ニュースレター

2014年03月31日

 

人口減少時代の社会構想~地域の経済と幸せという観点から

Keywords:  ニュースレター  定常型社会 

 

JFS ニュースレター No.139 (2014年3月号)

写真:久伊豆神社
Copyright 広井良典氏 All Rights Reserved.

2013年度、JFSでは「地域の幸せ指標」を1つのテーマとして取り上げて、取り組んできました。今回のニュースレターでは、2014年2月6日に開催したシンポジウム『地域から幸せを考える』より、千葉大学法経学部総合政策学科教授・広井良典氏による基調講演「人口減少時代の社会構想:グローバル化の先のローカル化」の要約版をお届けします。

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日本が直面している課題の本質は、人口減少と高齢化です。日本はこれらの課題の「世界のフロントランナー」ですから、日本がどう対応していくかは、世界にとっても意味があると考えています。確かに人口減少は大変な問題を突きつけてきますが、そこにはポジティブな可能性があるのではないか、従来とは逆の流れが生まれていく一つの転機なのではないか、と思うのです。

日本の人口動向のグラフを見ると、江戸時代には3千万人くらいで推移していたのが、江戸時代の終わりから一気に人口が増えつづけ、2004年にピークを迎えた後、減少期に入り、このままいくと2050年には1億人を切ります。これからどうなるのだろうと思う一方、これまでの時代がいかに無理を重ねて坂道を登ってきたのかとも思います。一定の豊かさを得てきたとはいえ、相当の無理と矛盾が溜まっていることでしょう。


Copyright 広井良典氏 All Rights Reserved.

日本が坂道を登っていた時代は、東京に全てが集まり、中央集権化が進んでいった時代でした。それが経済的に最も効率的だからです。工業化社会では、中央が道路や鉄道、空港などのプランニングをするのに適しています。ですから、全てが東京に向かって流れ、東京でコントロールしていたのです。しかし今、その流れが変わらざるを得ない転換点に達し、経済的に見てもローカルな分散型経済が相応しい時代が始まりつつあるのではないでしょうか。

都道府県別の失業率をみると、意外なことに、大阪、福岡、兵庫、京都、東京、埼玉、神奈川といった大都市圏を抱える都道府県がワースト10に並んでいます。大都市圏では生産過剰による失業が生まれており、地方では人がいなくなること自体によって雇用がなくなっていくという状況なのです。つまり、かつてのように「大都市圏に向かっていけば仕事が得られる」という状況ではありません。こういった状況からも、これからは人の流れが変わっていく構造があると考えています。

学生たちの様子を見ていても、若い世代のローカル指向が非常に顕著になっていることにびっくりします。資料を見ても「大学進学時に地元に残りたいと考えて志望校を選んだ若者が4年前に比べて10ポイント増加」「県外就職率が減少」「地元に永住したいという若者が増えている」ことがわかります。こういった傾向に対して、内向きだという批判がありますが、むしろ地域や日本を救っていく流れだと考えるべきではないでしょうか。

今後の大きなビジョンとして、「多極集中」とでもいうような姿が展望されます。多極化しつつ、それぞれの極となる都市・町や村はある程度集約的な姿になっていくというイメージです。いずれにしても、従来とは違う発想で将来のビジョンを考えていく必要があります。

今後の日本を考えたときに、プラスに思えるのは「地域密着人口の増加」です。現役世代は会社との繋がりが強く、地域との関係が薄くなりますが、地域に密着して暮らす子どもと高齢者を合わせた地域密着人口を見ると、綺麗なU字カーブを描いています。過去50年は地域と関わりの多い人が減り続けていた時代ですが、今後の50年は地域との関わりの強い層が高齢層を中心に着実に増加していきます。この意味でも、これからの時代は地域の存在感が非常に大きくなっていくでしょう。

グラフ:人口全体に占める「子ども・高齢者」
Copyright 広井良典氏 All Rights Reserved.

「コミュニティ経済」について考えてみましょう。図のピラミッドでは、一番上が「市場経済」で、その下に「コミュニティ」があり、一番下に「自然・環境」があります。このピラミッドの最上部分が切り離されていったのが資本主義だと言えるでしょう。本来、経済とコミュニティというのは繋がっていたのですが、どんどん離れていったのです。

図:コミュニティ経済をめぐる構造
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経済とは何かを考えると、単なる利潤の最大化だけではなく、ある種相互扶助的な要素が含まれていたはずです。逆に、経済と何も関係のないところで「さあ、コミュニティを作りましょう」と言ってもなかなか難しいものです。つまり、何らかの経済活動と結びついてこそ、コミュニティが実質的なものになるのです。そういう意味で、コミュニティと経済をもう一度つないでいくという趣旨で「コミュニティ経済」が大事だと思っています。

コミュニティ経済には4つの要素があります。1つめは、「経済の地域内循環」、つまり人・物・金が地域内で循環するような経済です。グローバル競争に負けるなと低価格競争に入ってコストカットしていくと、賃金も下がり、悪循環に陥ります。そうではなく、ローカルに循環する経済をつくることがグローバル化に対してもレジリエンスを持ちます。

長野県の飯田市では、「若者が故郷に帰ってこられる産業づくり」をめざし、経済自立度70%を目標に掲げています。経済自立度とは、地域に必要な所得を地域産業からの波及効果でどのくらい充足しているかを見るもので、具体的には、南信州地域の産業(製造業、農林業、観光業)からの波及所得総額を、地域全体の必要所得額(年1人当たり実収入額の全国平均×南信州地域の総人口)で割って算出します。08年推計値は52.5%、09年推計値は45.2%でした。地域の製造業、農林業、観光業に着目して、できるだけ内部で循環するようにという取り組みをしています。

また国全体で考えても、GDPに対する輸出額の割合の国際比較をみると、3~4割という国が多いのに対して、実は日本は低く、十数%です。「日本は輸出しないとやっていけない」と過度に強調されてきましたが、日本は実は内需で回っている割合が多い国なのです。つまり、内部で循環する経済を作っていくポテンシャルは日本にはあります。

コミュニティ経済の2つめの要素は、「生産のコミュニティと生活のコミュニティをできるだけつないでいくこと」です。商店街や農村では、この両者がかなり重なり合っています。米国には商店街はほとんどないと思いますが、ドイツなどヨーロッパでは、町全体が商店街的なコミュニティ空間になっており、経済の活性化や地域内循環も非常に活発な感じがあります。

写真:シュトゥットガルトの市場
Copyright 広井良典氏 All Rights Reserved.

コミュニティ経済の3つめの要素は、「経済が本来もっていたコミュニティ的(相互扶助的)性格」です。近江商人の家訓である「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)もそうですし、日本資本主義の父と言われる渋沢栄一の『論語と算盤(そろばん)』には、「正しい道理の富でなければその富は完全に永続することができぬ。ここにおいて論語と算盤という懸け離れたものを一致せしめることが、今日の務め」と書いてあります。今風に言えば、「持続可能性を考えると、経済と倫理は究極的に重なり合ってくる」ということです。

写真:荒川区・「ジョイフル三ノ輪」商店街
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コミュニティ経済の4つめの要素は、「有限性の中での生産性概念の再定義」です。つまり、労働生産性から環境効率性へ(人はたくさん使い、資源を節約する経済へ)、これまで"生産性が低い"とされてきた福祉や教育などの「労働集約」的な分野が重要になってくること、人が人をケアする領域が大きく発展し、「人への投資」が本質的な重要性を担うようになるということです。

関わっている活動の一つに、鎮守の森自然エネルギーコミュニティ構想があります。日本には、神社・お寺の数が8万ずつあります。コンビニを総数は5万です。中学校は1万校ありますから、中学校あたり8つずつ神社とお寺がある計算です。神社やお寺は昔から、市が開かれたり祭りがおこなわれたりと、ローカルコミュニティの拠点でした。それを自然エネルギーと結びつけて、分散型のローカルな自然信仰と結びついたものとして発展していけないかと取り組んでいます。自然エネルギーは自然の力を借りてエネルギーを作り出すものであり、地域が自然エネルギーに取り組むということは、地域の自治やコミュニティの力を取り戻すことでもあるのです。

これまでの社会資本の整備を振り返ると、第1段階では鉄道が、第2段階では、第二次大戦後を中心に道路と自動車が、高度成長期後期の第3段階では、廃棄物処理施設や空港などが整備されてきました。こいったもののプランニングは国レベルで行う必要があります。しかし、今後重要になってくる福祉、環境、文化、街づくりといった分野はいずれも、本来的にローカルなものです。こういった経済構造の変化からもローカル化という方向が出てきます。

地域の経済を考えていく場合には、伝統や文化などと上手く融合させながら、場所固有の風土をつないで考えていくことが重要です。実際、祭りが活発な地域では若者の定着やUターンが多いと言われます。

これまでは、ある基準をもとに「ある地域が進んでいる、ある地域が遅れている」と一律に位置づけられてきました。しかし今後は、それぞれの地域ごとの個性や多様性が前面にでる時代になっていくと思うのです。そうして、経済がコミュニティや自然から「離陸」していった「資本主義経済」に対し、経済がコミュニティや自然とつながる「着陸」の時代を迎えつつあるのです。

(千葉大学法経学部総合政策学科 教授 広井良典
 編集:枝廣淳子)

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