ニュースレター

2009年11月17日

 

日本の環境NGOの歴史と動向(後編)

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JFS ニュースレター No.83 (2009年7月号)

前号では、日本の市民運動やNGOの歴史を振り返り、大きな2つの流れとして、「何かに反対するための活動」から、「何かを応援する活動」へのシフトと、「意識の高い少数の人たち」の活動から、ごく普通の人たちの参加へという流れを紹介しました。今号では、日本のNGOの活動のタイプや社会で果たしている役割についてご紹介します。

NGOのタイプは、いくつかの切り口で分けることができます。まず、地域的な広がりによって分類してみましょう。日本のNGOの多くは、具体的な自分の町や、この川、この山を守るといった地元ベースの活動をするローカルなNGOです。各地域で同じような活動をしている人たちがネットワークを組んで、より大きな力を発揮しようという全国レベルの活動をするNGOも少しずつ増えています。

さらに活動領域を広げ、国境を越えて国際的な活動をするNGOもありますが、日本ではその数はまだ数えるほどです。世界的なNGOであるWWFやグリーンピースなどの日本支部が活動をしていますが、日本から国際的な活動に広がっているNGO活動は、まだあまりないのが現状です(わがJFSは、そうなりたいと考えていますが!)。

次に、NGO活動の主体者で分類することができます。いうまでもなく、市民が集まって活動しているNGOがとても多いのですが、日本の一つの特徴として、企業が集まってNGO活動を展開している例もあります。地域のさまざまな企業が集まって、「この地域を良くするにはどうしたらいいか」と取り組んでいる地域の企業NGOや、コンピュータやIT、建設といった業界の中で、「この業界にいる企業としてどのように取り組むべきか」という情報や意見交換をしながら、業界をベースに活動している企業NGOもあります。

最近増えてきているのは、さまざまな主体者がパートナーを組んで活動するNGOです。市民だけではなく、市民と企業、自治体と市民が一緒に活動するNGOや、自治体と企業と市民の三者がパートナーシップを組んで地域で活動するNGOも増えつつあります。

もうひとつ、日本での新しい動きとして、これまであまり環境問題に対して発言・活動することもなかった著名人がNGOをベースに環境問題にかかわるようになってきています。有名なスポーツ選手が集まってNGO活動をしているという例や、著名なミュージシャンが集まって活動している例もあります。たとえば ap bankは世界的に著名な音楽家の坂本龍一氏や小林武史氏、桜井和寿氏らが中心になって、市民のバンクを作り、エネルギーを自然エネルギーに変えていこうといった活動をしています。

参考:日本のアーティスト、環境事業に融資を行うバンク設立
http://www.japanfs.org/ja/pages/023431.html

望ましい未来をつくるためのアーティストたちの活動
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/027396.html

こうして社会的に注目されている著名人が活動することで、特に若い人を中心に一般の人たちの間に「環境活動に取り組むことはカッコいい」というイメージが広がり、一般の人たちの環境意識の変化にも大きく貢献しています。

次に、日本のNGOをその活動内容で分類してみましょう。1つめは「政策提言型」NGOです。エネルギーや温暖化といったテーマについて、「日本はこうすべきだ」と提言をつくり、政治家に働きかけをしたり、市民を啓発したりする活動をしています。欧米に比べるとその数や社会的な影響力はまだ小さいですが、温暖化についての気候ネットワーク、自然エネルギーについての環境エネルギー政策研究所といった政策提言型NGOがいくつかあります。

2つめは、「アクティビスト型」NGOです。注目を集める活動をして世間の意識を環境問題に向けさせることなどに取り組んでいます。たとえば、グリーンピース・ジャパンは新聞やテレビにも取り上げられるような目立つ活動をすることで、一般の人たちに環境問題を知らせていく役割を果たしているNGOの一つです。

しかし、こういった活動をするからといって、常に企業を告発したり企業と対決しているわけではありません。たとえば、グリーンピース・ジャパンが、数年前に家電製品を製造・販売しているパナソニックの冷蔵庫をめぐって取り組んだ例をご紹介しましょう。

1999年、グリーンピース・ジャパンはパナソニックに対し、「欧州で開発・販売しているノンフロン冷蔵庫を日本でも売るべきだ」と抗議活動を行いました。その後、両者は話し合いを何度も持ち、パナソニックは日本向けのノンフロン冷蔵庫を開発・発売したのでした。現在、日本で販売されている冷蔵庫のほとんどはノンフロン型ですが、この状況は、NGOと企業がパートナーシップを築いたことによって実現したともいわれています。

3つめは、「インターフェイス型」NGOです。たとえば、地域のNGOや企業の人を小学校や中学校に環境教育の授業に送り込むなど、教育機関と市民や企業をつなぐNGOがあります。自治体と学校と市民をつないで、温暖化への取り組みを全市的におこなうキャンペーンを実行しているNGOもあります。このようなつなぎ役のNGOも出てきています。

4つめは、「ネットワーク型」NGOです。あるテーマで活動しているNGOをネットワーク化することで、より大きな力を発揮しようというものです。各地で温暖化対策やごみ減量などの活動をしているNGOをネットワーク化することで、情報や知恵を共有したり、市民や企業に対する働きかけでもさらに大きな力を発揮できます。

5つめのタイプは、「サポート型」NGOです。直接市民や企業に働きかけるのではなく、他のNGOの支援をすることでNGOの力を強める活動をしています。NGOや市民の能力開発を行い、NGOをしっかり運営する方法や、企業や行政への効果的な働きかけといったノウハウを市民やNGOに提供しています。

もう一つ、近年出てきたタイプが、社会的な動きをつくっていこうというNGOです。私が呼びかけ人代表を務めている「100万人のキャンドルナイト」もその一つです。これは、「夏至と冬至の夜、2時間電気を消して、ロウソクの明かりでゆっくり過ごしましょう」と呼びかける運動です。2時間でもテレビや照明を消すことで、慌ただしい生活のペースをスローダウンし、いろいろと気づく大切なものを大事にしよう、と呼びかけています。この運動には政府や企業も参加し、いま、800万人とも1000万人とも言われるほど広がっています。

参考:世界へ発信する5年目のキャンドルナイト
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/027419.html

このように、さまざまなNGOが活動することで、何が変わるのでしょうか? 一つは、市民に、地球環境の現状や自分たちの行動の与えている影響について気づいてもらうことができます。

日本では、環境家計簿の普及に取り組んでいるNGOや企業がたくさんあります。これは、各家庭で毎月の電力やガス、水道などの消費量、ごみの排出量を測って記録していくツールで、CO2の排出係数を掛けることで、「わが家が1カ月に出したCO2」が計算できるものです。

まず現状を知り、減らすための方法を家族で考え、みんなで実行し、翌月また測ってみるという「PDCAサイクル」を家庭で回していくことで、家庭のCO2を削減していきます。環境家計簿をつけてみると、こんなに電気を使っていたのか、こうすれば減らせるんだという、さまざまな気づきが生まれてきます。

参考:京都市、インターネット版環境家計簿を開設
http://www.japanfs.org/ja/pages/028993.html

また、「いま何ができるか」に注目しがちな企業や政府にはとりづらい長い時間軸で考えるビジョンや、現状維持を前提としない「これまでとは違う新しいあり方、新しいものの考え方」も、NGO活動が提供できる大切なものです。

「2050年の持続可能な日本」を描き出し、そのイメージを市民や企業に伝えようとしているNGOもあります。また、多くのNGOが「環境にやさしい商品」のリストをつくって、市民に配っています。日本では近年「レジ袋を使わない運動」が各地で広がっていますが、これもNGOが中心となって企業や行政に対して働きかけをしています。

前編で説明したように、日本のNGOはまだ歴史も短く、活動や実績もこれから積み上げ、広がっていく時期にあります。それでも着実に、日本の社会の中に根を下ろし、行政にも企業にもできない大事な役割を果たしつつあり、実際に日本の環境意識や環境への取り組みを変えつつあります。これからの日本のNGOの発展と展開に、ぜひご注目ください!

(枝廣淳子)

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