ニュースレター

2015年08月31日

 

こども夢の商店街の「おむすび通貨」が地域を元気に強くする!

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JFS ニュースレター No.156 (2015年8月号)

「おむすび通貨」という面白い取り組みをしている、一般社団法人「物々交換局」代表理事・吉田大韋さんにお話を伺いました。わくわくする地域通貨の試みです!

枝廣:どのような問題意識から始められたのですか?

吉田:田舎に移住して、ストーブの薪を自給する技術を身につけるために森林ボランティア講座に参加したのをきっかけに、自然環境問題にも関心を持つようになりました。いろいろ見聞きし、勉強していくうちに、これは経済問題だと考えるようになりました。自然と経済が分断されている限り、自然環境問題は解決できないだろうと。

また田舎に移り住んだら、近所のおじいちゃん、おばあちゃんたちがすごく世話を焼いてくれたんです。野菜をよくもらうようになって、「何かをもらったらお返しをしなきゃいけない」と思って、都会でおいしいケーキなどを買って来てお返しをしていたのですが、そのうち違和感が出てきたのです。「どんなお返しが妥当なのだろうか?」と考えているうちに、「お金に換算できない価値」について考えるようになりました。スーパーで買えば200~300円の野菜だと思うんですよ、きっと。だけど、それから得られる満足感――安心感やうれしさは、貨幣価値では換算できない。世の中に貨幣価値で換算できないものがたくさんあるのに、今はすべての価値を貨幣価値に換算して「どれだけ豊かになったか」とか言っている。その結果、人と人の結びつきが壊れてしまって、今はコミュニティの重要性が再認識されています。

いろいろ勉強しているうちに、シルビオ・ゲゼルの理論を知りました。ゲゼルが提唱したように、お金も、食べ物や衣服や家と同じように、時間が経つと価値が減ってしまえば、いろんな問題が解決するように思えました。だけれども、日本円の価値が減らないのに、どうやったら価値が減る新しいお金を受け取ってもらえるのか、それがわからなかった。

あるときふと思ったんです。価格としての数字が間にあって取引するときには、お互い「損得」を考えた交換をするから、人間関係なんて生まれるわけがない。でも、「コーヒーを飲むときに、知り合いの店だったら、僕が自分で作った米を持っていけばたぶん飲ませてくれる。でも、毎日米を背負って行くわけにはいかないから、『米ができたら交換します』という券にすればいい」と。「ちょっと待てよ、米はいずれ腐る。つまり価値の保存に限度がある。米本位のお金を作れば、ゲゼルの理論を具体化できるんじゃないか」というところから始まったんです。それに、「お米を持ってきてくれた。それでこちらはコーヒーを出す」という、価格がぼやけた交換なら、お金を使っていても人と人との結びつきができるんじゃないか、と感じておむすび通貨を始めたんです。

枝廣:どのように始められたのですか?

吉田:後先を深く考えずに始めてしまったのですが、2010年に、縁のあったアースデイ・マーケットでボランティアスタッフにあげて、出店者に受け取ってもらいました。通貨として一般化するには、あげるのではなく、多くの人におむすび通貨を買ってもらう必要があって、「子どもたちのマーケットをやったら買ってもらえるんじゃないかな」と思ったんです。それで、商店街などで「こども夢の商店街」というのをやったら、大人がたくさんおむすび通貨を買ってくれるようになった。2013年からの2年間で500万円を超えるおむすび通貨が売れました。

枝廣:どのような仕組みになっているのですか?

吉田:「こども夢の商店街」は、商店街アーケードなどのオープンスペースを使って開く、子どもたちの商店街です。使わなくなったおもちゃ、着られなくなった洋服や自分で作った手芸雑貨など、小学生が思い思いに自分のお店を出して売ることができます。ゴム鉄砲を作って売る子がいたり、手品ショーをする子がいたり、なにかを体験できるお店を開く子もいます。お店を開かなくても、ハローワークや警察署、放送局、清掃局など、さまざまな「オシゴト」をすることもできます。当日はたくさんの子供のお店が商店街アーケードに並び、ものすごい人出ですよ。

この、こども夢の商店街の"お金"がおむすび通貨(1むすび=50円相当)なのです。お店での売買はおむすび通貨以外ではできません。日本円を使って売買すると、警察官にタイホされます(笑)。

枝廣:どうやっておむすび通貨を手に入れるのですか?

吉田:子どもたちは、基本的に、お店を開いて何かを売るか、ハローワークで「オシゴト」を探して稼ぐしかないんです。お店を出さない子は、警察官や清掃などの「オシゴト」をして、銀行でお給料としておむすび通貨をもらいます。お給料の原資は、子供達が日本円で最初に払う住民税です。大人は当日、日本円をおむすび通貨に両替して、子どもの店で買い物をすることができます。

枝廣:楽しそうですねぇ!

吉田:ええ、子供の発想で大人の仕事をやってみることで、自主性や自信がはぐくまれるという教育的効果もあります。

枝廣:当日、こども夢の商店街の会場では、おむすび通貨がモノやサービスの媒介をするわけですが、当日が終わったら、おむすび通貨はどうなるのですか?

吉田:こども夢の商店街では、1日で40~60万円のおむすび通貨が日本円から両替され、発行されます。でも、おむすび通貨は日本円には戻せないしくみなんです。それから、こども夢の商店街でお店を出した子だけは、当日に限っておむすび通貨をお米に交換できますが、一般の方はおむすび通貨をお米に変えることもできません。ですから、おむすび通貨は、地元の中小企業や個人が経営する店で使われます。

枝廣:以前、各地の地域通貨について調べたとき、発行するのはボランティアをしたらあげるとかいくらでも発行できるけど、いちばんむずかしいのは出口だということがわかりました。その地域通貨が使えるお店が少ないと、うまくいかないんですよね。提携店はどのくらいあるのですか?

吉田:現在400店ぐらいあります。チラシやパネル、Webサイトで提携店のリストを公開しています。お店によっておむすび通貨の利用上限も違いますが、その条件も含めて提携店にはステッカーが貼ってありますから、どこでどのくらい使えるかがわかります。

枝廣:提携店はおむすび通貨を受け取って、どうするのですか?

吉田:基本的には、日本円には換金できません。最後の出口はお米です。でも、お米をあまりたくさんもらっても、ということで、ほかの提携店で使う。受け取った提携店も、他の提携店で使う。

枝廣:ババ抜きみたい(笑)

吉田:そうです(笑)。そうやって、提携店同士でおむすび通貨をぐるぐる使い回すことで、地域の中で、人のつながりが生まれ、地域経済が活性化します。提携店の人なら、豊田市でいちばん人気のスーパーでも使えるんですよ。おむすび通貨は発行するときに、通用する期限を定めています。最長で半年ぐらいですね。最後に期限が来たら、米に替えてもらうしくみになっています。うちのすぐそばでも作っている地元米です。

枝廣:その農家が最終的に受け取ったおむすび通貨と引き替えに、最初におむすび通貨に両替した日本円が行くわけですね?

吉田:そういうことです。おむすび通貨の発行団体である一般社団法人物々交換局が販売時に預かる日本円が、農家に米代として支払われます。

枝廣:提携店リストを見ると、たくさんの飲食店のほか、衣料雑貨、美容室、ネイル、車検やオイル交換、印刷まで、いろいろなお店がありますね。お店の参加動機はどのようなものなのでしょう?

吉田:「子どもを応援したい」という気持ちが大きいですね。「これはいいイベントだから、うちでも使えるようにしてもいいよ」って。

枝廣:こども夢の商店街を舞台におむすび通貨を展開してきた吉田さんが今後やりたいこと、考えていることはどのようなことですか?

吉田:僕が何のためにこんなことをやっているかというと、そもそも人間的な経済の仕組みを作りたかったからです。おむすび通貨では経済の仕組みになりません。豊田市だったら何十億とか何百億とか、そういうお金が地域通貨でまわっていく仕組みを作らなくてはいけない。それをこれからやっていくつもりです。

おむすび通貨をやってきたことで、市や商工会議所など、いろいろな人が、ボランティアクーポンではない、中小企業が使い合う地域通貨に興味を持ってくれるようになりました。おむすび通貨をベースとして、「中小企業が使い合う無期限地域通貨」の実証実験を行うための助成金を得て、関係者と協議を重ねているところです。

枝廣:今後の展開に大いに期待しています! ありがとうございました。


一般社団法人「物々交換局」代表理事・吉田大韋さんへのインタビューより
(編集:枝廣淳子)

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