ニュースレター

2015年11月12日

 

『お金の地産地消白書2014』~コミュニティ・ユース・バンクmomoの取り組み

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JFS ニュースレター No.158 (2015年10月号)

NPO(Non Profit Organization)という言葉、皆さんも最近よく耳にするのではないでしょうか? 私たちジャパン・フォー・サステナビリティ(JFS)もNPOです。JFSでは日本から全世界へ、持続可能で幸せな未来へ向かう日本のさまざまな取り組みや情報をウェブサイトで発信しています。多くのNPOが、社会にとって意味があったり重要であるけれども、政府も企業も提供することが難しい商品やサービスを提供しています。

NPOには地域に根ざしている団体もたくさんあります。たとえば、医療・福祉・介護などのヘルスケアサービスや地域の自然を守るプログラムを提供して、地域の生活や自然を守る取り組みを行っている団体などです。NPOの数自体も大きく増えていて、これから社会の中でますます大きな役割を果たすようになるでしょう。

ところが、多くのNPOは収益性が低い(そのため営利企業が担わない)事業を行なっているため、活動資金の獲得が大きな課題です。NPOの収入源としては、サービスの利用料や会費のほか、寄付があります。ただし、日本では寄付が欧米ほど一般的ではないこともあり、資金を得るのはとても大変です(日本の個人の寄付の総額は、米国の100分の1に過ぎないというデータもあります。人口の差を考慮しても大きな違いです)。

この問題に対して「地域の金融機関から融資を受けるという選択肢もある」と提案しているのが、名古屋のコミュニティ・ユース・バンクmomoが2014年12月に発行した『お金の地産地消白書2014 ~地域金融機関がNPO支援に本気で参画するには』です。コミュニティ・ユース・バンクmomoは、2005年に設立された「市民による市民のための金融システム(NPOバンク)」で、集めた出資金をNPOなどの地域の課題を解決する事業に融資しています。

NPOは有力な投資先

同白書でまず注目しているのは、信用金庫の預貸率(金融機関の預金残高に対する貸し出し残高の割合)が減少していることです。1998年には70%だった預貸率は、2014年は約50%にまで下がっています(その分、国債等で運用される割合が増えています)。信用金庫は地域の金融機関です。その預貸率が下がっているということは、地元のお金が地域のために使われていないということです。

なぜ信用金庫の預貸率は下がっているのでしょうか? その理由の1つは、中小企業・小規模事業者の数が減少していて、有望な融資先がないことです。融資を増やすためには、金融機関は「将来有望で成長を期待できる事業者」を見つけ出す必要があります。

では、将来有望な産業は何でしょうか? 高齢化が急速に進んでいる日本では、医療、福祉、介護などのヘルスケアサービスをあげることができます。そして、こうした産業のサービスを担っているNPOは地域にたくさんあります。地域金融機関にとって、こうしたNPOは有力な融資先になりうるのです。

さらに、地域金融機関にとってよいニュースがもう1つあります。金融機関のNPOへの融資はまだ一般的ではありませんが、融資を積極的に行っているところもあります。こうした金融機関のデータによると、NPOに対する融資は、一般企業と比べてデフォルト(債務不履行)率が低いのだそうです。

金融機関とNPOを近づける

ところが、金融機関もNPOも、「NPOが融資先になりうること」に気がついていないのが現状です。『お金の地産地消白書』は、この可能性を多くの人びとに知らせる役割を担っています。加えて、発行者のコミュニティ・ユース・バンクmomoでは、それ以外の試みも行なっています。

その1つは、「『お金の地産地消白書2014』を読む会」です。この会は、本拠地の名古屋だけではなく東京など、10都府県で開催(2015年9月8日現在)されています。「読む会」では、白書の説明だけではなく、参加者がそれぞれの立場からNPOと地方金融機関の間の可能性を議論する場が設けられ、毎回活発に議論が行われています。

もう1つは白書にも掲載されているプロボノプロジェクトです。地域金融機関の職員がプロボノ(専門的なスキルやノウハウを持ち寄るボランティア活動)として、NPOを半年間支援します。このプロジェクトでは、NPO活動の成果を貨幣換算して定量的に示すSROI(Social Return on Investment)の測定が行なわれています。

地域の金融機関にとってこのプロジェクトは、NPOの活動に対する理解を深めることができ、「NPOが融資対象であること」を認知する場となっています。またNPOにとっても、金融機関の考え方を知る貴重な機会となります。

コミュニティ・ユース・バンクmomoの活動とこれから

『お金の地産地消白書2014』は発行直後から大きな注目を集め、朝日新聞や日本経済新聞など全国紙の社説でも、取り上げられています。また2015年5月には、さまざまな社会的課題をビジネスの手法で解決する「ソーシャルビジネス」に授与される「日経ソーシャルイニシアチブ大賞」(日本経済新聞社主催)の国内部門賞を受賞しました。

このように注目を集めているコミュニティ・ユース・バンクmomoの問題意識を、そのウェブサイトからご紹介しましょう。

まず、「金融の中央集権化」です。みなさんはATMに入金したお金が、どのように使われているのかを考えたことがありますか? 「金融の中央集権化」では、普段使っているATM端末から預貯金が中央へと吸い上げられ、地域の生活とは無関係のところで使い道が決められていることが指摘されています。

たとえば、メガバンクの大口の融資先には、都市の大企業が顔を並べています。つまり、中央に集まったお金は、地域の中小企業や商店や、環境や福祉分野の市民による事業にはなかなかまわらないのです。全国チェーンの大型小売店が進出し、中心市街地の過疎化が進行している理由の1つは、私たちの消費や貯蓄を通した行動なのです。

また「経済のグローバル化」により、環境を犠牲にして低価格を追求した商品や、途上国からの搾取による商品が市場に出回っています。でも、どの商品がそうしたものなのかは分かりません。経済のグローバル化が進む中で、生産者と消費者は分断され、自分たちが行っている消費や行動がどういう結果をもたらすのかが分かりにくくなっているのです。

コミュニティ・ユース・バンクmomo代表の木村真樹氏は、次の10年のチャレンジとして、「地域内"志金"循環モデル構想」の実現を目指していると述べています。地域内"志金"循環とは、地域金融機関を核とするNPO支援の「生態系」を地域に作ることにより、NPOへの"志金"循環が生まれることで、この循環によって新たな需要や雇用が作られる、という構想です。

私たちJFSも、地域の中でお金が循環する重要性について、「地域の経済と幸せプロジェクト」などでお伝えしてきました。JFSがいま特に注目しているのは、地域からお金が域外に流出せず、消費や給与として地域の人びとの手から手へ渡り続けると、最終的には、初めの額面よりもずっと大きな価値を持つことをわかりやすく説明している「漏れバケツ理論」「地域内乗数効果」です。

JFS「地域の経済と幸せプロジェクト」
http://www.japanfs.org/ja/projects/local_wellbeing/index.html

コミュニティ・ユース・バンクmomoの問題意識は、JFSの問題意識と重なる部分も多く、これからの取り組みをとても楽しみにしています。

〈JFS関連記事〉
「地域を潤す地域のお金」コミュニティ・ユース・バンクmomo代表理事 木村真樹
http://www.japanfs.org/ja/projects/sus_college/sus_college_id033239.html

スタッフライター 新津尚子

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