで、環境創生学科長賞を受賞しました。

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Copyright 静岡県立富岳館高等学校・キノコ研究班 All Rights Reserved.

芝が輪の形に周囲よりも色濃く繁茂する、フェアリーリングと呼ばれる現象があります。この現象に関して静岡大学が「キノコが植物成長物質を生産し、その影響で芝が繁茂。その物質は一部の植物に特定の環境ストレス耐性を与える」との研究結果を発表しました。キノコ研究班は、その植物成長物質が塩・乾燥ストレスに効果があれば、塩害や乾燥で難航している、被災地における堤防の法面緑化や塩害水田の回復などに役立てられると考えました。

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Copyright 静岡県立富岳館高等学校・キノコ研究班 All Rights Reserved.

シバフタケから植物成長物質AOHの抽出に成功すると、地元の製紙会社から出る廃材を媒体とするAOHチップを開発。東北の塩害水田でチップの効果を検証し、塩ストレス下の稲作での収量増加を確認しました。宮城県鳴瀬川における堤防の法面緑化でも、成長効果を確認。同じ鳴瀬川の沿岸で、津波被害にあった桜の樹勢回復にも成功しました。

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左:AOH チップ
Copyright 静岡県立富岳館高等学校・キノコ研究班 All Rights Reserved.

受賞理由:高校生がキノコ成分から独自に抽出した物質と地域の製紙産業で生成された廃材を用いて土壌改良材を開発し、その資材を用いて東日本大震災の被災地の塩害改良や緑化に取り組むなど、研究の成果を実用化にまで結び付けている点は高く評価できる。

草花の力で室内環境浄化

青森県立名久井農業高等学校・TEAM FLORA PHOTONICSは、人間が生活の大部分を過ごす室内の環境を植物を利用して改善する取り組みで、学校実践賞を受賞しました。

TEAM FLORA PHOTONICSは、育苗会社や計測機器メーカー、大学院生などのアドバイスを受けながら、地元の八戸市や南部町、各種施設などと連携して、草花の力で室内環境を改善する取り組みを行っています。様々な観葉植物の実験から、サンパチェンス®が室内の空気、特にシックハウス症候群の原因物質を短時間で浄化できることを発見しました。

アロマオイルよりも自然で省エネな、室内での芳香植物栽培によるストレス緩和の研究にも取り組んでいます。地元の病院、幼稚園、介護施設などと連携して普及活動を実施。東日本大震災の影響で新設の仮設住宅に住む人々の室内汚染対策のため、汚染状況の測定、花を咲かせ空気も浄化する植物の提供や、一緒に花を植える交流活動も行っています。

受賞理由:草花の生理・生態的特徴を活かした特徴ある活動であり、ストレスやシックハウス症候群などの室内環境に起因する問題の改善に取り組んでいる。研究成果の学会発表のほか、地域と連携した普及活動、東日本大震災の被災地での活動にも積極的に取組むなど、地域の幸福度改善に役立てようという実践力・共創力も高く評価できる。

絶滅危惧種指定レンゲツツジの保護

地域連携賞を受賞したのは、大分県立玖珠美山高等学校・チームFlower's。玖珠町からの依頼を受け、町花であり、大分県で絶滅危惧種に指定されているレンゲツツジの保護活動に取り組んでいます。

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Copyright大分県立玖珠美山高等学校・チームFlower's All Rights Reserved.

玖珠町でのレンゲツツジ保護活動には、これまで地域の農家が取り組んできましたが、少子高齢化による労働力不足のため、継続がむずかしくなってきています。チームFlower'sは、玖珠町からの依頼をきっかけに調査研究を実施。ササの侵入による根の締め付けや土壌乾燥、手入れが進まず高木化した雑木林による日照不足が原因ではないか、との結果を得ました。

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Copyright大分県立玖珠美山高等学校・チームFlower's All Rights Reserved.

校内でのレンゲツツジの個体数増加にも取り組み、苗の増殖に成功。保護区内での植栽許可を求める働きかけを行いつつ、保護区外での植栽も進めています。今後は、保護活動を多くの町民に知ってもらうなど、保護活動の輪を広げることにも取り組み、レンゲツツジの回復を実現したいとしています。

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Copyright大分県立玖珠美山高等学校・チームFlower's All Rights Reserved.

受賞理由:大分県の木であるレンゲツツジの保護と増殖活動を7年間にわたって地道に実践している。その研究結果は地元の小学校への出前授業や役場のウェブサイトにも掲載されるなど、地域に密着した活動である。活動が継続し、将来「レンゲツツジの郷」が生まれることを期待したい。


どの参加校も、専門家や企業、大学などから専門性の必要な箇所へのアドバイスを受けながら、その後も継続的に協力関係を築き、地道な活動を続けています。地元や、東日本大震災の被災地、被災者に役立つ活動を展開しており、代を跨いで継続してほしい活動ばかりでした。

今回の受賞校を含め、環境活動に取り組む中高生のみなさんの、今後の活躍に期待したいと思います。

スタッフライター 坂本典子

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