2011年07月26日
Keywords: ニュースレター
JFS ニュースレター No.106 (2011年6月号)
3・11の大震災とその後の東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて、この夏、電力不足が危惧されています。4月号のニュースレターでお伝えしたように、7月1日から東京電力と東北電力の管内で、電力使用制限令によるピーク時電力の制限が始まります。
電力使用制限令では、「昨夏のピーク時から15%削減」を求めますが、医療施設、介護施設、障害者施設、上下水道施設などのほか、データセンター、金融機関などの情報処理システム、鉄道など安定的な経済活動・社会生活に不可欠であると認められた分野を含め、約30分野で、制限令の除外または削減率の緩和が認められています。
東京電力は4月15日に、従来4650万kWとしていた夏の供給力を5200万kWに上方修正し、猛暑時のピーク需要6000万kWにだいぶ近づけました。この大幅な上積みのために、揚水発電の供給力を算入しています。揚水発電は夜間電力でくみ上げた水を昼間に流して発電する水力発電ですが、出力が不安定ということで、供給力から外されていました。
供給力の積み上げはしたものの、すべての発電機を動かしてやっと可能になるという状況です。使用制限を当初の25%削減から、産業界の要望に歩み寄って15%に引き下げたこと、例外分野を設定したことなどから、需要側も不確実な要因がいろいろあります。
電力使用制限令で規制できる大口需要家と異なり、小口利用家や家庭には、法的な強制力を持って節電を求めることができません。この夏がどれほど暑くなるのか、そのときピーク時需要の大きな部分を占める冷房の使用を我慢できるのかなど、この夏の停電を回避できるかどうか、予断を許さない状況です。
契約電力500kW以上の大口需要家(企業や工場などの事業者)は15%の削減が求められるため、各社は生産力や事業運営にできるだけ支障をきたさない形で、どのように節電を行ったらよいのか、試行錯誤をしつつ、さまざまな対策が登場しています。以下、各社のウェブサイトや報道記事からの情報をまとめてお伝えします。
さまざまに知恵を絞る企業
一つは、自社の使用する電力を自社で賄う発電機を導入する動きです。東京ドーム 、東京ディズニーランド などの娯楽施設では、かき入れ時の夏休みに営業が途切れないよう、大規模な自家発電の導入を進めています。
今回の節電要請は、ピーク時の需要を減らすことなので、多くの企業が「タイムシフト」の取り組みを進めています。夏時間を導入して就業時間を早めたり、工場で電力を多用する工程を夜間や休日にスケジュールしたり、輪番制で休業日を設けたり、ユニークな例では、神奈川県の海老名市役所 が7月から水曜の午後を節電のための閉庁とすることを決めるなどしています。また、在宅勤務を増やしたり、働く時間帯や働き方を変える動きもさまざまな企業が進めています。
たとえば、コマツ は東京本社で7~9月に週休3日制を導入。キユーピー は、本社でフロアごとに輪番休日。住友生命保険 は、土曜に出勤して平日休む店舗休業制度を導入します。
自動車各社は7~9月の休日を木金に設定するほか、個別の取り組みも進めています。日産自動車 は、工場のシフト時間をずらして、昼間に3時間ラインを停止する、富士重工業 は、工場の夏休みを16日間設定し、秋以降の増産で挽回するなど、さまざまな工夫をしています。
場所のシフトを進めている企業もあります。ソフトウエアの開発をするベンチャー企業が、夏場の電力不足が見込まれている東北や関東ではなく、西日本などに新しく開発拠点を設け、分散を進める動きです。ソフト開発企業は、必要機材が少ないため拠点を移しやすいという特徴があるほか、岐阜県や大阪市などの自治体が企業の長期滞在優遇制度を打ち出していることもあります。また、震災を機に、国境を越えて拠点を移す例も出ています。
面白い場所シフトの一例が、地下工場です。2008年4月に地下に工場を設けることで、消費電力の9割を削減した、工作機械大手・ヤマザキマザック がその例として注目されています。レーザー加工機の組立工場はすべて、地下11メートルに収まっています。地中熱を室内の温度調整に活用しているため、エアコンは不要です。地下工場にした当初の目的は、密閉施設にすることで、ほこりや塵のないクリーンな環境にすることでした。加えて、気温が一定という地下の特徴から、エネルギー消費量の大幅削減という効果も生まれています。
※ヤマザキマザックオプトニクス、地下工場での使用エネルギーを大幅削減
http://www.japanfs.org/ja/pages/029197.html
このような企業の取り組みに、政府も支援体制を整えつつあります。たとえば、労働時間の規定を設けている労働基準法を扱う厚生労働省では、企業の節電対策を支援するため、企業が就業時間を柔軟に変更できるよう、体制を整えています。
経済産業省では、卸電力取引所を活用し、企業など大規模な需要家が節電した電力を取引できるようにすることの検討を始めました。 市場原理を活用して、節電した分は市場で売却して利益を得られる仕組みにすることで、企業が使用電力の削減に取り組みやすい環境を整える考えです。
「節電特需」がやってきた!
この夏の電力不足・節電の必要性を背景に、全国に節電特需が生まれています。消費者も、暑い夏を少ない電力でできるだけ快適に乗り切るため、省エネ消費を惜しまない状況です。
これまでエアコンの陰に隠れていた扇風機が大ブームになり、照明器具なども省エネ性能の高いものが売れています。冷蔵庫の開閉時に冷気が外部に漏れるのを防ぐ冷蔵庫カーテンなど、震災前はほとんど売れていなかった省エネグッズも、今では売れ筋商品の一つです。スーパーに行けば、夏に備え涼しく過ごせる機能性肌着やクールビス衣料、冷却シートなどがよく売れています。
東芝は、夜充電し、昼は充電池で使うことができる節電テレビを発売。 リモコンにピークシフトボタンがあり、夜間に充電した充電池からの電気に切り替えることができます。東芝は、停電が頻繁に起こる新興国で充電池付きのテレビを販売しており、今回の震災を受けて、この技術を応用し、急きょ販売を決めたといいます。
また、家庭向けの大型蓄電池の開発・販売を進める動きが盛んになっています。蓄電池を製造・販売するエリーパワーのほか、東芝、パナソニックなどが、家庭用の蓄電池を続々と発売しています。政府も、夏場の電力不足を乗り切るため、補助金などで蓄電池の家庭への普及を後押しすることを検討し始めています。
節電・省エネの必要性は温暖化対策でも言われていました。しかし、この夏の電力不足の見通しには、これまで温暖化対策ではなかなか動かなかった企業も重い腰を上げ、「働き方まで含めて大きく変えていこう」「省エネ型の製品開発・実用化をスピードアップしよう」など、さまざまな影響を与えています。消費者の節電意識・節電需要も高いため、新しい製品やビジネスモデルを開発し、節電特需をものにしようと、企業も各業界もしのぎを削っています。その様子を見ていて、「必要は発明の母」とよくいいますが、「必要は実現の母」でもあるなあ!と思っています。
7月1日から始まるピーク時電力の使用制限を受け、日本の産業や経済をめぐる状況はどのように変わっていくのでしょうか? 企業はどのように対応し、どのようなチャンスとリスクが出現していくのでしょうか?
そして、一時的とはいえ「電力の限界」にぶつかったことから、のちの温暖化対策にもつながるさまざまな制度や価値観の変化が起きていくでしょうか? 一般の消費者の意識や行動はどのように変わっていくのでしょうか?
今後の展開もニュースレターで伝えていきます。どうぞご期待を!
(枝廣淳子)