ニュースレター

2015年03月31日

 

食の新しいスタイル、家庭の余り食材が「サルベージ・パーティ」で美味しく変身

Keywords:  ニュースレター  3R・廃棄物  食糧 

 

JFS ニュースレター No.151 (2015年3月号)

写真:JFSの初サルパ

家庭で使いきれない食材をみんなが持ち寄って、シェフがおいしい料理に変身させる「サルベージ・パーティ(サルパ)」が、今、注目されています。「サルベージ」とは、元々「難破船を救い出す」という意味。冷蔵庫の中でもう少しでダメになってしまいそうな食材を「救い出す」ということから、パーティではさまざまなメリットが生み出されています。

〈参考〉
サルベージ・パーティ
http://salvageparty.com/

発案者であり、サルパ事務局代表のトータルフードプロデューサー・平井巧(ひらいさとし)さんは、「日本ではたくさんの食品が捨てられていますが、サルパを通して、食について考えるきっかけができれば」という思いから2013年にこのアイデアを形にし、今では全国に広がっています。

シェフが即興で料理するパーティ

「サルベージ・パーティ」とは、実際にどのように行われるのでしょうか?2015年1月24日に東京都渋谷区のサロンで行われたサルパの様子をご紹介します。

参加者は13人。主催者の平井さんと、この日のサルベージシェフ松本真平さん以外は全て女性。家庭の食卓を預かる主婦が多く、使いきれず余っていた食材を持ち寄ると、缶詰、乾物、マカロニ、野菜などがテーブル上にぎっしりと並びました。

まずは自己紹介を兼ねて、それぞれの人が、なぜその食材を持ってきたかを話します。
「実家からたくさん送ってきた」
「珍しいお土産をいただいたものの、使いきれない」
「非常食用に買ったけれど、結局どう調理していいかわからない」
「大型スーパーでまとめ買いしたけれど、使いきれず」
など、理由はさまざまながら、その家庭の台所事情がわかるようで、お互いに興味深く聞き合っていました。

そして、すぐにシェフがインスピレーションで料理を始めます。その日に、何が集まるかが、事前に知らされていたわけでもなく、何の打ち合わせもありません。この日は、「冷蔵庫の整理法」について考えるワークショップを行っている間に、キッチンからおいしそうな香りがただよってきました。

そして、一品ずつ運ばれてくると、その都度歓声が上がりました。
出来上がった料理は、

  • 缶詰のサバと豆腐と小エビをマヨネーズとレモン汁で和えたサラダ
  • タマネギ、キャベツ、レンコン、ナスをトマトソース味で煮込んだミネストローネ
  • 松茸の味お吸い物で味付けをした高野豆腐入りのオムレツ
  • タイ風 春雨と缶詰のイワシ、小エビ、キャベツ、卵の炒め物
  • ホワイトアスパラと麩入りのマカロニ、デミグラスソース
  • ポップコーン敷きホットケーキの特製シロップかけ

家庭で余らせていたものが、こんなご馳走になるとは!というその意外性に誰もがびっくり。写真を撮ったり、そのレシピについてひとしきり話が弾んだりと、おいしいものを囲みながらの会話が広がりました。1人で料理をしている日常では、ついマンネリになりがちですが、使いきれなかった食材の調理法をプロから学び、お互いの情報交換をすることで、たくさんのメリットが生まれたのです。

日本の食品廃棄は、家庭からが一番

2013年4月、この「サルベージ・パーティ」は、ひょんなきっかけから生まれました。平井さんが、「片づけ・整理」の仕事をしているライフオーガナイザーの女性と何気なく雑談していたとき、その女性から「家庭の冷蔵庫を整理すると、使いきれていない食品がいっぱい出てくるお宅が多い」、さらに「フードロス・チャレンジ・プロジェクトに関わったことから、日本の食料廃棄の現状を知った」ということを聞きました。そこで「閃いた!」のが、この「余った食材を持ち寄るパーティ」だったのです。

〈参考〉
日本ライフオーガナイザー協会
http://jalo.jp/
フードロス・チャレンジ・プロジェクト
http://foodlosschallenge.com/

〈JFS関連記事〉
食料ロス・廃棄問題の解決を目指す共創型プロジェクト 「フードロス・チャレンジ・プロジェクト」
http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id034726.html

平井さんは、これまで飲食店で働いたり、シェフと組んでフードイベントを主催したりするなかで、大量の食品が廃棄される事実を目の当たりにしてきました。「捨てる」ということが、飲食店でも家庭でも、ひょっとしてマヒしてしまいがちだとしたら?「これではいけない」と気づいたのです。

フードロス・チャレンジ・プロジェクトとは、生活者、企業、行政、NPO、学識者などがお互いの知見を持ち寄って、食料ロス・廃棄問題の解決を目指していこうという共創型プロジェクト(代表/元国連食糧農業機関(FAO)日本事務所企画官の大軒恵美子氏、事務局/広告代理店の博報堂)で、2013年1月に発足されました。さまざまな分野の人たちが集まって、「生産・製造加工・流通・消費」のシステム全体について考えるカンファレンスやワークショップ、スタディツアーなどを開催してきました。そこで、平井さんがこのプロジェクトに「余った食材持ち寄りパーティ」のアイデアを持ち込むと、その趣旨が受け入れられ、すぐに共催となってくれました。

世界では、飢餓人口が8億500万人(2014年国連食糧農業機関(FAO)発表)いるにもかかわらず、食べられるものの3分の1が捨てられています。日本は食料自給率が39%でありながら、食品ロスは、年間500~800万トンで、その量は年間の国内米生産量にも匹敵するのです。中でも家庭からの廃棄が一番多いという事実は、案外知られていない上に、企業よりもそのロスは量りにくいものです。それを生活者にどう訴えていくかは、大きな課題でもあります。○○運動というより、楽しいパーティ形式で行うことは、その入り口として、受け入れやすくなるのかもしれません。

このアイデアは、「サルベージ・パーティ」略して「サルパ」と名づけられ、同年7月、「まずは試験的に」と、第1回目が開催されました。約30人の参加者が食材を持ち寄り、シェフが即興でアイデア料理をひねり出し、その数11品。ゲーム感覚あふれる楽しさの中で、難しい話をしなくても、フードロスのことを自然に考えるきっかけとして大成功。その後、2回目、3回目のパーティ開催へとつながっていきました。

食の新しいスタイルとして

このパーティに参加した人たちが、「これは面白い!」「自分たちでもやってみたい!」と、やがて口コミで広がっていきました。特に日々食べものの使い切りに関心を寄せる主婦同志でグループを作って食材を持ち寄り、プロのシェフでなくても、みんなで一緒に作るという試みも生まれてきました。

一方、フードロス・チャレンジ・プロジェクトが主催するシンポジウムの懇親会でも、サルパが取り入れられ、70人分の料理が提供され、神奈川県の街づくりイベントでは100人分という大規模サルパも行われるようになりました。

2014年、サルベージ・パーティのホームページが立ち上がり、だれもがこのパーティに参加したり、開催したりできるようなマニュアルが掲載されました。そして、テレビ、新聞、雑誌でも紹介されるようになり、サルパはますます全国に広まっていきました。

最近では、オヤコサルパ、屋外でのサルパが行われたり、「サルベージの100ページ」として保存食作りなどのワークショップを開いたり、料理レシピサイト FOODIESとのコラボで、サルベージ・レシピオーディションも行われたりしています。

〈参考〉
FOODIES
http://recipe.foodiestv.jp/audition/a0915c/

2015年1月、JFSでも新年会という形で初のサルパを開催しました。日ごろからJFSに関わっている料理の得意な双子の男性と友人による料理は、和洋中のバラエティに富んだもの。その数10品以上で、家庭で余っていたものがこれほどのご馳走になるという意外性で、会は盛り上がり、初の試みは大成功でした。

平井さんは「このパーティをやったからといって、すぐに世界や日本のフードロスがなくなるわけではありません。でも、参加した人たちが持ってきた食材はそのまま家に置いておけばゴミになってしまったかもしれないところ、パーティでそれが使われた瞬間、みなさんほんとにうれしそう。そこで、その食材に愛が芽生えているんですよね。これからは誰もが参加できるようにますます受け皿を作りたいし、さらにはパーティだけではなく、食の新しいスタイルとして提案していきたいと思っています」

家庭で眠ってしまいがちな食材が、小さなきっかけで日の目を見て、個と社会がつながっていくということ。モノも食もあふれる先進国日本で、サルパは、今、まさに求められている形かもしれません。

スタッフライター 大野多恵子

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