ニュースレター

2015年02月16日

 

SRI拡大に向けた日本の現状と課題

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JFS ニュースレター No.149 (2015年1月号)

写真:Is time running out?
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Global Sustainable Investment Alliance(GSIA)が発行したGlobal Sustainable Investment Review 2012 によると、世界のSRI市場規模は約13.6兆ドルです。日本はその1,000分の1にも満たない100億ドルとかなり低調で、機関投資家の積極的な関与がないことが、その理由として挙げられています。

一方で、機関投資家を巻き込んで、投資先の経営を監視する機能を強める動きが出てきており、SRI拡大につながることも期待されます。

〈参考:JFS関連記事〉
日本版スチュワードシップ・コード、投資家の導入広がる

今月号のニュースレターでは、NPO法人社会的責任投資フォーラム(JSIF)の快諾を得て、2014年3月31日に発行された『日本SRI年報2013』より、エグゼクティブ・サマリーからの抜粋で、日本におけるSRIの現状と課題についてお伝えします。

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個人投資家とSRI

「アベノミクス」の期待などで株価は上昇し、2013年9月末までの2年間に公募投資信託全体の純資産残高は24.6%増加、ファンド本数も12.6%増加した。一方で、公募SRI投信は2010年6月末時点の93本をピークに減少に転じた。償還ファンドが増え、2011年4月以降は新規設定がなく、純減が恒常化している。純資産残高は2435億円へ約7%減にとどまったが、資金流入ではなく、堅調な市況に支えられた結果と言える。

公募SRI投資信託資金の7割以上が環境評価に集中しており、特に「国際株式型×環境」で全体の約半数を占める。社会貢献型債券は、2013年9月末時点で累計販売額が7900億円、発行残高が4983億円に達し、拡大ぶりは顕著である。

資金使途では、29銘柄・2679億円が気候変動対策事業、11銘柄・1826億円がワクチン債、9銘柄・1557億円が貧困対策事業(うち5銘柄がマイクロファイナンス)、3銘柄・1017億円が水問題対策事業、3銘柄・476億円が食糧・農業関連事業、2銘柄・343億円が教育関連事業となっている。

社会的課題に関心の高い若年層を中心に"社会貢献"に少額で投資に参加するケースも散見され、「貯蓄から投資へ」の流れを促す新たな切り口としても期待が高まっている。

今後、厚みのある市場に育てるには、機関投資家の参加を促す商品開発に加えて、新たなガイドラインの策定も求められる。日本国内の課題に対応する仕組みも求められる。日本では未だ議論が進んでいる分野ではないが、政府と民間が連携したスキームとして「ソーシャル・インパクト・ボンド」も、日本が抱える課題解決に貢献する大きな役割を果たすと考えられる。投資税制の取り扱いも含め、産官連携による包括的な仕組みづくりが必要だろう。

機関投資家とSRI

・ワーカーズキャピタルの所有者と責任投資

日本労働組合総連合会(連合)は、2010年12月の「ワーカーズキャピタル責任投資ガイドライン」策定後、2011年4月に「ワーカーズキャピタル責任投資推進協議会」を設置し、構成組織に情報提供等の支援を行ってきた。責任投資を実践する手引きとして、2013年4月に企業年金を想定し、各構成組織・単組が基金や事業主と協議を行い、責任投資の手法を決定する具体的な手順を示す「『ワーカーズキャピタル責任投資ガイドライン』に基づく取り組みの手引き」をまとめた。6月には「ワーカーズキャピタル責任投資推進会議」を立ち上げた。

地方公務員共済組合連合会は2010年2月より国内株式を対象にESG要因に着目した社会的責任投資を開始した。さらに、株主議決権行使ガイドラインを制定した 。

労働金庫連合会は2010年4月より「労金連のSRI(社会的責任投資)原則」を実施している。2012年度には約100億円に達しようとする水準にまで投資額も増えている。

損保労連は2013年4月にJSIFへの加盟と企業年金連絡協議会への賛助会員加入を果たした。損保産業では、複数の会社や系列アセットマネージャーがPRIに署名しており、労使が同じベクトルで取り組みを進めることは金融や他産業の労使にとって大いに参考になる。

株主行動

安倍政権の成長戦略は、ESGの課題であるコーポレート・ガバナンス見直しや女性活用も取り上げている。緊急構造改革プログラムの中で、2013年中に1)社外取締役の導入に関する会社法改正案の策定、2)機関投資家が適切に受託者責任を果たすための原則の検討・取りまとめ、3)インデックス(株価指数)の概要の公表と策定を行うこととされた。

1)については社外取締役の義務化は見送られたが、監査・監督委員会設置会社が認められることになった。2)については現在日本版スチュワードシップ・コードの検討が行われている。3)の株価指数については企業業績とコーポレート・ガバナンス要素を加味した「JPX日経400」指数が2014年1月から公表されている。

日本においても、エンゲージメントに注目があつまり議決権行使の実践が広がっている。投資家のエンゲージメントは、目に見える形で報告されることは少なく、社会の目に触れるのは株主提案などのエンゲージメントに限られる。

日本においては、個人株主があつまり株主提案基準を満たす議決権数を集めた議決権をもって提案するのが主流であったが、近年では単独の個人株主、ファンド単体、主要株主である自治体により提案される例も多く、社外取締役候補の推薦や、企業経営の透明性向上を要求する企業経営への関与を深めることを目的とするようになってきた 。

東京電力の大株主である東京都や、関西電力の株主である大阪市など、地方自治体による提案は、環境・社会・ガバナンス問題に対して、株主提案や企業との直接交渉を含むエンゲージメントを通じて企業へ関与し始めたという点で、2011年以降の特筆すべき変化であろう。

だが、日本のUNPRI署名機関から、共同エンゲージメントへの参加は未だ見られない。また、機関投資家の株主提案への賛成には消極的であり、社会環境問題を扱う提案の賛成について慎重な様子が伺える。

サステナブル・ファイナンス

・持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則

国際的にはUNEP FI(国連環境計画・金融イニシアティブ)、PRI(責任投資原則)、PSI(持続可能な保険原則)、プロジェクト・ファイナンス業務における赤道原則などの原則があるが、この日本版というべきものが「持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則(21世紀金融行動原則)」である。2013年9月末現在、主要な大手と全都道府県の地銀、信金等を含む188の金融機関が参加するに至っている。

原則の趣旨は「社会を持続可能なものに変えていくにはお金の流れをそれに適合したものに変える必要」があり、金融はお金を「社会の様々な資源が経済主体間や地域間、世代間をつないで最適に配分」することで社会の持続可能性を高める必要があると説かれている。また、「生活基盤の安全を確保するための災害対応はもちろん、地域や国内産業が持続可能性を高め競争力を強めていくことをサポートする必要がある」と明記した。「グローバル社会の一員として地球規模で社会の持続可能性を高めることへの貢献」の必要性を謳い、PRIやUNEP FIなどの国際的な組織と連携して世界の環境・社会問題の解決にも取り組む必要性も強調している。

組織的には運営委員会と態別、テーマ別のワーキンググループ(WG)を5つ設置した 。1.運用・証券・投資銀行業務WG、2.保険業務WG、3.預金・貸出・リース業務WG、4.テーマ別WG(環境不動産WG、持続可能な地域支援WG)

WGの活動は、2年目に入り充実してきた。環境だけでなく社会的テーマにもすそ野が広がり、名実ともにESGをカバーする体制が整ってきた。21世紀金融行動原則には全都道府県から多様な業態の188社の金融機関が署名しているが、このフレームワークは有効に活用されなければならない。

・コミュニティ投資の普及

日本のコミュニティ投資は 2000年代まで待たざるを得なかったが、現在は、NPOバンク、マイクロ投資ファンド、マイクロファイナンス等が盛んとなり、ひとつのまとまりとして把握することが可能となっている。

NPOバンクは堅調に融資を続け、2013年12月1日時点で23団体にのぼる(うち社会的企業を主な融資対象とするもの14団体、生活困窮者を主な融資対象とするもの9団体)。社会的企業を主な融資対象とする14団体の2013年3月末時点の融資累計は27億円余りに上る。一部のNPOバンクでは、金融機関との積極的な協働の動きもみられる。個人向けNPOバンクでも事業化が広がっている。

マイクロ投資ファンドでは、「セキュリテ被災地支援ファンド」の取り組みが注目を浴び 、固定価格買取制度の追い風もあり、マイクロ投資ファンドを活用した「市民共同発電所」が広がりを見せるなど、この2年間で大きく伸びている。

〈参考:JFS関連記事〉
応援基金、信金・NPOとも連携して被災事業者などを支援
市民がつくる太陽光発電所 福島りょうぜん市民共同発電所が完成

2012年以降は、「多くの人々から、主にWEBを通じて資金を調達する手法」であるクラウドファンディングが広がりを見せ、新しい資金調達手段として注目されている。現在では50以上のプラットフォームが生まれている。

マイクロファイナンスは、途上国向けの取り組みが順調に進んでいる。国内向けでも新しい取り組みが生まれ、政策的支援も進み始めている。

今後の課題としては、第一にコミュニティ投融資全般への制度的枠組みの確立、第二に担い手同士のネットワークによる力量強化である。

JSIF 日本SRI年報2013(2014年3月31日発行)より
http://www.jsif.jp.net/#!annual/c1j8d
(編集:枝廣淳子)

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