ニュースレター

2011年01月11日

 

地球が元気に、人が幸せになるための金融を目指して ~ 株式会社サステイナブル・インベスター

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.97 (2010年9月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第95回
https://www.sustainable-investor.co.jp/si/

JFS/Sustainable Investor Co. Providing Financing to Make the Earth Healthy, People Happy
Copyright 株式会社サステイナブル・インベスター


東京都心、皇居の外濠に面して建つ神楽ビルは、コンクリートや木の床に、緑と自然光が映える斬新な建物。サステイナブル・インベスターは、このビルにギャラリーやイベントホールと一体化するように、オフィスを構えています。「持続可能な社会へ向けて金融の流れをつくる」ことを目指し、エコバリューアップ投資、森林再生、プライベート・バンク型投資顧問、コンサルティングなどの事業に取り組み、ここから新しいアイデアを発信しているのです。

かつて大手金融機関で働いていた奥山秀朗さんと瀧澤信さんが、同社を設立したのは2006年。「世の中のお金が、より付加価値の高いものに流れていくように」という新たな志を持ってスタートし、今年で4年目を迎えました。今回は代表パートナーの瀧澤信さんにお話を伺いました。


持続可能な社会を目指した新事業の立ち上げ

京都議定書が採択され、世界中で地球温暖化問題が注目されるようになっていた1997年、瀧澤さんはバングラデシュにノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌスさんを訪ねました。貧困層の自立を目的としたグラミン銀行を設立したユヌスさんは、ビジネスと社会貢献の両立、環境問題に対して積極的な姿勢を持ち、本当に人のため、社会のために働くことを教えてくれたといいます。富める資本主義のなかで、子どもたちさえも夢を失いつつある日本の現状に失望を感じていた瀧澤さんは、その言葉に大きな衝撃を受けました。そしてユヌスさんから「最貧国バングラデシュにいる私に出来たことが、日本で出来ないはずがない。日本に帰ったら、社会に役立つことを何かやってみなさい」という宿題を与えられたのです。

日本で初のエコファンドが登場したのは1999年のことでした。現在はおよそ90本のSRI投信が販売されていますが、日本のSRI市場は2007年時点で8500億円程度に過ぎません。同時点のアメリカの市場規模2兆7110億ドル(約306兆円)や、欧州の2兆6654億ユーロ(約344兆円)と比べると、まだまだ極めて小規模なのが現状です
http://www.sifjapan.org/sri/sri.html

こうした金融環境の中で立ち上げたサステイナブル・インベスターは、目指すべき持続可能な社会のビジョンを会社案内のリーフレットにも示しています。そこには、海、山、川、畑、工場、家などが描かれ、生き生きとした人や動植物の姿も見えます。自然の生態系と街中での暮らしの調和が描かれているのです。こうした持続可能な社会をつくるために、同社が売り出した2つのファンドが「エコバリューアップ・ファンド」と「森林ファンド」です。

「エコバリューアップ・ファンド」は、従来のエコファンドがカバーしきれなかった範囲を意識し、中小型株式の中で割安な企業にも注目し、環境と経済の共生にチャレンジする志のある企業を対象としています。今後バリューアップが期待できる企業に対して、出資者は当事者(組合員)としてブログを通じて意見を伝えたり、議論に参加したりすることで、企業の行動を変えることも可能なのです。


森林再生事業で日本の山を元気に

もう1つは「森林ファンド」です。瀧澤さんらは、木材共同組合の人たちと話しながら林業の現状を知った時に、「金融として何ができるのだろう?」と考えたことが、「森林ファンド」を作るきっかけでした。

日本は国土面積3779万haのうち2512万haと、約7割を森が占める森林国ですが、その半分はスギやヒノキなどの人工林です。戦後の復興を目指した「拡大造林政策」のため、里山の雑木林や奥山の天然林が伐採され、成長の早い針葉樹の人工林に置き換えられてきたのです。しかし現在は建材としての需要がなく、安価な輸入材に押されて林業は衰退しています。そのために森の手入れも行き届かなくなり、山が荒れてしまいました。

単なる植林だけでは木は育たず、その後も長い年月をかけて継続的な管理と手入れが不可欠です。そのためには相応のコストがかかり、安定的、継続的に資金を生み出すしかけが必要です。そこで「森林ファンド」では、一口10万円のファンド出資金の半分で森林を購入し、外国債券などの有価証券への投資によって得られる利息や配当収入などで森林再生に必要な資金を賄うハイブリッド・スキームを採用したのです。

飲料水も、海の魚介類の栄養分も、生物が生きていくための酸素も、森林なくしては考えられません。木々の光合成によるCO2吸収量から算出すると、人がひとり生きていくのに、呼吸するだけで15本、日本人の平均的な生活を送るためには376本もの木の力が必要と言われています。持続可能な社会のため、そして私たち自身にとっても、森を守る仕組みが欠かせないのです。

各地でセミナーを開いて、こうしたことを丁寧に説明することで、多くの人たちから賛同が得られました。「今までこういう投資の仕方はなかった」など、森林に対する思いを持つ人は多く、企業の役員、大学教授、弁護士、学生、主婦など84人から7300万円が集まりました。これを元に、山梨県三富に18ha、東京都檜原村に10haの山林を購入しました。森林を育てるには50年から100年かかりますが、ファンドの期間は2020年をひとつの区切りとし、一旦満期による資金償還の機会を作っています。

2009年5月には、山梨県三富で出資者による植樹会を開きました。中には小学生の子どもを連れた家族での参加もあり、直接ヒノキの苗を植えることで土に触れる体験をし、森林への投資も実感することができたようです。

瀧澤さんは「森林ファンド」への思いについて、「たまたまファンドという金融の仕組みを使っていますが、森を守れるなら、ほかの仕組みでもよかったのかもしれません。『ファンド』というと、どうしてもリスクリターンばかりを重視する金融商品のイメージがありますが、大切にしたいのは、森林の持つ本来の価値に対してお金が循環していくことだからです」と話しています。


「知的富裕層」200万人ネットワーク

こうした考え方が広がるには、「200万人の知的富裕層が必要」だと瀧澤さんは言います。「知的富裕層」とは、金銭的な富裕という意味ではなく、知的好奇心を持つ人のことです。「日本には潜在的にこうした人がとても多いのではないかと思いますが、お金の使い方を見ると、自己責任で投資できる人はまだまだ少数です。銀行預金に預けておくだけでなく、どんな未来にしたいかという具体的なイメージを持って、一人ひとりが積極的に投資先を選んでいただきたい。そういう人たちを200万人つくり、ネットワークしていければ、社会は大きく変わっていくでしょう」と、瀧澤さんは強調します。

スタンフォード大学のエベレット・M・ロジャース教授が提唱する「イノベーター理論」によると、全体の2.5%の人が変わればイノベーションが起こるといいます。知的富裕層を200万人という目標は、日本全体の人口(1億3000万人)からすると、社会変革の第一歩と言えるかもしれません。

同社では現在、森林に続き田畑の再生事業に関する金融プランなどを進めています。持続可能な社会へ向けて、今後、より多くの人たちが積極的にかかわることができ、身近に感じられるような新事業に期待したいと思います。


(スタッフライター 大野多恵子)

JFS記事:ひとりひとりがつくる新しい金融 株式会社サステイナブル・インベスター
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/027368.html

English  

 


 

このページの先頭へ