ニュースレター

2012年12月04日

 

日本の再生可能エネルギーの現況報告

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.123 (2012年11月号)

2012年7月号で「日本でも固定価格買取制度が始まった!」という記事をお届けしました。再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定の値段で10~20年間買い取る全量固定買取制度の導入後、日本の再生可能エネルギーはどのように展開しているのでしょうか?

日本でも固定価格買取制度が始まった!

経済産業省がまとめた9月末時点の再生可能エネルギーの導入状況によると、固定価格買取制度が始まった7月から9月までに認定を受けた設備は合計で178万キロワット。制度開始から3カ月で、今年度末までの見通し(250万キロワット)の7割を超え、大変順調に増えています。

9月末までに認定を受けた設備は、メガソーラーなど非住宅用の太陽光が最も多く104万キロワット、住宅用太陽光は44万キロワット、風力も29万キロワットでした。認定を受けても設備の設置に時間がかかるため、必ずしも年度中に売電開始になるとは限りませんが、それでもすでに原発2基分近くの再生可能エネルギーが導入されたことになります。

政府は、固定価格買取制度だけはなく、さまざまな補助や規制緩和など、後押しに力を入れています。生ごみや間伐材を燃料に転用する「バイオマス発電」の拡大を後押ししようと、環境省と農林水産省は発電施設の建設費用の半分を補助する制度を2013年度から新設することにしました。また、国土交通省は小水力発電の導入を加速するため、規制を緩和します。現在、農業用水路に発電所をつくろうとすると、国や都道府県からの許可が必要なのですが、それを登録だけで済むようにすることで、設置までの期間を現在の平均5カ月から1カ月程度に短縮する考えです。

政府では、固定価格買取制度の導入により、2030年までの再生可能エネルギー関連投資は約38兆円に上ると試算しています。この巨大市場に多くのプレーヤーがぞくぞくと参入中!です。

大阪ガスが風力発電所を買収したり、液化石油(LP)ガス販売の事業者が太陽光発電事業を強化するなどの動きが活発になっています。メガソーラー事業には、コンピュータ会社や証券会社など電力事業と縁の薄かった異業種や外資系企業も次々と参入しています。

金融機関でも太陽光発電など再生可能エネルギーに注目して、専任者を配置したり業者を紹介したりするなど、力を入れるところが増えてきました。大手の商社も、今後世界的に需要増大が期待できる再生可能エネルギーへの投資を増やしています。

資金の集め方も多様化しつつあります。地域住民から資金を募り、メガソーラーを建設する取り組みを始める環境ベンチャーもあれば、私募債を引き受けることで個人もメガソーラーに資金を提供できるしくみで、太陽光発電施設を建設する事業者もあります。新たな地域活性化策でもあり、またこれまでエネルギーの「消費者」に過ぎなかった個人が「生産者」にもなれるしくみは、新しい社会をつくっていくことでしょう。


海のエネルギーを発電に

日本は海に囲まれた国です。国土面積は小さいですが、海岸線は長く、また排他的経済海域も世界7番目の広さを有しています。今後は海から得られる再生可能エネルギーを増やしていくことが日本にとって大変重要です。

その1つは沖合風力発電です。10月には新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が千葉県沖合に建設を進めていた国内初の沖合洋上風力発電設備の設置が完了しました。この風車は海上の高さが約126メートル、ローターの直径が約92メートル、定格出力が2,400キロワットで、日本国内の風車としては最大級の規模で、2013年1月から発電を開始する予定です。

もう1つは、海洋エネルギーを使った発電です。たとえば、北九州市は関門海峡の速くて強い潮流をエネルギーとして活用するための実証実験を進め、三菱重工業は波力発電システムの実用化を進めています。また川崎重工は、潮の満ち引きの力で発電する潮流発電システムを売り出す予定です。海洋エネルギー発電の導入に積極的な英スコットランドで実証試験を進め、国内では沖縄電力などと沖縄県で2015年に実証試験に着手し、2016年度の事業化をめざすとのこと。日本ではこうした海洋エネルギー発電の実用化で世界に先駆けたいと、さまざまなプレーヤーが努力を加速しているところです。

北九州市、関門海峡で潮流発電の実証実験を開始
川崎重工、潮流発電システム開発に着手


「劇薬」投入で一気に再エネへの流れを

今回の固定価格買取制度の導入は、「政策によってこれほどビジネスや投資、社会は変わるものなのか」ということを見せてくれる好例だと思います。これだけお金や人・事業を動かす力があるのは、投資先として魅力的な買い取り価格・期間を設定したからです。それだけに「固定価格買取制度は劇薬だ」とも言われ、「買い取り価格が高すぎる」という指摘もよく見聞きします。

しかし、買い取り価格や期間を定めた「調達価格等算定委員会」の委員長を務める植田和弘・京都大学大学院経済研究所教授は、以下のように述べています。

「そもそも、この制度の実施を定めた『電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法』で、再生可能エネルギーの導入量を一気に増やすべく、施行から3年間はインセンティブを積み増すと決めている。

3・11以降、国は新たなエネルギー基本計画の策定に向け、2030年の電源構成を検討してきた。原子力の比率が議論の争点となったが、原発比率によらず再生可能エネルギーは2030年に25%以上に増やす方針だ。現在の日本の再生可能エネルギーの比率は、大規模水力を入れても約10%。これを20年足らずで25%にしようというのは、並大抵ではない。少なくとも、固定価格買取制度をフックにして導入量を一気に増やさないことには達成できない。そのためには、現在の買い取り条件が必要だ。

しかし、買い取り条件は見直しを重ねていくものだ。現在の条件は、2013年4月までには見直す予定だ。導入量が増え、技術が進歩して太陽電池などの価格が下がれば、買い取り価格も下がる。発電事業者だけが儲かりすぎるという事態は、条件を見直すことで回避できる」

「劇薬」の当初の効き目は十分に発揮されているようです。今後、うまくいったがゆえに電気料金への上乗せ分が大きくなってくると、国民や事業者の不満が高まってくる可能性もあります。そのあたりの調整を図りつつ、国民の理解・支持を促進していく必要があります。それでも、今後の原発比率にかかわりなく、大幅に増やさなくてはならない再生可能エネルギーが大きく躍進する土台が、ようやく日本にもできたことを本当にうれしく思っています。最近の日本の新聞を見ても、「新しいエネルギー経済が古いエネルギー経済とせめぎ合いをしながらも、どんどん主流になりつつある」勢いが数多く報じられています。これからの日本を楽しみにしていてください!


(枝廣淳子)

English  

 


 

このページの先頭へ