ニュースレター

2014年08月29日

 

「人口減少最先端 高知県の挑戦!」(前編)

Keywords:  ニュースレター  定常型社会 

 

JFS ニュースレター No.144 (2014年8月号)

写真:四万十川と岩間沈下橋
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2014年7月2日に自分の主宰する「イーズ未来共創フォーラム」の異業種勉強会で、高知県の尾﨑正直知事をお招きして、「人口減少最先端 高知県の挑戦!」と題する講演をしていただきました。日本の直面する問題を最先端で体験している高知県の包括的な取り組みをお話しくださった尾﨑知事のお話から、今回は特に産業振興の面を中心に抜粋してお伝えします。

写真:イーズ未来共創フォーラム 異業種勉強会
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写真:尾﨑正直知事
高知県 尾﨑正直知事

高知県は、人口減少の問題に、ずいぶん前から向き合ってきました。国立社会保障・人口問題研究所がまとめた「日本の将来推計人口」では、合計特殊出生率が1.35で推移した場合、100年後の2110年には8000万人以上の人口が減って総人口が4000万人台、高齢化率41.3%に至ると推計されています。

「高齢者1人を支える現役世代の人数」を計算すると、現在は2.57人で1人の高齢者世帯を支えていますが、合計特殊出生率が1.60の高位推計ケースでも、2060年には1.30人で1人の高齢者を、合計特殊出生率が1.35だと、1.19人で1人の高齢者を支えるという現役世代にとって極めて厳しい時代になります。今後、経済的負担が激増していくと、ますます子どもを産めなくなるという"負のスパイラル"に陥っていくことが本当の危機です。

高知県が人口の自然減に突入したのは平成2年のことでした。全国に15年先行して人口自然減に陥ったのです。高齢化については、全国に10年先行して進んでいます。人口減少・高齢化の進行に伴い、県の経済が縮んできました。県内の消費は、一番モノが売れていた平成9年に比べて10年後には2割減となりましたが、これは生産年齢人口の減少にほぼ比例しています。これは、県外市場とのつながりが弱く、県内市場頼みの産業構造となっていたため、人口減少の影響を直接に受けたとも言えます。結果、有効求人倍率も、全体の景気が回復し、全国の数値が上がっても、高知県は変化があまりないという状態が続いてきました。

「経済規模の縮小によって若者が県外に流出すると、ますます過疎化・高齢化が進行し、特に中山間地域が衰退し、少子化が加速し、さらに人口が減少する」という悪循環となります。県ではこの「人口減少の負のスパイラル」を真正面から受け止め、人口減少問題を基軸にすべての政策を進めています。

5つの基本政策として、「経済の活性化~産業振興計画の推進~」「南海トラフ地震対策の抜本強化・加速化」「日本一の健康長寿県づくり」「教育の充実と子育て支援」「インフラの充実と有効活用」を、この5つの基本政策に横断的に関わる政策として「中山間対策の充実・強化」「少子化対策の抜本強化と女性の活躍の場の拡大」を進めています。

産業振興について具体的にお話ししましょう。地産地消も大事ですが、県内経済が縮んでいる中で地元のものを地元で消費するだけでは、ジリ貧になっていくだけです。いかに外から稼ぐかという「地産外商」が必要なのです。

官民協働で外商を強化するため、県外に売り込みを行う高知県地産外商公社を作りました。同時に、東京でも売れる価値のある商品を作るため、官民協働で技術開発やテストマーケティングする場を設けています。そして、各地域に合うものを商品化・産業化していく地域アクションプラン計245プランを展開中です。

外商公社の任務の一つは、銀座にあるアンテナショップ「まるごと高知」の運営です。店舗販売だけでは小さな仕事ですが、いろいろな業務筋への仲介や斡旋をしたり、まるごと高知の店舗にバイヤーを招いてのミニ商談会をしたり、展示商談会で高知県共同ブースを設けて県内の事業者の出展を促し、商談の追い営業を公社の職員が行うということをしています。

外商公社が関与して契約が成立した件数をみると、平成21年の178件が、平成25年には3,333件まで拡大しています。成約金額は、平成23年は3.41億円でしたが、平成25年には12.35億円。これはスタートの金額としての契約ですから、何度か回転を繰り返していくうちに、だんだんと富を生み出していくのではないかと期待しています。

外商公社のもう一つの役割は、いろいろな企画や商品をマスコミに提案することです。例えば、「ショウガの季節になりました。ショウガの新しい加工品ができました。ダイエットに良いそうです。取材してみませんか?」と取材を依頼することを繰り返しています。雑誌やテレビなどでの掲載効果を広告費に換算した額も大きく増えています。

また、企業とのいろいろなタイアップも進めています。大手飲料メーカーと県産のゆずを使ったジュースの販売、コンビニの4社との商品開発と販売を行っていくための包括協定、東京の大手企業の社員食堂での県産品販売などのタイアップです。

地産外商を進めるにも、「地産」が衰えつつあるのが現状です。そこで、一次産業については特に力を入れ、就業者の確保や生産者の収入確保の取り組みを進めています。農業では「次世代施設園芸団地」に取り組んでいます。オランダは施設園芸が非常に進んでおり、国土面積は小さいけれど、農産品の輸出額は世界第2位です。高知県の農業は日本でトップクラスの施設園芸を行っていますが、オランダではさらに高度な施設園芸システムを持っていて、面積あたりの収量が非常に高く、例えばトマトでは約3倍の生産をしています。

高知県は、そのオランダと技術協定を結び、技術導入を図っています。導入した技術を活かして、新しい次世代施設園芸団地を建設し、その隣には農業担い手育成センターを設置して、農作物の収量を上げ、農業者を増やしていく取り組みを進めています。

先ほど言及した地域アクションプランの例として、例えば、温度差が激しいために非常に良質な米が取れる棚田のお米について、少量しか取れませんが、ブランド化を図ろうと努力しています。ほかにも地場のお茶を活かしたスイーツ、全国的に有名な備長炭など、地域の産品を活かして産業化し、外商公社の外商ルートに乗せて売り込みを図ろうとしています。

ものづくりの強化については、高知県に多い下請け中心の製造業が超えるべき大きな壁があります。自社製品を持つと、自社の事業計画が必要になるということです。そこで、県内の企業が新しく自社製品を持って県外に売り込みを図る場合、企業ごとに専任担当者を置いて一括でサポートするようにしています。

アドバイザーも入れて計画作成を支援し、試作開発などには補助金につないだり、工業技術センターなどで技術提携を後押します。産業振興センターにもものづくり地産地消・外商センターを設けて、販路開拓を通じての事業拡大・雇用促進を後押ししています。

この産業振興センターの外商支援を本格化した平成24年の売上は2.5億円でしたが、平成25年は16.2億円まで拡大しました。まだ小さい金額ですが、スタートしたばかりですから、だんだんと大きな経済効果が出てくると期待しています。

特に、防災関連産業に力を入れています。2012年3月に発表された地震の想定では、高知県の黒潮町には34.4mの津波がくるだろうという予測が発表され、県や県民に大きなショックを与えました。しかし、「弱みを逆手にとる」発想で、多発する自然災害や南海トラフ地震で想定される甚大な被害を想定し、防災に取り組むことで防災関連産業を振興しようと考えています。

そのために、防災関連の商品開発をした段階で、県で防災関連製品として認定する制度を設けています。命に関わる製品が多いですから、研究者などに入ってもらって、安全性と有用性を実証・認定してもらい、認定製品は、県内自治体の公的調達で優先的に調達することになっています。

県が信用をつけることで、例えば「津波34mの高知県が採用している製品だから」と、県外の展示会で売り込んでいます。平成24年の高知県防災関連登録製品の売上は6000万円でしたが、平成25年には10.7億円になっております。輸出も視野に入れながら、今後さらに進めていきたいと思っています。

観光の取り組みも進めています。観光客に来てもらいお金を使っていただくことも、高知県にとっては外貨を稼ぐことにつながります。高知県の観光はテーマパーク型ではないので、自然を活かした観光商品を作っていく必要があります。

高知には美しい川がありますが、それだけでは観光客は来てくれません。川に入って、屋形船で遊んで、河原でバーベキューができるなど、そうして初めて観光客が来てくれます。雨が降った時のバックアッププランもきちんと考えておく必要があります。

地元で旅行商品を作ると、東京の旅行会社の担当者などの専門家に来てもらって、一緒に練り上げ、宿題を出してもらい、またバージョンアップしていくということを、年に9回ほど行いながら、都会の人たちの心もつかむ商品を作る努力をしています。

後編に続く)

(話し手:高知県尾﨑正直知事、編集:枝廣淳子)

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