ニュースレター

2014年01月05日

 

21世紀兵庫長期ビジョンと兵庫の豊かさ指標

Keywords:  ニュースレター  幸せ 

 

JFS ニュースレター No.136 (2013年12月号)


JFSでは、2013年4月に「地域の経済と幸せ」プロジェクトを立ち上げ、持続可能性の要である地域レベルに焦点をあて、自治体の幸福度指標・豊かさ指標づくりを真に有意義なものにするための枠組み作りに取り組んでいます。今回は、関西大学 草郷孝好先生にご協力いただき、兵庫県による、長期ビジョンに基づき生活の豊かさを数値化するという取り組みを紹介します。

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兵庫県での将来の暮らしや仕事のあり方などをまとめた「21世紀兵庫長期ビジョン」は2001年に策定されましたが、加速する人口減少や高齢化などの社会変化を反映するよう、2年前に改訂されました。

長期ビジョンの中で最も重視したのが「地域ビジョン」です。それぞれの地域に即したかたちで地域の将来をみんなで考えながら地域ビジョンがつくられました。全県ビジョンは、それぞれの地域ビジョンを調整しつつ、兵庫県全体の将来を指し示すものです。

全県ビジョンでは、「創造的市民社会」「しごと活性社会」「環境優先社会」「多彩な交流社会」という4つの社会像を掲げています。

「創造的市民社会」に関しては、阪神・淡路大震災もあり、1995年はボランティア元年といわれるような市民の動きがありました。一昨年には、NPO法人への寄附税制が改正されたことなどもあって、いよいよ創造的な市民社会づくりへのベースができはじめたと思います。

「しごと活性社会」ですが、仕事を取り巻く環境が劇的に変わり、仕事のあり方や、仕事への意識も近年大きく変化してきています。現在、特に若年層(15-24歳)の完全失業率が7%前後という大変厳しい状況の中で、仕事や産業といった私たちの生活のベースとなるものをどのように活性化していくのかが大変重要な課題です。ポートアイランドの神戸医療産業都市は、活性化の典型です。

長期ビジョンの特徴の1つ目は、地域ビジョンがしっかりと全県ビジョンを支えているという構図です。2つ目は、プロセス重視で、変化の激しい時代の中に、いつも敏感に県民の皆さんと議論を重ねていくことが大切であると考えています。3つ目は、最も重要な核となっている参画と協働の精神です。地域の将来像は、そこで生活している人たちが担っているものという意識があって初めて描くことができるのです。

今回のビジョンでも、指標をつくるために指標分科会を設け、各地域ビジョンの委員長の皆さんと、公募による市民委員の方たちとともに議論しました。どのような指標が必要なのか、指標の意味とは何なのか、地域の指標と全県の指標の違いは何なのかについて検討してきました。これこそが参画であり、協働して作業していくということです。ビジョンづくりと実践そのものが、県民の参画と協働を目指すものなのです。

そして、全県ビジョンがめざす4つの社会像の実現に向けて、5つの行動目標がつくられました。また、長期ビジョンを進める中で、今回新たに設けられたものが、「兵庫の豊かさ指標(仮称)」です。指標分科会で議論されたもので、ビジョンの達成度や県民が豊かさをどれくらい実感しているかを測るためのものです。

指標は私たちの日常生活の中でもよく使っているものです。たとえば、体重計で体重を測り、今の自分の健康状態を確認しますね。全県ビジョンで掲げられた社会像と目指す将来像に兵庫県が近づくように行動を進めていくわけですが、取り組みの結果、本当にそうなったのかどうかを確かめる物差しをつくろうということになりました。

具体的には、長期ビジョンに示された12の将来像について豊かさ指標を作りました。12の将来像の一つ一つについて、生活の豊かさを数値化していく作業をしていきます。そして、将来像の1から12まで全部合わせた数値が豊かさ指標になります。

21世紀兵庫ビジョンが掲げる12の将来像

全県ビジョンで
掲げる社会像
将来像(実現したい兵庫の姿)
創造的市民社会 1 人と人のつながりで自立と安心を育む
2 兵庫らしい健康で充実した生涯を送れる社会を実現する
3 次代を支え挑戦する人を創る
しごと活性社会 4 未来を拓く産業の力を高める
5 地域と共に持続する産業を育む
6 生きがいにあふれたしごとを創る
環境優先社会 7 人と自然が共生する地域を創る
8 低炭素で資源を生かす先進地を創る
9 災害に強い安全安心な基盤を整える
多彩な交流社会 10 地域の交流・持続を支える基盤を整える
11 個性を生かした地域の自立と地域間連携で元気を生み出す
12 世界との交流を兵庫の未来へ結ぶ


点数化のためには、ビジョンの取り組みとともに、平成14年度から県が実施している県民の意識調査を活用しました。県民が今どう思っているかという種類の質問を今回は60問用意し、その質問ごとに答えを点数で示します。それを合計した結果が、最終的に指標として数値で示されます。

たとえば、1番目の将来像「人と人とのつながりで自立と安心を育む」については、8つの項目があります。最近の研究の結果、どうしても欠かせないものとして、人と人とのつながり、関係性が大事であることがわかっています。「家族とのコミュニケーションがとれている」を最初に盛り込んでいますが、「電話など」を含めていることがポイントです。つまり、「何処にいても家族である以上、お互いのことを気にかけて話し合いができていますか?」ということを確かめているのです。これが「保たれているか、いないか」で個人の生活の安定や幸せが大きく変わってくるので盛り込みました。

安心と安全については、リスクの高い社会になっている状況においては、行政などのさまざまな支援ももちろん必要ですが、まず大事なことは、そこで生活している人たち自身がどのようにして自分たちの地域を支え合えるかです。そうした取り組みが実現されているかどうかを確認しようとしています。

6番目の将来像「生きがいにあふれたしごとを創る」には4つの質問項目があります。仕事は幸せ感に関係します。多くの場合、仕事に携われることに加えて、仕事によってその人自身が生きがいややりがいを感じられたとき、豊かさの度合いが大きくなります。仕事と自分の生活が両立しているかも、生活の豊かさに大事だといわれている要素です。その実情をきちんととらえていこうと考えています。

こうした調査を毎年行うことで、ビジョン全体だけでなく、分野ごとの達成度や県民の満足度がわかります。しかし、数値だけが大事なのではありません。例えば体重計にのって、1キロ増えてしまったとき、増えたことばかりに意識がいきがちですが、問題は、1キロ増えた原因は何であるのか、を考えてみることです。ですから、豊かさ指標についても、12の個別の将来像ごとに測ったうえで、導き出された数値をどのように見ていくかがとても大事です。

また、行政や地域、そこに住んでいる人自身が、自分たちの地域がどのようになっているのかを検証していくことが大事です。地域の満足度を測ることだけが目的ではなく、むしろそれをどう生かすのか。生かすためには、地域の変化を地域の人たち自身がチェックし、どのように変わったのかを把握するために指標を使っていくことが大事だと考えています。こうした指標を共に見ることによって、対話が促進されます。対話が促進されれば、その地域の豊かさをみんなで考えていくことができる。指標がそのように使われればいいなと思っています。

このビジョンづくりには、いろいろな分野の多くの方が携わってくれました。地域ビジョンを含めると、2001年から延べ6,000人以上の方が作成に関わってくださったと聞いています。その中には、地域の中でさまざまな活動を展開されている方もいらっしゃいます。その意味では、ビジョンの作成過程で地域のリーダーが育っていったということでもあるでしょうね。

それに加えて、地域の中で気づかなかったつながりが明らかになってきたり、新たなつながりが生まれてきたりしています。例えば、県立大学でも、神戸市垂水区と明石市にまたがる明舞団地に、県の支援を受けて「明舞まちなかラボ」という研究室を設置しています。そこでは大学と地域の皆さんと一緒に地域づくりや団地の活性化について議論しています。こうしたことも、ビジョンが地道に地域の中で展開した成果であると思っています。

地域ビジョンの取り組みを支援してきていつも感心させられるのは、地域の皆さんの熱い思いです。例えば、その地域のいいところが次々と出てくるのです。いろいろな良いところを数え上げられる人を6,000人も見つけられたことは、兵庫県にとってとてつもない財産だと私は思います。

兵庫県のビジョンへの取り組みは、全国的に見ても大変珍しい取り組みです。ビジョンから指標につながっていくという意味でも大変貴重なものです。こうした取り組みを全国から全世界へ広げることも大事です。また、これからの兵庫県を担う意味で、10代20代の若い人たちが積極的にビジョンづくりに参画するよう、工夫することが大事だと思います。今回の指標を若い人たちがいる場に積極的に提示し、そこでまた新しいアイディアをもらうことができればさらに発展すると期待しています。


(関西大学・社会学部 草郷孝好)

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