ニュースレター

2016年09月19日

 

ふるさと納税制度:どこに暮らしていても「ふるさと」を支援する仕組み

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JFS ニュースレター No.168 (2016年8月号)

写真イメージ画像:Photo by Japan for Sustainability.

日本には、暮らしている地域に関わりなく、自分が応援したい地方自治体に寄附ができる「ふるさと納税」という名前の制度があります。ふるさと納税は、現在、大変な人気を集めていますが、それは何故でしょうか。また、何故、寄附なのに「納税」という名前がついているのでしょうか。その問題点は何でしょうか。今月号のニュースレターでは、「ふるさと納税」制度についてお伝えします。

ふるさと納税制度の仕組み

日本では、地方から都市への人口流出、つまり地方で生まれ育った多くの人が、進学や就職の際に都市部へと暮らしの拠点を移す流れが続いています。そのため、たくさんの人が暮らす都市部の自治体は安定した税収を得ることができますが、地方の自治体は人口が減少傾向にあるため、十分な税収を確保することが出来ません。そこで、暮らしている自治体だけではなく、ふるさとにも納税できる制度があっても良いのではないかとの問題意識から生まれたのが「ふるさと納税」という寄附の制度です。現実には「ふるさと」の定義が難しいことから、出身地だけではなく、どこの自治体(都道府県と市町村)にも寄附ができる仕組みとして、2008年5月にスタートしました。

仕組みをもう少し詳しく説明します。例えば、東京都A市に暮らしているBさんが、出身地や応援しているC町に「ふるさと納税」制度を使って3万円を寄附すると、そのお金はC町に寄附されます。そして、寄附した3万円から2000円を引いた額(2万8000円分)が、Bさんが暮らすA市に払う税金から控除されます(ただし、控除の対象となる寄附金額には、収入や家族構成等に応じて上限があります)。それだけではありません。自治体の多くは、ふるさと納税のお礼として、地域の特産品などを寄附者に送っています。こうした返礼品として、牛肉やカニ、メロンなど高価なものを送る自治体もあり、「寄附すれば、税金が控除される上に、返礼品も貰える」と人気を集めているのです。

2015年には、寄附した全額が税金の控除対象となる限度額が約2倍に引き上げられ、控除を受ける仕組みが簡略化されるなど、政府もふるさと納税を推進するための対策を進めています。このため、ふるさと納税制度がスタートした2008年には、約81億円だった寄附の金額(自治体のふるさと納税の受入額)は、2015年には約1650億円と、約20倍に増加しました。

寄附金の使われ方

ふるさと納税によって得た寄附金の使い方は、自治体によって様々です。例えば、人口約5千人の北海道の上士幌町では、住民税などの税収は6億円ほどなのに対して、2015年度のふるさと納税による寄附額は15億円を超えました(上士幌町の返礼品には、地元の和牛やジェラートが含まれています)。この寄附金は、「子育て少子化対策夢基金」などのために使われており、2016年度から10年間、上士幌町認定の子ども園を無料化することが発表されました。また、返礼品は、地元の特産物のブランド化にも一役買っています。

地域の自然や、歴史・文化を守るためにふるさと納税を活用している自治体もあります。例えば、栃木県足利市には、日本最古の学校と伝えられる足利学校があります。足利市では寄附者が「教育・文化分野」、「市民・福祉分野」など幾つかの選択肢から寄附金の使い道を選ぶことができますが、その中に「足利学校の改修費」が含まれています。広島県の広島市も、ふるさと納税の寄附金を被爆建物の保存にあてることを発表しています。

また、ふるさと納税は、被災地支援の手段としても注目されています。ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」によると、2016年3月に発生した熊本地震への災害支援のための寄附額は、2016年8月7日現在、14億円を超えています。こうした災害支援としてのふるさと納税では、特産品の送付は行なわれないのが一般的です。熊本県へのふるさと納税でも、寄附をした人の多くが返礼品の受け取りを辞退しています。

ふるさとチョイスウェブサイト
〈参考〉ふるさとチョイス
http://www.furusato-tax.jp/

明らかになる問題点

このように注目を集めているふるさと納税ですが、寄附額が大きくなるに連れて、さまざまな問題点も指摘されるようになってきました。ここでは3点問題点を紹介します。

1点目は、「返礼品が高価になっていく」という問題です。高価な返礼品を提供する自治体に寄附が集まる傾向があるため、返礼品が高額になる傾向があります。国全体で見ると、寄附金の半額が返礼品の購入や送料にあてられているとも言われています。各自治体の返礼品を紹介するウエブサイトや書籍もあり、「地域を支援する」というよりも、返礼品を目当てに寄附をする人も多いのが現状です。また返礼品の中には、電化製品など、地域の特産品とは無関係なものも含まれています。地域で使える「ふるさと感謝券」がネットオークションで換金される事例もあります。こうした現状について、「ふるさとを支援する」という当初の趣旨から離れているという批判があります。

2点目は、「ふるさと納税」の寄附の受入額から減税分を差し引いた自治体の収支をみると、一部の自治体が黒字を出している一方で、赤字の自治体も存在することです。赤字を出している自治体は都市部が中心です。2014年度の収支が赤字だった自治体をみると、横浜市が約5億2000万円、東京都世田谷区が3億1000万円、東京都港区が2億8000万円の赤字です(朝日新聞4月13日朝刊より)。

都市部に赤字の自治体が多いのは、都市部の住民が地方の自治体にふるさと納税を行なうと、その分住民税などが控除対象となるため、都市部の自治体の税収が減るためです。ふるさと納税制度は、都市部に支払われている税金の一部が地方に回るように作られた制度とはいえ、都市部の自治体にとって赤字は頭の痛い問題です。例えば、2014年度の赤字が約3億円だった世田谷区では、2015年度の赤字額は2倍の約6億円に増えています(データは上の朝日新聞の記事より)。

3番目の問題は、都市部で生じている赤字とも関係しています。「ふるさと納税の仕組み」でご紹介したように、寄附者がふるさと納税制度で寄附した金額から2000円を引いた額が、住民税などから控除されます。控除の対象となる寄附金額には、収入や家族構成等に応じて上限がありますが、高所得者ほど控除対象額も高額になります。

総務省が発表している全額控除されるふるさと納税額(年間上限)の目安によると、夫婦と高校生の子どもがいる世帯で、世帯収入が300万円の場合は、1万1000円までがふるさと納税が税控除の対象です。それに対して、夫婦と高校生の子どもがいる世帯で世帯収入が2500万円の場合は、控除対象額は81万8000円なのです。

そのために、高所得者が、節税対策として、返礼品が得られる「ふるさと納税」を利用しているという批判もあります。返礼品をまとめたサイトには、「100万円以上の寄附でもらえるお礼の品」といった表現もみられます。

新たな展開

このような批判があるものの、ふるさと納税制度は、まだ発展途上の制度です。高額化する返礼品に対する批判を受けて、総務省も2016年4月に、ふるさと納税は利益を求めない寄附であることを踏まえて、寄附の募集に際し、「返礼品の価格」の表示を行なわないこと、また電化製品や換金性の高いプリペイドカードなどを返礼品にしないことなどを自治体に通知しました。今回の通知には強制力はないので、今後どのようなルールが作られていくのか見守る必要があります。

また2016年度からは、企業版のふるさと納税制度もスタートしました。これは企業が地方自治体の事業(地域活性化につながると政府が認定した事業)に寄附をすると、税金が約60%減税される制度です。例えば企業がこの制度を使って自治体に1000万円を寄附すると、企業の税負担は約600万円減ることになります。この企業版のふるさと納税では、不正につながりかねないという理由から、個人版には認められている「返礼品」は認められていません。

このように現在も発展を続けている「ふるさと納税制度」ですが、「地域やふるさとを支援する」という理念を保ち、日本の地方創生につながるよい形で活用が進んでいくよう、しっかり注目しつづけたいと思います。

スタッフライター 新津尚子

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