ニュースレター

2016年12月13日

 

電力小売全面自由化への期待と電力システムの課題

Keywords:  ニュースレター  エネルギー政策 

 

JFS ニュースレター No.171 (2016年11月号)

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日本でも、2016年4月から電力小売りの全面自由化がスタート。一般家庭や小規模事業所(低圧契約)の消費者も、これまでの地域独占の大手電力会社以外に、電力会社(小売電気事業者)を自由に選ぶことが出来るようになりました。

気候変動の問題がある化石燃料による火力発電や、福島第一原発事故で巨大なリスクが明白となった原子力発電に依存しない電気を選択するために、自然エネルギーによる電気を選ぶことが出来るようになると期待されていますが、そのためには様々な課題があることが明らかになってきています。

電力小売全面自由化の課題

すでに一定規模以上の事業所や工場(高圧・特別高圧契約)は、10年ほど前から電力小売りが自由化され、新電力(PPS)と呼ばれる大手の電力会社(一般電気事業者)以外からの電気を選択することができました。福島第一原発事故以降、この新電力の届出数は800近くに達しましたが、実際に電力の供給実績のある新電力は135社程度にとどまり、その電力の販売シェアも2015年度末の時点でようやく9%程度になったに過ぎませんでした。

電力小売全面自由化後に地域別にみると、東京電力と関西電力の管内で新電力シェアが伸びており、最高で14%に達しています[1]。電力小売全面自由化のための電力・ガス取引監視等委員会[2](EGC)の審査に基づく小売電気事業者の登録が進んでいますが、すでに300社を超える小売電気事業者が登録を済ませており(2016年8月時点)、一般家庭向けに自由化後の電気料金メニューが次々と発表されています。

2016年7月末までに大手電力会社から新電力に切り替え(スイッチング)を申し込んだ件数は150万件近くに達し、全ユーザーの2.4%程度になりました。しかし、この電気料金メニューに関する様々な比較サイトが立ち上がる中、電力料金そのものの安さにばかり注目が集まり、電源構成はほとんど公表されておらず、電気の中身に注目した比較はまだまだ難しい状況にあります。

これらの小売電気事業者の中で、自然エネルギーによる電気の小売りを目指す動きを推奨するパワーシフト・キャンペーン[3]が行われています(事務局:FoEJapan)。このキャンペーンでは、電気の消費者がパワーシフト宣言をして、自然エネルギーを重視する電力会社をできるだけ選択できるように、各地域の自然エネルギー電力会社(小売電気事業者)をホームページ上で紹介しています。

しかし、自然エネルギーを中心とした電力会社にとっては、FIT制度に基づく自然エネルギーによる電気(FIT電気)の調達がよりコスト高になるような費用算出方法の見直しが行われたり、2017年4月からは送配電事業者によるFIT電気の買い取りが義務化されたりするなど、周辺環境は厳しいものになっています。

一方で、ライセンス制により登録された複数の小売電気事業者から消費者が電気を適切に選択できる仕組みを、消費者の権利の立場からも整える必要があります。

そのためには、電気料金の内訳や電源構成などの表示を義務化したうえで、発電事業者や送配電事業者、卸電力取引市場等からの情報公開のための仕組みを整えることや、消費者が毎月の明細書やインターネットなどを活用して電気料金の内訳や電源構成などを常に確認できる必要があります。自然エネルギーによる電気が何処で発電され、どのように取引されて、どのように消費者に届けられるかを知ることが重要です。

電気料金の内訳についても、電気を運ぶ費用である託送料金、託送料金に含まれている「使用済核燃料再処理等既発電費相当額」や、原発立地地域に交付される「電源開発促進税相当額」なども公表すべきでしょう。

欧州ではすでに実現している、自然エネルギーの割合などの電源構成や核廃棄物排出量の表示が、2016年1月に公表されたガイドライン「電力の小売営業に関する指針[4]」においては明記されず、電源構成の表示は「望ましい行為」として努力義務となりました。当面は、消費者が、この電源構成表示や電力料金の内訳を積極的に表示する小売電気事業者を評価していく必要があります。

電力システムの課題

消費者が実質的に電気を選べる・小売電気業者を選べる環境づくりのためには、強力な広域系統運用機関や、発送電分離による公平中立な送配電網の管理や運営の体制が必要です。この意味で、2020年度までに実施が予定されている送配電部門の公平中立化(発送電分離)では、各社で予定されている法的分離から欧州並みの所有権分離まで進むことが必要です。

自然エネルギーの本格的な導入に必要な「優先給電」が十分に検討されないまま原発や石炭火力など既存電源が優先されたり、オープンアクセスとして法制化されている「接続義務」の系統接続ルールが電力会社によって骨抜きにされたりするなど、根拠が不透明な「接続可能量」や過大な「工事負担金」、既存電源や電力会社の計画を優先した「空き容量ゼロ回答」などによって実質的に接続が拒否されている問題があります。

自然エネルギーの本格的な普及には、欧州並みの実質的な発送電分離(所有権分離)を実現し、高い自然エネルギー導入目標を設定した上で、その実現に向けた電力システムの改革が必要です。自然エネルギーの発電所を優先的に送電網につなぐ「優先接続」と、優先的に電気を供給する「優先給電」の双方が重要と考えられ、欧州ではすでに実施されているルールです。

日本では、これまでFIT制度の法律によって条件付きの「接続義務」はありましたが、改正FIT法では削除され、電事法における「オープンアクセス」に置き換えられました。この「オープンアクセス」は基本的に全ての電源が対象となっており、欧州のような系統接続の費用負担まで考慮した自然エネルギーの「優先接続」がないことが問題と考えられます。系統接続の費用負担については、発電事業者の特定負担を最小限に抑え、送配電事業者が計画的に送配電網の整備(設備形成)を行う上で、社会全体のインフラとして一般負担とすべきです。

これまで接続費用については、基本的に発電事業者が費用の全額を負担する「特定負担のみ」(ディープ方式)でしたが、基幹ネットワークの増強費用については、託送料金で回収する「一般負担」を可能とするガイドラインが2015年11月に定められました[5]。しかし、「電力広域的運営推進機関[6]」(OCCTO)が2016年3月に定めた「一般負担の上限額」では、変動する自然エネルギー(太陽光、風力)の上限額が火力発電の半分程度と不利な基準となっています。

国がいまだに、「エネルギー基本計画」(2014年4月閣議決定)で原発をベースロード電源と位置づけていることや、送電網が電力会社の供給エリアごとに運用され、欧州並みの自然エネルギーの「優先給電」が実現できていないことも課題です。

電力会社と電力会社を結ぶ会社間連系線の活用についても、自然エネルギーのための活用はこれからの課題で、これまでほとんど緊急時しか使われていません。欧州のように、太陽光や風力など変動する自然エネルギーを前提とした調整力が、電力システムに求められています。

これらの課題の解決に向けては、新たに電力システム改革の第一弾として2015年4月に設立されたOCCTOの委員会等での検討や、送配電等業務指針等の運用ルール(ガイドライン)に委ねられています。OCCTOの「送配電等業務指針」は、一般送配電事業者及び送電事業者が行う託送供給、その他の変電、送電及び配電に係る業務の実施に関する基本的な指針を定めており、電力系統への接続に関する各種手続きや接続後の優先給電のルールなども定められています[7]。

卸電力市場の課題

現在は規模の小さい卸電力市場(卸電力取引所JEPXなど)の取引規模や内容を拡充し、欧州のように小売電気事業者が公平に必要な種類や量の電気を調達し、販売できる状況にしていく必要があります。JEPXによる取引量は、いまだ国内の全販売電力量の2%未満に留まっています(2014年度実績)。

卸電力市場の拡充については2016年4月から、実需給の1時間前まで売買可能な1時間前市場がスタートし、中長期的な先物市場や、より短期のリアルタイム市場の整備が予定されています。

さらに2016年9月に総合資源エネルギー調査会において「電力システム改革貫徹のための政策小委員会[8]」が創設され、卸電力市場についても「ベースロード電源」へのアクセスや調整力のための「容量市場」、CO2削減のための「非化石価値取引市場」などの検討が市場整備ワーキンググループで始まっています。

認定NPO法人 環境エネルギー政策研究所(ISEP)松原弘直

〈参考〉
[1] 総合資源エネルギー調査会 電力基本政策小委員会
http://www.meti.go.jp/committee/gizi_8/21.html#kihonseisaku
[2] 電力・ガス取引監視等委員会ホームページ
http://www.emsc.meti.go.jp/
[3] パワーシフト・キャンペーン
http://power-shift.org/
[4] 経済産業省「電力の小売営業に関する指針」(2016年1月)
http://www.meti.go.jp/press/2015/01/20160129007/20160129007.html
[5] 経済産業省「発電設備の設置に伴う電力系統の増強及び事業者の費用負担の在り方に関する指針」(2015年11月)
[6] 電力広域的運営推進機関(OCCTO)
http://www.occto.or.jp/
[7] OCCTO「送配電等業務指針」(2016年3月)
https://www.occto.or.jp/jigyosha/koikirules/2016_0331_teikan_kitei_shishin_HP.html
[8] 総合資源エネルギー調査会「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」
http://www.meti.go.jp/committee/gizi_8/18.html#denryoku_system_kaikaku

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