ニュースレター

2012年03月20日

 

新しいエネルギー基本計画に向けて

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JFS ニュースレター No.114 (2012年2月号)

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日本では、昨年3月11日に起きた東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故を契機に、エネルギー政策の見直しが進められています。ジャパン・フォー・サステナビリティ(JFS)/幸せ経済社会研究所の代表として私も参加しているそのプロセスについて、これまでと現状、今後の見通しについてお伝えしましょう。

日本では、2002年6月に「エネルギー政策基本法」が制定されました。基本方針は、エネルギーに関する「安定供給の確保」「環境への適合」「市場原理の活用」です。Energy, Environment, Economyの「3E」と呼ばれています。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H14/H14HO071.html

この法律で、政府はエネルギーの需給に関する基本的な計画を定めるとしており、その策定は「経済産業大臣が、関係行政機関の長の意見を聴くとともに、総合資源エネルギー調査会の意見を聴いて、案を作成し、閣議の決定を求める」と定められています。

エネルギー基本計画は3年ごとに改定されることとなっており、2007年3月に第一次改定が行われました。その後、2010年6月に第二次改定が行われたものが現行のエネルギー基本計画です。
http://www.meti.go.jp/press/20100618004/20100618004-2.pdf

現行のエネルギー基本計画では、「エネルギー安全保障」が重視され、その5要素として「自給率の向上」「省エネ」「エネルギー構成や供給源の多様化」「サプライチェーンの維持」「緊急時対応力の充実」が挙げられ、「2030年に向けた目標」として以下の5点が挙げられています。

  1. エネルギー自給率(現状18%:原子力発電を含む)及び化石燃料の自主開発比率※(現状26%)を倍増し、自主エネルギー比率を70%へ(現状38%)。
    ※自主開発比率:日本企業が参画する国内外の権益からの引取量の割合。
  2. 電源構成に占めるゼロエミッション電源(原子力+再生可能エネルギー)を70%(2020年には50%以上)へ (現状34%)。そのために、
    • 原子力の新増設:少なくとも14基以上(2020年までに9基)
    • 原子力設備利用率の引き上げ:90%(2008年度60%)(2020年までに85%)
    • 再生可能エネルギーの最大導入
  3. 家庭部門のエネルギー消費から発生するCO2を半減
  4. 産業部門では、世界最高のエネルギー利用効率の維持・強化を図る
  5. エネルギー関連の製品・システムの国際市場で、日本企業群が最高水準のシェアを維持・獲得

その結果、「エネルギー起源CO2は、2030年に90年比30%削減」できるとしています。原子力の増強によって自給率の向上をはかり、エネルギー安全保障を高めようという方針でした(日本は原子力発電の燃料であるウランを全量輸入に頼っていますが、使用済み核燃料を再処理して高速増殖炉で用いる"核燃料サイクル"が実現すれば、国内で回していくことができるとして、原子力を"準国産エネルギー"と位置づけてきたのです)。

原子力発電は稼働中はCO2を出さないため、ゼロエミッション電源であるとして、温暖化対策の切り札としても位置づけられていました。再生可能エネルギーこそ「エネルギー自給率の向上」「温暖化対策」につながるとNGOなどは声を挙げていましたが、政府は目標値も設定せずに「最大限努力する」というだけ。再生可能エネルギーは原発推進のじゃまになるので排除されているのだという見方も少なくありません。

本来なら、エネルギー基本計画の次の改訂は2013年ですが、東電福島原発事故を受けて、菅前首相が「白紙からの見直し」を指示し、今夏までに作り直すことになりました。国家戦略担当大臣を議長に、閣僚らがメンバーとなるエネルギー・環境会議が2011年6月に設置され、7月には戦略策定に当たっての3つの基本理念が決定されました。

基本理念1:新たなエネルギーミックス実現に向けた三原則

原則1:原発への依存度低減のシナリオを描く。
原則2:エネルギーの不足や価格高騰等を回避するため、明確かつ戦略的な工程を策定する。
原則3:原子力政策の徹底検証を行い、新たな姿を追求する。

基本理念2:新たなエネルギーシステム実現に向けた三原則

原則1:分散型のエネルギーシステムの実現を目指す。
原則2:課題解決先進国としての国際的な貢献を目指す。
原則3:分散型エネルギーシステム実現に向け複眼的アプローチで臨む。

基本理念3:国民合意の形成に向けた三原則

原則1:「反原発」と「原発推進」の二項対立を乗り越えた国民的議論を展開する。
原則2:客観的なデータの検証に基づき戦略を検討する。
原則3:国民各層との対話を続けながら、革新的エネルギー・環境戦略を構築する。

この基本方針に基づき、原子力委員会、総合資源エネルギー調査会、中央環境審議会がそれぞれ、原子力政策、エネルギーミックス及び温暖化対策の選択肢策定の検討を進めることになりました。

原子力委員会とは、原子力基本法に関する国の施策を計画的に遂行し、原子力行政の民主的な運営を図るために内閣府に設置され、国会の同意を得た委員長及び4名の委員より構成されます。中央環境審議会は、環境基本法に基づいて環境省に設置されている審議会です。

総合資源エネルギー調査会は、経済産業大臣の諮問機関として資源エネルギー庁に設置されているもので、ここに新しいエネルギー基本計画の策定に向けての「基本問題委員会」が設置されました。私もJFS/幸せ経済社会研究所の代表という肩書きで、この委員会の委員を務めています。

この3会議体での検討を踏まえ、エネルギー・環境会議は、エネルギー・環境戦略に関する複数の選択肢を統一的に提示し、国民的な議論を進め、夏を目途に戦略をまとめる、とされています。

私も参加している、エネルギーミックスについて検討する基本問題委員会は、2011年10月から年内に7回、2012年に入ってからはほぼ毎週という高頻度で議論を重ねています。最初に25人の委員がそれぞれの考えをプレゼンテーションし、論点整理をしました。その後、「原子力」「省エネ」「再生可能エネルギー」「化石燃料」というテーマごとに議論し、エネルギー事業者などのヒヤリングも行いながら、春にエネルギーミックスの選択肢を出すための作業を続けています。

当初、基本問題委員会のメンバーは17名が選定されていましたが、報道によると私を含む「2人だけが脱原発の考えの持ち主」、15名が原発推進の立場ということで、NGO等からの批判が巻き起こり、結果的には原発推進ではないメンバーが加わって、25名となりました。多数決で何かを決める委員会ではありませんが、バランスのとれた議論ができる委員会であることは大事です。

この基本問題委員会は、すべて公開かつネット中継されることが大きな特徴の1つです。日本の政府の委員会としては画期的なのです。以前にご紹介した(2011年8月号)みんなのエネルギー・環境会議がオープンな議論のひとつのモデルとなるととともに、その発起人10人のうち、私も含め3人が基本問題委員会のメンバーにもなっており、公開・ネット中継を強く求めたことも実現への力となったのかも知れません。

参考記事:エネルギー政策をめぐる、開かれた議論の場が誕生     
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/031242.html

基本問題委員会での議論や、春に出されるエネルギーミックスの選択肢については、今後もJFSからお伝えし、世界のみなさんのご意見もぜひ聞かせていただいて、委員会にもフィードバックしたいと考えています。

さて、この委員会には25人の委員がいるのですが、女性委員はわずか4人しかいません。また年代的にもかなり上の世代に偏っており、女性や若者の声をあまり聞くことのできない構成です。

今後の日本のエネルギーをどうするかは、あらゆる人に影響を及ぼすことであり、性別や世代などを含め、広く国民的議論をおこなって、政策に反映すべきです。少しでも性別・年代的にもバランスのとれた意見を反映したいと思い、私の主宰する幸せ経済社会研究所では、JFSなどの協力を得て、1月末に「女性の視点でエネルギーを考える~エネ女の集い」を開催しました。女性たちがエネルギーについてざっくばらんに語り合い、その思いや意見を基本問題委員会に伝えようと思ったのです。

当日は100人を超える女性たちが集い、「エネルギーを考えるときにどのような観点が重要か」「エネルギー政策を考えるために、何を知る必要があるか、どのようなデータが必要か」「よりよいエネルギー政策のつくり方」の3点について、熱心に議論しました。

基本問題委員会など政府や経済界のエネルギー政策の議論では、「経済性」「コスト」「国際競争力」「国家安全保障」といった観点が前面に出ます。それに対し、女性たちの議論では、「いのち」「未来世代」「選べること」「倫理」といった観点も重要であるという声が多く聞かれました。当日の映像はこちらにあります。
http://ishes.org/news/2012/inws_id000267.html

メディアも10社以上が参加。基本問題委員会の事務局を務めている資源エネルギー庁や経産省からも7人が参加して、女性たちの熱い議論に耳を傾けました。一人は「ふだん経済産業省はどちらかというと産業界・経済界との接点が非常に多いので、エネルギーというと、まず安全、安定供給、それとコスト、環境もうまく同時に達成できればいいかなという発想で行動しがちだが、それだけではとらえきれないいろいろな要素があるということを実体験でき、たいへん貴重な機会だった。引き続きいろいろな形で声を聞かせていただきたい」と述べていました。

「エネルギー政策を考える上で、何を知りたいか」についても100以上の質問が集まりました。春に選択肢を提示され、国民が考え、議論することが期待される時期までに、資源エネルギー庁の有志の協力を得てデータや事実を整理し、回答として出していきたいと考えています。

女性たちの意見や質問、政策プロセスに対する提案や注文など、出された意見はとりまとめて、2月9日の基本問題委員会で報告し、詳細資料も提示しました。枝野大臣からは次のようなコメントが寄せられました。「ご参加いただいた皆様のご意見は、私も目を通しましたが、大切なご指摘を多数いただきました。大いに参考にさせていただきます。今後も国民各層の幅広いご意見に耳を傾けながら、我が国の新しいエネルギー政策を検討してまいります。」

エネルギー政策をつくるプロセスに本当に影響を及ぼせたかどうかは、まだわかりません。でも、少しでもエネルギー政策を民主的に作っていくために、せっかくの委員という立場を活かして、取り組んでいきたいと思っています。次は「若者の視点でエネルギーを考える~エネ若(エネやん)の集い」を計画中です!
http://ishes.org/news/2012/inws_id000342.html


(枝廣淳子)

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