ニュースレター

2015年01月14日

 

持続可能な日本 ~ 日本が直面している変化とチャレンジ

Keywords:  ニュースレター  定常型社会 

 

JFS ニュースレター No.148 (2014年12月号)

写真:老いてられない
イメージ写真:Photo by 八犬伝 Some Rights Reserved.

2014年9月10日に開催された、経済・社会・自然科学・環境分野の研究者による国際ネットワーク Club of Vienna 主催のシンポジウム「Cope with the Stressof Future Changes - Preparing States, Region, Cities, Organization,Families and People for the Ongoing Transition」。前号では、このシンポジウムで行った日本の持続可能性に関する講演から、「フクシマ」から見えてくる日本の課題についてお伝えしました。今月号では、日本の地域経済や持続可能性につながる価値観・ライフスタイルなどのお話をさせていただいた部分をお伝えします。

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日本は他国と同様、気候変動の影響にもさらされつつあります。すでに豪雨が増加しており、大雨による土砂崩れと洪水の年間平均発生件数が増加しています。政府は、川が氾濫する確率は、今世紀末には現在の4.4倍になると予測しています。熱中症で亡くなる人の数もすでに増加しています。2010年には、1,700人以上の人が熱中症で亡くなりました。気候変動を抑制できなければ、この数はさらに増える恐れがあります。気候変動の悪影響は、コメや果物などの農業にも及んでいます。

気候変動のもたらす悪影響への対策と同時に、私たちは人口減少と高齢化にも取り組まなくてはいけません。100年前には4000万人だった日本の人口は、この100年間で3倍になり、次の100年間に3分の1になるとみられています。

日本では現在、65歳を超える人の割合は25%です。いま日本に来れば、会う人の4人に1人は65歳以上の高齢者というわけです。その割合は、2035年までには3人に1人、2060年までには5人に2人になるでしょう。

日本では現在、2.57人の労働者で1人の高齢者を支えていますが、2060年には、1.19人で1人の高齢者を支えることになると考えられています。若い世代には大きな負担となります。他の多くの国が高齢者比率25%から30%という状態に向かっていますが、それでも日本は世界の中で際立っています。

日本では現在、どうやって年金制度を維持するかが議論されています。日本の経済が成長できなければ、高齢者への年金支給額が20%あるいは40%も減ることになると予測されているためです。このこともあって、政府や経済学者は「日本経済の成長は必須」と口をそろえて言っています。また、人口減少により、2050年には国土の60%以上が無人地帯になると予測されています。

現在、日本の市区町村の約半分が「消滅可能性都市」と呼ばれています。消滅可能性都市とは、20歳~39歳の女性の人口が30年後に現在の半分以下になる可能性のある市区町村のことです。通常、人口について語る時には「出生率」を気にしますが、たとえ出生率が高くても、実際に出産をする若い女性の数が減少すれば、出生数は減ってしまうのです。

2014年5月に出された報告書によると、900近い市区町村、つまり、全国のほぼ半分の市区町村が「消滅の可能性がある」とされています。「2040年までには20~39歳の年齢層の女性はわずか8人になる」と予測された村もあります。このため、日本は大騒ぎになっています。消滅可能性都市に当てはまる市区町村では、この問題への対策を検討するため、委員会を設立したり、特別研究チームを作ったり大わらわです。

ここでの課題は、地域の機能をいかに維持するかということですが、人口減少に伴って労働力も減少します。政府は、「労働力人口」として定義される年齢を引き上げようとしています。現在は、20~65歳が「労働力人口」ですが、この上限を引き上げ、74歳にしようとしています。

しかし、この新たな定義を用いたとしても、日本の現在の9000万人の労働者人口は、2060年には5200万人、2100年には2600万人となり、労働力は大きく減少すると見込まれています。その中で、どのように日本の経済を維持するでしょうか。どのように経済成長をしようとするのでしょうか。

しかし私は、日本の最大のストレスは、「人口減少に直面しているにもかかわらず、政府や産業界、経済学者たちが成長に執着している」ことから生じているのではないかと考えています。たとえば、企業は、利益の最大化を求めて、人件費を削ることに余念がありません。このことは、失業者と低賃金の非正規労働者が増えることを意味します。

日本は歴史的に終身雇用で知られており、会社への忠誠心も高いとされてきました。しかし、今は違います。現在、日本の労働者の3人に1人が非正規労働者なのです。非正規労働者とは、嘱託社員・期間従業員・パートタイム労働者・臨時雇用者、派遣労働者・請負労働者など、多くの場合、低賃金で、不安定な雇用形態です。

非正規に限らず、全体の賃金指数も大きく下落しています。同時に、失業者率が増え、貧困者の割合も増加しています。そして、今や日本の子どもの6人に1人が貧困状態にあるとされています。この問題について政府はまだきちんとした対応をしていません。現在でも大きな問題ですが、将来にも大きな問題を生み出すことが懸念されています。

日本では持つ者と持たざる者の格差が拡大し、自殺者数も、残念ながら、世界でも上位の国です。自殺者数は、1998年から1999年の間に驚くほど大幅に増加しています。この期間、景気が良くなく、大量の失業者が発生しました。それ以前は、企業によるある種の社会的なセーフティネットがあったのですが、企業はグローバル市場で競争しなければならないため、提供する社会的なセーフティネットを減らす方向に動いています。その一方で、政府の対応が遅れているため、多くの人々は政府や企業からの支援がない状態で解雇されてしまいました。自殺者が大幅に増加したこの時期の特徴の一つは、40代から50代の男性が多かったということです。

日本は他国に比較して、自分に満足している人の割合が少ないことがわかっています。「将来に明るい希望を持っている」と答えた人の割合も日本では少なくなっています。これらは、日本では幸福感が減少傾向にあることを示しています。

人口減少、高齢化、それでも経済成長を続けようとする政府や経済界、蔓延する社会的なストレスや貧困・格差などの問題、幸福度の減少といった状況に直面している日本にとって、何が必要なのでしょうか。

私の個人的見解ですが、ひとつは、政府が長期ビジョンを持つことです。政府は今、経済・景気への対策には余念がありませんが、それは大変に短期的な視野に過ぎず、誰も「2050年の日本は」「将来の日本は」といった長期的なビジョンについて考えたり話したりしていません。

また、「必ずショックは来るが、どのようなショックか、いつどこに来るのか、私たちにはわからない」状況では、いったん制度を決めたら変えないというのではなく、状況に学びながら柔軟に変えていく適応型のガバナンスが必要ですが、これも日本に必要なものの1つです。

そして、現在の原子力発電やエネルギー政策をめぐる政府の姿勢からも明らかなように、国民と協議しながら国の方向性や政策を作っていこうという意思や姿勢が政府に欠けていることも、日本の大きな弱点です。

経済についていえば、私は、経済成長に頼る成長経済ではなく、経済の規模は大きくならないが活発な経済活動が繰り広げられる「定常経済」への移行が必要だと考えています。もちろん、現状ではエコロジカル・フットプリントが地球1個分を超えている日本ですから、まずは、資源やエネルギー、自然資本に対する要求水準をある程度まで減らしてから定常化することになります。

定常経済にするためには、その国なり地域なりの環境収容力を測り、その環境収容力の範囲内で暮らしや経済を営むためのシステムを作らねばなりません。また、日本はこれまで、そして現在も首都圏に偏った経済システムになっていますが、地域に根差した経済への移行が必要です。「地域にあるエネルギー資源を活かしながら地域経済をしっかりしたものにしていく」というテーマの書籍が数十万部も読まれているなど、多くの日本人が地域経済の重要性に気づきつつあります。私たちJFSでも、地域内乗数効果など有用な考え方や事例を日本に紹介する「地域の経済と幸せプロジェクト」を進めています。

私たち日本には、定常経済のお手本があります。1603年から1867年まで続いた江戸時代の日本は、鎖国していたため、海外との物資のやりとりはほとんどなく、日本の国内の資源だけで経済や暮らしをまかなっていました。人口もほぼ安定していたといいます。ある研究者によると、この時代の経済成長率は年0.4%だったそうです。もちろん江戸時代にもさまざまな問題はありましたが、ある意味、持続可能な社会、定常経済が存在していたのです。

江戸時代の終わり頃に、多くの西洋人が日本を訪れました。彼らの書いたものを見ると、「日本人は礼儀正しく、陽気で、とても幸せそうだ」とあります。今の日本では、たくさんの幸せで陽気な日本人に会うことは難しいかもしれません。特に都会では、疲れているか、いらいらしている人が多く、気むずかしく見えることでしょう。しかし、成長しない経済の中でも平和に安心して暮らしていけるようにすることで、陽気で幸せな日本人を取り戻せるとしたら、それこそが私たちが目指さなければならないことではないか、と思うのです。

写真:江戸時代の天ぷら屋台
イメージ画像:Phot by うぃき野郎 Some Rights Reserved.

(枝廣淳子)

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