ニュースレター

2013年01月08日

 

高レベル放射性廃棄物の処分について、日本学術会議からの提言

Keywords:  ニュースレター  原子力 

 

JFS ニュースレター No.124 (2012年12月号)

今後の原発をどうするかにかかわらず、すでに出てしまった核廃棄物をどうするか、という問題は残ります。日本では、原子力発電所で使用した燃料を再処理して用いることを基本方針としています。再処理をしても核廃棄物がなくなるわけではありません。再処理でウランやプルトニウムを回収した後には、高レベル放射性廃棄物が残ります。この高レベル放射性廃棄物を「最終処分」する必要があります。

これまで日本政府は、2000年に成立した「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」で高レベル放射性廃棄物を地層処分することを定め、処分実施主体として「原子力発電環境整備機構(NUMO)」を設立、2002年からNUMOが全国の市町村を対象に調査地点の公募を開始しました。2007年には高知県東洋町が文献調査へ応募しましたが、民意を問う町長選挙で反対を表明した候補が当選し、応募を撤回します。このあと一件も候補地が出ていない状況が続いています。

このような状況に、2010 年9月、原子力委員会は日本学術会議に「高レベル放射性廃棄物の処分に関する取組みについて」の審議を依頼し、震災をはさんで2年間の審議の結果がこの9月に報告されました。この提言は「暫定保管」「総量管理」といったこれまでになかった考え方を提案し、これまでの政府の最終処分の方針を見直すよう求める画期的なものとなっています。「日本学術会議から原子力委員会への回答」要旨からご紹介します。


回答「高レベル放射性廃棄物の処分について」要旨より

1 作成の背景(略)


2 現状および問題点

本回答において、「高レベル放射性廃棄物」とは、使用済み核燃料を再処理した後に排出される高レベル放射性廃棄物のみならず、仮に使用済み核燃料の全量再処理が中止され、直接処分が併せて実施されることになった場合における使用済み核燃料も含む用語として使用する。

本委員会は、依頼を受けた課題を検討するにあたって、(1)高レベル放射性廃棄物の処分のあり方に関する合意形成がなぜ困難なのかを分析し、その上で合意形成への道を探る、(2)科学的知見の自律性の保障・尊重と、その限界を自覚する、(3)国際的視点を持つと同時に、日本固有の条件を勘案する、の3つの視点を採用した。

その上で本委員会は、高レベル放射性廃棄物の最終処分をめぐって、社会的合意形成が極度に困難な理由として、(1)エネルギー政策・原子力政策における社会的合意の欠如のまま、高レベル放射性廃棄物の最終処分地選定への合意形成を求めるという転倒した手続き、(2)原子力発電による受益追求に随伴する、超長期間にわたる放射性の汚染発生可能性への対処の必要性、(3)受益圏と受苦圏の分離、の3つを挙げる。


3 提言の内容

原子力委員会委員長からの依頼である「高レベル放射性廃棄物の処分の取組みにおける国民に対する説明や情報提供のあり方についての提言のとりまとめ」に対し、本委員会は以下の6つを提言する。

なお、本提言は、原子力発電をめぐる大局的政策についての合意形成に十分取組まないまま高レベル放射性廃棄物の最終処分地の選定という個別的課題について合意形成を求めるのは、手続き的に逆転しており手順として適切でない、という判断に立脚している。


(1)高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策の抜本的見直し

わが国のこれまでの高レベル放射性廃棄物処分に関する政策は、2000 年に制定された「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」に基づき、NUMO をその担当者として進められてきたが、今日に至る経過を反省してみるとき、基本的な考え方と施策方針の見直しが不可欠である。

これまでの政策枠組みが、各地で反対に遭い、行き詰まっているのは、説明の仕方の不十分さというレベルの要因に由来するのではなく、より根源的な次元の問題に由来することをしっかりと認識する必要がある。

また、原子力委員会自身が2011 年9月から原子力発電・核燃料サイクル総合評価を行い、使用済み核燃料の「全量再処理」という従来の方針に対する見直しを進めており、その結果もまた、高レベル放射性廃棄物の処分政策に少なからぬ変化を要請するとも考えられる。これらの問題に的確に対処するためには、従来の政策枠組みをいったん白紙に戻すくらいの覚悟を持って、見直しをすることが必要である。


(2)科学・技術的能力の限界の認識と科学的自律性の確保

地層処分をNUMO に委託して実行しようとしているわが国の政策枠組みが行き詰まりを示している第一の理由は、超長期にわたる安全性と危険性の問題に対処するに当たっての、現時点での科学的知見の限界である。

安全性と危険性に関する自然科学的、工学的な再検討にあたっては、自律性のある科学者集団(認識共同体)による、専門的で独立性を備え、疑問や批判の提出に対して開かれた討論の場を確保する必要がある。


(3)暫定保管および総量管理を柱とした政策枠組みの再構築

これまでの政策枠組みが行き詰まりを示している第二の理由は、原子力政策に関する大局的方針についての国民的合意が欠如したまま、最終処分地選定という個別的な問題が先行して扱われてきたことである。

広範な国民が納得する原子力政策の大局的方針を示すことが不可欠であり、それには、多様なステークホルダー(利害関係者)が討論と交渉のテーブルにつくための前提条件となる、高レベル放射性廃棄物の暫定保管(temporal safestorage)と総量管理の2つを柱に政策枠組みを再構築することが不可欠である。


(4)負担の公平性に対する説得力ある政策決定手続きの必要性

これまでの政策枠組みが行き詰まりを示している第三の理由は、従来の政策枠組みが想定している廃棄物処分方式では、受益圏と受苦圏が分離するという不公平な状況をもたらすことにある。

この不公平な状況に由来する批判と不満への対処として、電源三法交付金などの金銭的便益提供を中心的な政策手段とするのは適切でない。金銭的手段による誘導を主要な手段にしない形での立地選定手続きの改善が必要であり、負担の公平/不公平問題への説得力ある対処と、科学的な知見の反映を優先させる検討とを可能にする政策決定手続きが必要である。


(5)討論の場の設置による多段階合意形成の手続きの必要性

政策決定手続きの改善のためには、広範な国民の間での問題認識の共有が必要であり、多段階の合意形成の手続きを工夫する必要がある。暫定保管と総量管理についての国民レベルでの合意を得るためには、様々なステークホルダーが参加する討論の場を多段階に設置すること、公正な立場にある第三者が討論過程をコーディネートすること、最新の科学的知見が共有認識を実現する基盤となるように討論過程を工夫すること、合意形成の程度を段階的に高めていくこと、が必要である。


(6)問題解決には長期的な粘り強い取組みが必要であることへの認識

高レベル放射性廃棄物の処分問題は、千年・万年の時間軸で考えなければならない問題である。民主的な手続きの基本は、十分な話し合いを通して、合意形成を目指すものであるが、とりわけ高レベル放射性廃棄物の処分問題は、問題の性質からみて、時間をかけた粘り強い取組みを実現していく覚悟が必要である。

限られたステークホルダーの間での合意を軸に合意形成を進め、これに当該地域への経済的な支援を組み合わせるといった手法は、かえって問題解決過程を紛糾させ、行き詰まりを生む結果になることを再確認しておく必要がある。

また、高レベル放射性廃棄物の処分問題は、その重要性と緊急性を多くの国民が認識する必要があり、長期的な取組みとして、学校教育の中で次世代を担う若者の間でも認識を高めていく努力が求められる。

(以上)

原子力委員会では、この提言を受け、委員会としての回答を作成中です。そのための意見交換にJFS代表の私(枝廣淳子)も有識者として招聘され、意見を述べてきました。今後の日本の高レベル放射性廃棄物の処分のみならず、原発の位置づけや方向性にも影響を与える可能性がある動きであると認識し、今後も見守り、必要な働きかけをしていきたいと思っています。

<参考>
第48回原子力委員会臨時会議


(枝廣淳子)

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