ニュースレター

2014年12月09日

 

本当の豊かさをもたらす経済とは? ~ 哲学者・内山節さんに聞く(後編)

Keywords:  ニュースレター  定常型社会 

 

JFS ニュースレター No.147 (2014年11月号)

写真:群馬県多野郡上野村 旧黒澤家住宅
群馬県上野村 旧黒澤家住宅
イメージ画像:Photo by 田中十洋 Some Rights Reserved.

JFSがアウトリーチ・パートナーとなっている幸せ経済社会研究所で、JFS法人会員でもあるパタゴニアと共に進めている「経済成長とは?~100人に聞く」プロジェクト。さまざまな分野の有識者など多種多様な方々に「経済成長をめぐる問い」を投げかけ、考えを共有いただくことで、みんなで経済成長について考えていくことを目的としています。

前号では、内山節さんへのインタビューの前編として、経済成長への考え方には大きな転換が必要、という観点から、地域を基盤とした拡大する必要のない経済の事例として、群馬県上野村の事例があがったところまでをお伝えしました。今月号では、共同体の社会から個人の社会になったことの弊害や、持続可能で幸せな社会と経済との関係性についてお伝えします。

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――外から買わざるを得ないものが増え続けなければ、生産して売る物も増え続ける必要はない。必要な分を買える分だけ、作って出せばいいということですね。

写真:内山節氏
内山節氏
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そうです。仮に僕が上野村でホテルを始めたしましょう。じゃんじゃん大きくして、バンバン団体客を呼ぶとなると、それは村にかなりの負荷を与えます。しかし、放っておけば、個人はそういうことも考えるわけです。ただ、地域社会の中に、「ここは地域経済なんだよ」という考え方がある。僕が、ホテルの客室を100室に、500室にしようと考えたとき、「それは、地域社会にとってプラスになるのか?」ということも考えざるを得ないのです。

――それがさっきおっしゃった、経済と社会が一体化しているということでしょうか。共同体があるから、東京ではかからない歯止めがかかるのですね。

そうです。このようなローカル経済のようなものをもう一度つくり出し得るところは、やっていけばいい。あと、もう1つの傾向として、日本の社会では、しだいに家業経済が増えていくだろうと思っています。

――経済成長がもたらす犠牲があるとしたら、どんなものでしょうか。

もちろん、自然に対する負荷がかかり、そういう犠牲もありますが、経済成長を目指す社会は、「個人の社会」をつくっていくことになります。共同体のままで経済成長をめざすということはないからです。

経済成長を目標とする社会は、「GDPを増やしていくには、それだけの労働力があり、それだけの消費者がいる」という構造ですから、「社会の個人化」を促進します。ですから、経済規模が大きい国はどこでも、「個人の社会」という性格を強めていきます。そして今、そのことによる社会的負荷や問題点が大きくなっています。

たとえば現在、東京で高齢者が亡くなったとき、お葬式もなく、手を合わせる人がいない人が10%います。全国的には5%くらいです。そこまで孤立無援な社会をつくったのです。

このことに象徴されるような問題が至るところに出てきています。それらはすべて、日本の高度成長期を含む戦後の結果にすぎない。まさに個人の社会をつくったわけです。

――「持続可能で幸せな社会」と「経済成長」の関係性をどうとらえたらよいのでしょうか?

ローカルスケールの経済をいかに広げていくか、それしかないと思います。それが地域でできるところは地域でやればいいし、新しい形の家業的な形でできる人はそうすればいい。

たとえば、ご夫婦でケーキ屋さんを開くなどやっている若い人がけっこういます。そこでは、1万人のお客さんは要らないんですね。1日に、たとえば100人くらい、場合によっては30~40人が買いに来てくれれば回る経済でしょう。

30~40人来るためには、その10倍か20倍くらいのお客さんが必要かもしれないけど、5万人、10万人は絶対要りません。来てくれる人たちを大事にする経営をすればよいのです。

そういう経済がいろいろな形でできていくときに、通常の資本主義型の経済がだんだんと限定された領域に押し込められていくという形の変革だろうと思います。

もちろん、従業員がいてもかまわないのですが、ただ、「規模の限界」があります。大ざっぱに言って、「300人くらいを上限とする」というイメージかなと思います。300人くらいまでだと、みんなが1つの目的を共有し、みんなで相談したりしながらやっていくことが可能でしょう。

ところが、300人を超えると、社員を管理する部門を独立させないといけなくなってくる。管理部門を独立させると、人事部や総務部といった仕事が会社の要になり始める。すると、「みんなで頑張ってやっていこうね」という会社ではなくなってしまうのです。

――これまでは「規模の経済」という話ばかりを聞いていましたが、これからは「規模の限界」を意識することですね?

そうです。今の社会では、明らかに「規模のデメリット」がはっきりしてきています。上野村で、木質系ペレットで発電するなら、それほど大きくない発電機を3台付けたら、100%以上村の電力は賄えるでしょう。山だらけの村ですから、それくらいの木質系資源はあります。

これも人口1,400人程度の村だからできるのです。明らかに、小さいことが有利です。小さいから、森を荒らすことなく、必要な量のペレット生産が可能なのです。逆に、東京のようなところは、スケールの大きさがデメリットになっていると思います。

結局、ビッグスケールでものを考えること自体、デメリットしかもたらさないのです。たとえば、「日本の家族はどうあるべきか」と考えたら、答えは出ないでしょう。だけど、「わが家族はどうしたらよいか」という話なら、お互いの条件を考えながら、この辺で手を打とうとか、対応ができます。

100人に聞く「経済成長の必要性」(幸せ経済社会研究所)より
http://ishes.org/project/responsible_econ/enquete/

写真:群馬県上野村
上野村の一風景
イメージ画像:Photo by ogajud Some Rights Reserved.

(編集:枝廣淳子)

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