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アクティビズム2.0―Web技術と社会変革の融合

ダイワJFS・青少年サステナビリティ・カレッジ 第4期・第1回講義録

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鈴木菜央氏
greenz.jp 編集長、株式会社ビオピオ取締役

1976年バンコク生まれ。6歳より東京で育つ。2002年より3年間「月刊ソトコト」にて編集。独立後、06年「エコスゴイ未来がやってくる」をテーマにしたメディア「greenz.jp」を公開。08年株式会社ビオピオ設立。環境・サステナビリティをテーマにしたクリエイティブ制作・ディレクション、コンサルティングを行う。ビジネスとメディアを通して持続可能でわくわくする社会に変えていくことが目標。

◆講義録

メディアの構造が変わり始めた

最近よく聞く「ウェブ2.0」という言葉がある。どういう意味かひと言で言うと、メディアの構造がピラミッド型からアメーバ型になり、そのあり方が変わってきたことで、社会全体が揺さぶられ、変わってきている、ということかと思う。

例えばブログやツイッターがいい例だ。今までのメディアの頂点にはテレビがあり、その下に、新聞、そして有力な雑誌という序列があり、ミニコミなどはかすんで見えないぐらい小さい存在だった。そのほかは、基本的に情報を受け取るだけの人たち。情報はこの三角形を上から下りてくるという形を取っていた。ところが最近では、ブログやツイッターで誰もが気軽に発信できるため、アルファブロガーと呼ばれるような、社会的な影響力を持つ人も増えきた。

そういう中で、最近世界を揺るがせているニュースにイランの問題がある。情報統制が非常に厳しく、既存のマスメディアは全く取材できない状況で、イランの市民が、ソーシャルメディアを使って徹底的に自分たちの声を外に伝えていった。携帯で動画を撮ってYouTubeに上げたり、ツイッターでどんどん発信していくという、さまざまな方法で自分たちの声を届けた。

それを最初に見つけたのは、同じようにツイッターを使っている市民で、「こんなことになっているなんて大変だ!」と、次々と情報が転送されていった。その過程で「CNN Fail(CNNは失敗した)」という言葉が生まれたほどだ。既存のジャーナリズムのあり方が、ついに曲がり角に来たという議論がわき起こり、マスメディアの限界がこの出来事で露呈したといえる。大げさに言うと、メディアが生態系化しているのではないかと思う。いわば新しいメディアの地平が生まれているのだ。


解決策は「クリエイティビティ」

このウェブ2.0という現象は、単にウェブの世界の出来事にとどまらない。情報は「文明の血液」などと言われるが、その構造が変わっているなら、ビジネスのあり方も、社会のあり方も、社会変革や問題解決のあり方も変わっていかなければならないと思う。逆に言えば、世の中を変えていこうという人にとって、これはものすごく大きなチャンスではないだろうか。

ご存じのように、今、人類史上最大の問題は持続可能性だろう。では、持続可能性とは何か? 国連の「環境と開発に関する世界委員会」が1987年にまとめた、「地球の未来を守るために」という最終報告書には、「持続可能な発展」の定義として、「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような発展」とある。よくよく読んでみると、これはすごく深い言葉だ。

「このままでは、将来世代のニーズが損なわれているんじゃないか」という議論がよくある。「そのために、私たちは少し我慢しなきゃいけないんじゃないか」というのだ。しかし、この定義では現代世代のニーズも満たすと言っている。現に私たちは、何だかんだ言ったって、自分のニーズを満たす生活をしているわけだ。では、将来世代のニーズを損なわずに、現代世代のニーズを満たすにはどうしたらいいのか。世界中のあらゆる問題が、スパゲッティのように絡まり合った中で、それをどういうふうに解きほぐしていくか考えることが、私たちや皆さんの世代の義務だと思う。

私個人としては、これを解決するのは「クリエイティビティ(創造性)」だと思っている。クリエイティビティというのは、アーティストだけが持っているのではなくて、誰でも持っているチカラ。例えば面白いイベント、社会を解決するような仕組みとか考え方、あるいは製品などを、どんどん生み出していって、世の中を変えていこうとすることが、私の言うクリエイティビティだ。


アクティビズム2.0の台頭

そのときに、メディアがベースにあると解決が速いのではないか。私の仮説として、ソーシャルメディアを使った社会変革の可能性はかなり高いと思う。実際、世界的な流れにもなっていて、アメリカでは、これを「アクティビズム 2.0」と呼ぶようになってきたそうだ。

アクティビズム 1.0の例は、従来よく見られた反対運動。もちろんこれも大事だが、反対ばかりのマインドセットが、問題解決を引き延ばしている部分があるように思う。アクティビズム 2.0の特徴の一つとして賛成型の活動があり、アメリカなどでかなりの勢いで広がっている。

2つめの特徴は「分散」だ。かつてのメディア構造の中では、一つひとつの小さな声を大きな声にするために、例えば100万筆の署名を集めるとか、イベントに1万人動員するとか、「集合」というパラダイムがあったと思う。ところが新しい2.0では、ネットでつながれるため、集合は必要ない。例えば、ある社会起業家が面白いアイデアを言っているとか、すごくいい活動をしているNPOを見つけたときに、ツイッターでつぶやいたりリツイートしたりして、自分の読者に伝える。そうすると、それを見て、「いいね」と思った人からまた広がっていくという具合だ。今までより敷居の低い形で社会変革に参加できる仕組みが、ウェブ2.0技術でかなり進化してきた。

もう一つ、「ボトムアップ」という特徴もある。活動を指揮する人がいて、それで推進力を得て社会を変えていくのが「トップダウン」の考え方だが、ボトムアップは、「こんなことやりたい」「私はこうしたい」といった思いが集まって、いつの間にか大きなものになることが多い。

賛成型の活動事例の一つに「キャロットモブ(Carrotmob)」と呼ばれるものがある。これは「逆不買運動」とでもいえるもので、実はアクティビズム 2.0という言葉を考えた面々が起こした運動だ。

彼らが最初に取り上げたのが、サンフランシスコのスーパーマーケットをグリーンに変えようという試みだ。地元のスーパーマーケット全店に、「私たちはこういう活動を展開しています。この期間中、売り上げの何パーセントを環境対策に使いますか?」というアンケートを取ったところ、1店だけ13%という高い数字を出したスーパーがあったという。そこで、「みんなでそのスーパーに買い物に行こう」と、ツイッターやYouTubeなどで呼びかけ、そこからさらに口コミで広がって、そのスーパーの前に行列ができるほど、どんどん人が集まって、あっという間にお店が空っぽになったそうだ。

もう一つ、分散型の事例としては「キバ(Kiva)」というSNSがある。このSNSには途上国からの参加者と、先進国からの参加者で構成されている。例えば、ケニアでお花を売って生計を立てている女性がこう言っている。「貧しくて市場にも行けない。仲買人にものすごく安値で売るしかないのだが、それでは子どもを学校に行かせることができない。もし資金が100ドルあれば、バスに乗ってケニア中心部の市場まで行き、今までの10倍の値段で売れる。そして子どもを学校に行かせることができるから、ぜひ100ドル貸してください」と。

それを見て、「じゃあ、私は25ドル出すね」「私は50ドル」といった具合で100ドルに達すると、現地のNGOを介してその人にお金が渡される。彼女はそれを元手に、市場に出かけて花を売り、100ドルを返済していき、「ちゃんと子どもを学校に行かせることができました」という結果が、融資した人にメールで送られてくる。

今のところ、こうしたお金の返済率は、都市銀行並みに高く、これまでに数億円の融資実績があるというすごいシステムだ。融資する側もされる側も、世界のどこに住んでいても関係ない分散型のシステムが、大きく社会を変えているという一例だ。


誰もが「パートタイム革命家」に

では、個人に何ができるのか、一つ面白い事例を紹介しよう。ツイッターで海外ユーザーの書き込みを見ていると、面白い女性を見つけた。「私は子どもが4人いる専業主婦です」と彼女は言う。「実は学生時代、環境問題の活動をしていたけど、今はできなくてフラストレーションがたまる一方です。子育てをしながらツイッターを使って社会を変えたい」と言うのでびっくりしてよく見てみると、その人の情報収集力と発信力はものすごい。実際、彼女が見つけてきたニュースソースを、ジャーナリストが見て、「これを元にして調査取材をしました」といったツイートが流れていたりした。そうそうたる人が彼女をフォローしていて、「カリスマ・エコ・ツイッタラー」のような存在になっているのだ。そのような人が何人もいることを知った。

これは面白いなと思う。「社会を変えたい」と思ったら、今までなら仕事を辞めるとか、多少は自分の人生を犠牲にする必要があったかもしれない。そういう生き方もとても大事なのは間違いないと思うが、そこまでは出来ない人も大勢いるだろう。この女性の例を見ていると、そういう人が、細切れの時間を使って社会を変えられる可能性が大いにあると思えてくる。

ついこの前、「東京都のオリンピック招致予算150億円のうち、50億円は電通と随意契約」というニュースを見つけた。「これはすごい話だな」と思って、ツイッターでつぶやいたところ、多くの人にリツイートの輪が広がり、波のように広がっていくのを目の当たりにした。補足情報や自分の意見をつける人もいて、あっという間に議論が起こった。私は友人の結婚式に向かう駅を歩きながら、ひと言つぶやいただけなのに、多くの人に問題を知ってもらえたのは面白かった。学校生活を送りながらでも仕事しながらでも、いわば「パートタイム革命家」として、世の中を変えられる時代になったのだ。

最後に、皆さんに私が好きな言葉を共有させていただきたいと思う。

「熱意を持った市民が何人か集まれば、世界は必ず変えられる。それ以外の方法で世界が変わった例はない」

さまざまな今の社会システムも、最初は誰かの思いつきだ。今思いついたことが実現しないと言い切ることは、まったくできない。最近のソーシャルメディアをめぐる動きを見ていると、何人かいれば、結構大きな変化を起こせるんだと強く思っている。ぜひ、世の中を良くする方向に、ソーシャルメディアを使ってもらえたらと思う。


「私が考えるサステナブルな社会」

将来世代のニーズを損なわずに現代世代のニーズを満たす鍵は、「クリエイティビティ」にあるような気がします。アーティストだけではなく、誰もが新しい考え方を生み出して、世の中を変えていこうとすることです。こうした「アクティビズム 2.0」といわれる動きが世界的な潮流になっています。


「次世代へのメッセージ」

最近のソーシャルメディアをめぐる動きを見ていると、何人かいれば、結構大きな変化を起こせるんだと強く思います。細切れの時間を使って、いわば「パートタイム革命家」として、世の中を変えられる時代になったのです。ぜひ、世の中を良くする方向に、ソーシャルメディアを使ってもらえたらと思います。


◆受講生の講義レポートから

「ソーシャルメディアの可能性に驚きました。少しでも働きかけていくという姿勢さえあれば、社会はどんどんいい方向につくっていけるのだと感じました」

「ちょうど所属団体で、『持っている情報をいかに多くの人に伝えて興味を持ってもらうか。そこから行動に移してもらうか』を考えていたので、とても参考になりました」

「mixiやFacebookは使っていましたが、もったいない使い方をしていた!と思いました。自分は『何かしたい。でもできない』と思いがちでしたが、今はもうそんな時代ではないのだと分かりました」

「ソーシャルメディアの可能性に気づくと同時に、社会のうねりのようなものを感じて、新しい視点を持つことができたと思います」


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