ニュースレター

2011年09月20日

 

エネルギー政策をめぐる、開かれた議論の場が誕生

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JFS ニュースレター No.108 (2011年8月号)

JFS/Open Platform for Energy Policy Discussion Launched
Copyright みんなのエネルギー・環境会議


東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて、いま、多くの日本人が電力供給のあり方に関心を持つようになってきました。自分たちのエネルギーについて、「知りたい」「考えたい」「話したい」「変えていきたい」という思いが高まっているのです。

従来、日本のエネルギー政策は、経済産業省を中心として国がつくってきました。その策定過程では、エネルギー事業者など産業界との調整を図り、審議会などで主に専門家を対象としたヒアリングがなされることはあっても、生活者が意見を言い、政策に反映させる機会はほとんどありませんでした。

政府は3・11以降、エネルギーシステムの歪みや脆弱性を是正し、安全・安定供給・効率・環境の要請に応えられるような、革新的エネルギー・環境戦略を政府一丸となって策定するため、「エネルギー・環境会議」を設置し、これまでに6月と7月に2度の会議を開いています。

しかし、この会議の構成員は、議長の国家戦略担当大臣を筆頭に関係省庁の閣僚が中心で、あいかわらず国民の参加の機会はありません。配布資料や議事要旨などがすべて公開されるとも限りません。今後の日本のエネルギーのあり方を左右する重要な議論が、いまもなお「密室」で進められているのです。

国民側も、これまではエネルギーのあり方に無頓着な人が大半だったでしょう。例えば首都圏1都7県および静岡県東部の居住者は東京電力、東北6県および新潟県に住む人は東北電力という具合に、どの事業者と契約するか地域ごとに決まっており、日本のエネルギー市場は事実上の独占・寡占状態にあります。こうしたこともあって、私たちも「エネルギーを自分で選ぶ」という発想がありませんでした。「コンセントのあちら側」を気にすることなく、料金さえ払えば好きなだけ電気を使っていい、という状態が当たり前だったのです。


「みんなのエネルギー・環境会議」の設立

生活者が自分たちでこの国のエネルギーについて考える際には、まず「現状はどうなのか」「このままだとどうなるのか」「代替案をとるとどうなるのか」「それぞれのコストや負担額はどのような前提で計算されているのか」などを知ること大切です。それには、政策策定者や研究者たちなど、いわゆる専門家と言われる人たちが、こうしたデータや情報、将来予測などを開示し、国民の素朴な質問に答え、議論を深めるオープンな場が必要です。

こうした背景から、日本のエネルギーの今後について、さまざまな立場や考え方の人々が自由に語り、議論し、対話する場をつくることをめざし、この7月に「みんなのエネルギー・環境会議」が設立されました。

発起人に名を連ねているのは、環境NGOや大学、自治体、研究所などに所属する多彩な顔ぶれで、JFS代表・枝廣淳子もその一人です。エネルギー問題に対する考え方はそれぞれで、たとえば原発についていえば、「反原発」「脱原発」を唱える人がいる一方で、いわゆる「推進派」もいます。

発起人の一人、東京工業大学原子炉工学研究所の澤田哲生さんは、7月22日の発足記者会見で、「私はメディアでは原発右翼ということになっていますが」と冗談交じりに前置きした上で、「ここ30~40年、原発を誘致して地域を豊かにしようとしてきたが、住民の本音を聞くと、なかなかそうなっていない部分がある。つまり『みんな』の原子力になっていない」と述べ、エネルギー政策における国と地方自治体、さらには大都市消費地との関係のあり方に疑問を投げかけました。

チェルノブイリ事故の記憶を胸に、脱原発にこだわりながら活動を続ける国際交流NGO、ピースボートの吉岡達也さんは、「十分に情報が公開された上で、庶民であり生活者である人たちが意志決定に参加する必要性を強烈に感じている」と、「みんなのエネルギー・環境会議」への期待を込めました。

記者会見では、会場からの質問に発起人のだれかが答えると、すかさず別の発起人が「僕は違う意見なんですけどね」と、違う角度から持論を述べる場面が見られました。こうしたところにも、「みんなのエネルギー・環境会議」が目指すのは、今後の原発や自然エネルギーのあり方について、「こうあるべき」という特定のスタンスを打ち出すことではなく、いろいろな意見や立場の人たちがオープンに議論する場の提供であることが表れていたと思います。


立場の違いを超えて一堂に会す

2011年7月31日、「オープンに議論する場」の最初のステップとして、第1回「みんなのエネルギー・環境会議」が長野県茅野市で開催されました。

JFS/Open Platform for Energy Policy Discussion Launched
Copyright みんなのエネルギー・環境会議


今回の会議の目的は、さまざまな角度から多くの意見を出し合い、論点整理をすることでした。そのため、発起人に加えて、自治体首長、現職の国会議員、ジャーナリストなど、幅広い立場から合計40名近い大勢のスピーカーが招かれました。

限られた時間に多くの論点を出し合うため、会議冒頭で国際環境経済研究所の澤昭裕さんから提案された「3つの原則」が、この会議の方向性や議論の枠組みを示していたと思います。

まず、登壇者は「independent thinker」として参加すること、というものです。せっかく市民団体が中心となって運営する会議でも、各自の肩書きにとらわれた議論をくり返しては、建設的で革新的な場にはなりません。たとえ中央省庁の職員、あるいは現職の国会議員であっても、所属組織や政党の見解を述べるのではなく、独立して思考し、自分の考えで発言することが、民主的な合意形成に必要だという提案です。

2つめは、この会議自体を政治的に利用しない、させない、ということです。もちろん政治家の参加も歓迎しつつ、あくまで個人の資格で参加することを確認し合いました。

3つめに、冷静かつ複眼的な思考で議論する、という点です。エネルギー・環境問題については、原発に賛成か反対か、あるいは温暖化を許すか許さないかなど、半ば感情的ともいえる二項対立に陥りがちでした。必要なデータをしっかり見据え、幅広い情報を元に、現実的な議論をしていく必要があるのです。

この枠組みに沿って、最初に「原子力」について、続いて「再生可能エネルギー」について、3番目にエネルギー政策のプロセスについて話し合う「体制・政策決定」のセッション、最後には、市民がエネルギー問題を自分の問題としてとらえ、自ら変えていくためのヒントを探る「ライフスタイル」について、それぞれ70~90分のセッションを行うという4部構成で進められました。

幅広い視点から論点出しをするという目的にのっとって、各セッションとも、ごく限られた時間での議論とならざるを得ませんでした。登壇者お一人おひとりが個別に講演会をお願いしたくなるような方ばかりだったので、参加者からは「もったいない!」という声も数多くあがりました。それでも、どのセッションも多くの登壇者が広く論点を出し合い、今後の議論に向けたよい土台ができたのではないかと思います。


新たな「エネルギー・デモクラシー」を目指して

今回の来場者は、報道関係者を含めて約300名。そのほか、会場には足を運べなくてもインターネット中継で会議の様子を視聴していた人は全国で6万人を越えていたそうです。多くの人に議論のプロセスを共有してもらえたことをうれしく思います。

私たちはこれまで、エネルギー政策を含め、「大事なことはお上に任せて、うまくいかなければ文句を言う」ということが多かったように思います。「真の対話のための作法」という話を、最近の講演などでよく話すのですが、エネルギー・環境問題を再考すべきいま、まさにそれが必要だと強く感じます。

ドイツが脱原発を決めた背景には、科学者や経済団体などの代表が参加する「倫理委員会」による2カ月にわたる議論があったそうです。そこでは完全に国民にも開かれた形で、国民の意見を取り入れながら民主的な議論が行われていたと聞きます。

日本でも今後、国民一人ひとりが参加して、民主的にエネルギー政策をつくっていくと同時に、そのプロセスを通して日本の民主主義の質を高めていくこと、いわば「エネルギー・デモクラシー」が醸成されていくことを願っています。

JFS/Open Platform for Energy Policy Discussion Launched
Copyright みんなのエネルギー・環境会議


参考:みんなのエネルギー・環境会議   
http://www.meec.jp/


(枝廣淳子、小島和子)


このページは Artists Project Earth の助成を受けています。
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