ニュースレター

2011年09月13日

 

やればできる! 節電の取り組みと実績、そして成功要因

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JFS ニュースレター No.108 (2011年8月号)

日本ではいま、暑い夏の最中です。例年、夏になると冷房が増え、電力需要がぐん!と増えます。でも今年は、3月11日の東日本大震災・津波・東京電力福島第一原子力発電所の事故のため、電力の供給量が需要に追いつかず、へたをすると大停電につながるおそれがあると心配されています。日本の電力需給の現状を見てみましょう。(2011年8月15日現在)

日本の電力は主に、北海道、東北、東京、北陸、中部、関西、中国、四国、九州、沖縄と、地域ごとに分かれた10の電力会社が供給しています。3月11日の東日本大震災は東北を襲い、津波の被害とともに、東北に立地する東京電力の福島第一原子力発電所の事故を引き起こしました。東北電力や東京電力の電力供給能力が大きく損なわれたのです。

東北電力と東京電力の管内では、震災後、広範囲に停電が生じたほか、需要が供給を上回りそうな場合には、あらかじめ定めた地域を順番に停電させる「計画停電」などの措置をとりました。供給側では、損傷した火力発電所の復旧や休止中だった発電所などの再稼働等、必死に供給能力の上積みをはかってきましたが、それだけでは需給バランスがとれないため、同時に、需要側の節電による需要抑制の必要性も明白でした。※JFSニュースレター2011年4月号に、当時の状況が詳しく掲載されています。

「東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故を受けて ~ 日本の電力不 足と対策の動き」 
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/030899.html

突然の停電はもちろん計画停電も、市民の暮らしや産業活動に大きな悪影響を与えるため、できるだけ避けたいと政府も自治体も産業界も市民もだれもが思っています。冷房の電力需要が増大し、最大ピーク需要が生まれる夏に向けて、需要抑制のためのさまざまな取り組みがなされてきました。

そして暑い夏の最初の7月を迎えましたが、東京電力でも東北電力でも、一度も計画停電を行うことなく乗り切ることができました。東京電力の管内での7月の最大需要は、都心の最高気温が33.7℃になった日の4627万kWでしたが、当初想定の5500万kWを大きく下回り、昨年7月のピークに比べると23%の需要抑制です。7月全体をみると、天候や気温によって変動はあるものの、おしなべて昨年より需要が激減し、平均削減率は約14%でした。

※2010年7月の都心最高気温は36.3℃、東京電力管内での2010年7月の最大需要 は、都心の最高気温が35.7℃になった日の5999万kWでした。 
http://www.tepco.co.jp/forecast/html/download-j.html

他の地域ではどうでしょうか? 1~6月の各電力会社の販売電力量の実績を見ると、東京電力と東北電力は前年から大きく減っている一方、他の8社は前年とほとんど変わらないことがわかります。

参考:「電力10社の販売電力量グラフ」と「電力10社の前年度比の販売電力減少率グラフ」
※データ元:電気事業連合会 電力需要実績 2011年度
(クリックすると拡大表示します)

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電力10社の販売電力量


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電力10社の前年度比の販売電力減少率


当初は東京電力と東北電力の管内だけで電力不足の危機が心配されていました。しかし、福島第一原子力発電所の事故を受け、定期点検に入った原子力発電所が地域住民や立地自治体の反対や、政府がストレステスト(耐性検査)を再稼働の条件としたことから、再稼動できない状況です。現在54基ある原子力発電所のうち、運転中は17基のみ、原発稼働率は約34%。原発は日本の電力の約3分の1を担ってきたため、他の電力会社でも電力需給が逼迫しつつあります。

特に東京に次ぐ第二の都市・大阪などを抱える関西電力では、トラブルによって原子力発電所を停止せざるを得なくなったこともあり、7月、8月には需要が予想最大電力を上回ると予想され、市民や企業に対する「15%節電のお願い」を始めました。しかし、実際には7月の節電効果は昨年比4.5%にとどまりました。他の電力会社の節電実績も小幅でした。

同じ日本なのに、何がこのような差を生み出したのでしょうか? 地域によって大きな節電が実現できた理由を考えることから、今後の温暖化をはじめとする環境問題への取り組みへの教訓を得られることでしょう。

日本の電力使用量の内訳は、産業界32%、業務36%、家庭30%、その他2%となっています。まず、産業界の節電努力が大きな効果を生み出しているといえるでしょう。その大きな要因の1つは、東京電力と東北電力管内の大口需要家に対する15%の節電を求める電力使用制限令の発動です。

これは単なる節電協力のお願いではなく、昨年のピーク時電力消費量に比べて15%の節電を大口需要家に義務として課すもので、違反した場合は100万円以下の罰金が課されるというもので、7月1日に発動されました。この制限令を受けて、当該管内にある企業や工場では、勤務時間や曜日のシフト他、さまざまな節電の努力を進めています。

※詳細はJFSニュースレター2011年6月号をご覧ください。
「大震災・原発事故による電力不足に立ち向かう ~ 日本の企業の取り組み」 
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/031064.html

同時に、規制がしにくい業務部門(オフィスビル、病院、大学など)に対しても、経済産業省や自治体、業界団体などが省エネのアドバイザーを派遣するなどして具体的な省エネの指導を行っているほか、デパートやオフィスビルでも冷房の設定温度を例年より引き上げるなど、さまざまな節電の取り組みを進めています。

私はときどき他の地域に出張することがありますが、空港ビルも、電車やバスの中も、ホテルやオフィスビルの中も、東京に比べると「寒い!」と感じることがしばしばです。それだけ東京ではどこでも冷房の設定温度を高めにし、節電していることを体感します。

また、家庭部門は温暖化対策でも、なかなか「意識の高い一握りの人たち以外に広がらない」ことが難しい点なのですが、今回は、政府でもメディアでもNGOでも、当初からさまざまな節電キャンペーンを展開してきたことなどが功を奏し、節電につながっています。

ツイッターやメールで自治体や電力会社から電力需給の予報が届くほか、街を歩いていても、地下鉄の構内や商業ビルの入り口など、あちこちで「電力予報」が目に入ります。「最大供給電力量」と「現在の消費電力量」、「電力使用率」を並べたもので、限界まであとどれぐらい余地があるかがだれの目にも一目瞭然です。テレビでもこの電力予報を伝えています。「見える化」の取り組みです。

このような電力予報を見ながら、多くの家庭でさまざまな工夫を重ねて節電しています。その助けになる節電のヒントやアドバイスが、政府・自治体・企業・大学・NGOなどからさまざまな形でたくさん出され、節電講習会も各地で開かれています。

また今は、多くのデパートやお店で大きな節電コーナーが設けられ、さまざまな節電グッズがずらりと並んでいます。こういったディスプレイそのものが、市民への節電アピール・意識づけになっていることは間違いありません。先日、コーヒー店に行ったら、お湯を使わず水で溶けるという粉末コーヒー「節電アイスコーヒー」が目玉商品になっていて、びっくり! 家庭でのさまざまな取り組みや、それを支援するための行政や企業のサポート・商品などは、JFSニュースレター7月号をご覧ください。

「大震災・原発事故による電力不足に立ち向かう ~ 日本の民生の取り組み」 
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/031170.html

他方、無理な節電は熱中症などの問題も引き起こすため、注意が必要と政府でも自治体でも呼びかけています。7月には全国で熱中症のために約1万8千人が救急搬送され、29人が亡くなりました。この搬送者数や死者数は昨年と同レベルですが、今後さらに暑くなると言われ、注意を徹底しているところです。

これまで見たように、東京電力と東北電力の管内での節電の効果が他の電力会社の管内に比べて大きいことから、(1)罰金付きの厳しい規制、(2)さまざまな立場やセクターによる継続的な呼びかけと具体的な行動のアドバイス、(3)意識→節電ビジネスの盛況→意識と行動という好循環、(4)電力状況の見える化、といった成功要因を学ぶことができそうです。

それとともに、東京電力と東北電力の管内では、震災後に停電や計画停電を経験したことが大きな要因となっていることは間違いありません。突然電力が失われるとどんなに困るのかを痛感したからこそ、そうならないために、今日供給可能な最大電力をにらみながら、その範囲内で工夫しながら暮らしていく――そのような「限界の中での暮らし」をさまざまに工夫している姿が見えてきます。

そしてそんな中で、「冷房を減らすため、子どもたちと同じ部屋で過ごすようにしたら、会話が増えた」「パソコンゲームなど電力の必要な遊びでなく、トランプなどをするようになって、子どもたちの間の会話が増えた」「冷房を減らそうと、窓の外に緑のカーテンを育てて、植物を育てる喜びを知った」など、「電力やエネルギーに頼らない幸せ」や「本当に大事なもの」を再発見したという声もよく聞きます。

今年の「大節電の夏」が、我慢による無理な節電ではなく、温暖化対策や持続可能な社会、しなやかな強さ(レジリエンス)を持った暮らしや社会・経済の方向へ、私たち日本人の暮らし方や働き方をシフトするきっかけになるよう、JFSもサポート・推進していきます。

最後に、節電努力で電力消費量が減っても、日本のCO2排出量は増えてしまう見通しです。原発停止による電力供給量の落ち込みを補うべく、石炭など火力発電が増えているからです。これでは電力危機は回避できても、温暖化危機は加速してしまいます。

省エネで電力需要を減らしつつ、必要な電力は自然エネルギーで発電する社会へシフトしていくことが重要です。OECDのMonthly Electricity Statisticsによると、2011年5月の日本は前年同月比、原子力発電は34%減少し、自然エネルギーは295%増とのこと!

日本の自然エネルギーによる発電量はもともと全体の1%程度と小さいため、まだ小さな存在ですが、自然エネルギー推進のための固定価格買取制度の法案も今国会で成立のめどがたちました。まだまだ原発推進や自然エネルギーに懐疑的な人々や業界も少なくありませんが、真に持続可能な日本を支えるエネルギー経済に向けて、大きくすばやく舵を切っていく必要があります。


(枝廣淳子)


このページは Artists Project Earth の助成を受けています。
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