ニュースレター

2013年12月24日

 

県民幸福量の最大化に向けた熊本県の取り組み ~「県民総幸福量(AKH)」

Keywords:  ニュースレター  幸せ 

 

JFS ニュースレター No.135 (2013年11月号)

日本の南の九州地方のほぼ中央に位置する熊本県は、2008年12月に県政運営の基本方針である「くまもとの夢4カ年戦略」を策定し、「くまもとの夢」として「生まれてよかった、住んでよかった、これからもずっと住み続けたい熊本」の実現を目指しています。そして、実現に向けた基本目標として「県民幸福量の最大化」を図ることに取り組み、県民幸福量を測る指標を作成しました。

JFSでは、2013年4月に「地域の経済と幸せ」プロジェクトを立ち上げ、持続可能性の要である地域レベルに焦点をあて、自治体の幸福度指標・豊かさ指標づくりを真に有意義なものにするための枠組み作りに取り組んでいます。ここでは、県民幸福量の最大化に向けた熊本県の取り組みをご紹介します。


県民幸福量の最大化

熊本県の蒲島県知事は、「県民幸福量の最大化」のためには価値観の転換が必要であるという考えを示しています。これまでは経済的な価値を追求することが最大の目標でしたが、その行きついた先がリーマン・ショックであり、経済的な不況であると考え、お金だけではなく「プライド」「安全安心」「夢」といったものを大事にするような価値観の転換が求められているとの主張です。

具体的にはどういった価値観の転換が求められているのでしょうか? 価値観を転換するためには、そもそも県民の幸福量とは何であるのか、また、その最大化とは何を示しているのかといったものを、県民にとって分かりやすく示すことが重要です。そこで、2010年10月、有識者により構成される「くまもと幸福量研究会」が設置され、5回にわたる研究会の議論に基づき、2011年7月に「県民幸福量を測る指標についての意見書」が提出されました。

その中で、県民の幸福とはどのような要因で構成されるか、どのように表現することが可能なのかなどの観点から調査分析を進めることの必要性、県民幸福量を測る「尺度」を作成することの必要性が示されています。さらには、そうした作業を進めることによって、この新しい尺度を通じた県民参加による県政の取組みの見直しにもつなげることの重要性等が示され、県民幸福量を測る総合指標として「県民総幸福量」(AKH: Aggregate Kumamoto Happiness)が提案されました。


AKHとは

AKHは、幸福が主観的なものであり、個人はもとより、地域等でも異なるということを前提としながらも、県民全体の幸福が、社会的、経済的な状況の変化や県が取り組む政策の結果等によってどのように変動するかということをとらえる指標として作成されています。

従来の幸福度を表すデータとしては、アンケート調査で回答者に直接、現在の幸福の程度を尋ね、その回答を幸福度としたものが一般的でした。これに対し、AKHは、幸福を構成する要因(幸福要因)を細かく分解し、それらに対する満足度、さらには、それらの重要度(どれを重視するかの度合い、ウエイト)といった主観的なデータを数値で把握し、積み上げるという方式により算出します。

これにより、県民の深層心理に踏み込んで、より奥深く幸福の姿や動きを把握することができます。また、AKHを毎年度算出し、その増減を見ることで、「県民幸福量の最大化」に向かっているか否かの「見える化」が可能となります。

AKHの測定は県民アンケート(県民の幸福に関する意識調査)により行います。幸福要因を「夢を持っている」「誇りがある」「経済的な安定」「将来に不安がない」の4つに分類し、それぞれの分類を3つの項目に分けています。これら4つの分類・12の項目から成る幸福要因に関する満足度やウエイト等について質問します。

幸福度要因の4つの分類における3つの項目は、それぞれ以下のようになっています。

 「夢を持っている」
   家族関係
   仕事関係
   教育環境

 「誇りがある」
   自然資源
   歴史・文化
   地域社会とのつながり

 「経済的な安定」
   家計所得
   消費活動
   住まい

 「将来に不安がない」
   心身の健康
   食と生活環境の安全
   防災・治安

指標のあり方・構成に関する研究

熊本県では、AKHの作成にあたって、実用性の高い指標のあり方や構成等に関する研究を行うとともに、指標の作成に必要なデータ等を収集することを目的に、2011年度に調査研究を実施しました。その中で、県民アンケートや地域特性等に応じて開催したワークショップなどを通じて、以下の3点が明らかになりました。

  • 幸福の要因として非経済的要因も重要であること
  • 地域によって求める幸福の形は異なること
  • AKHは県民の幸福を表す指標として有効であること

県民アンケートの全体集計結果では、幸福要因として「経済的な安定」が最も高いウエイトになっていますが、属性別で見ると「夢を持っている」のウエイトが高い場合があります。また、5箇所で開催したワークショップでは、4箇所で「夢を持っている」のウエイトが最も高いという結果になっています。このように、全体的に経済的な要因の重要性は高いものの、必ずしもそればかりではなく、むしろ地域等によっては、それ以外の非経済的な要因が重視されることが確認されました。

また、アンケートの地域別の分析結果や地域別ワークショップの結果から、幸福要因のウエイト付けが地域によって異なること、つまり、地域によって求める幸福の形は異なることがわかりました。

県民アンケートでは、「現在、あなたは幸せだと感じていますか」という質問で、直観的な幸福度についても質問しています。この直観的な幸福度と各幸福要因の満足度との間に有意な相関があるという結果が得られたことや、ワークショップで幸福要因との関係が特に深いとされた「家族関係」「家計所得」及び「心身の健康」について、相関係数が特に高くなったことなどから、設定した幸福要因は妥当であり、AKHが県民の幸福を表す指標として有効であると判断されました。


今後の展望

熊本県では、2012年度に再び県民アンケートを実施しました。このアンケートでは、4つの分類の寄与度を分析することで、県民の主観とその背後にある客観的事実等との関連性を見ることができます。寄与度分析の結果から、アンケート実施前に発生した大規模な自然災害に対する県民の反応が、AKHの低下に敏感に反映されたことが明らかになりました。

AKHは、算出に至るプロセスにおいて、幸福要因に対する県民の満足度とウエイトという情報を把握できるため、これらの情報を県民の属性や地域特性等に応じて的確に抽出し、整理することで、きめ細やかな政策立案につなげていくことができます。さらには、地域別と年齢階層別といったように属性をクロスさせて整理していくことで、施策のバリエーションが拡がり、質も高まっていくことが考えられます。

熊本県は、今後、同じ内容の調査を毎年度実施してAKHを算出することで、全体はもとより、地域別や年齢階層別などの属性別でも前年度との比較分析を行い、その結果を政策の評価や立案などに活用するとしています。

この取り組みでは、県民の主観から算出したAKHと、その背後にある客観的な状況との対応関係や、施策との関連性の分析・把握の精度をいかに高めるかが課題になると思います。指標そのものだけでなく、分析やフィードバックを含めたプロセスも他の自治体の参考になる取り組みとして、今後ますます注目を集めていくことを期待します。


(スタッフライター 田辺伸広)

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