ニュースレター

2015年04月13日

 

地域資源「森林」を活用したエネルギー自給型小規模自治体モデルの構築(前編)

Keywords:  ニュースレター  エネルギー政策 

 

JFS ニュースレター No.151 (2015年3月号)

JFSでは、これからの私たちの幸せと地球環境の持続可能性の鍵は「地域」にあると考え、2013年4月より「地域の経済と幸せ」プロジェクトを進めています。幸せや地域を考えていく上で「地域の経済」の観点を欠くことはできないと考えているからです。

2015年2月9日、プロジェクトの一環として、シンポジウム『生き残りにつながる地域の取り組みとは――地域経済・地方創生の視点から』を開催し、地域づくりの現場で活躍されているトップランナーの方々から、それぞれの取り組みをご紹介いただきました。今月号のニュースレターでは、北海道下川町 環境未来都市推進本部長・春日隆司氏の講演から、「森林活用による持続可能な地域形成」の事例について、主に「経済」の側面に注目してお伝えします。


下川町は、他の町でやることにはあまり興味を持たず、「初めてのことをやろう!」という先駆的な意識がある町です。

人口は約3,500人で、東西20km、南北30km。東京23区とほぼ同じ面積で、9割が森林です。1953年に町が国から森を買ったことがターニングポイントであり、今日の基盤となっています。町の予算が約1億円の時に8800万円を出して、1,200ヘクタールの山を国から買いました。

1960年以降、現在に至るまで、毎年40~50ヘクタール、山に木を植えています。途中、植える土地がなくなりましたが、また国から国有林を買いました。この時22億円出して買った山に木を植えて、育てています。

北海道の木であるトドマツ、カラマツの人工林は、60年くらいで伐ることができます。毎年植えるということで、1年生から50~60年生までしっかり育っています。今年から、先人が植えた木を伐って、そこに木を植えていくという「循環型の森林経営」ができるようになりました。日本では、下川町だけではないでしょうか。植林を続けて60年くらいは収入がないわけですから、経済のことを考えると誰もやりません。下川町は、先人が素晴らしい人だったのです。

町が買った山で、1年生から50~60年生までしっかり育て、手入れをするのを森林組合が担っています。現在、組合では64人くらいが働いていますが、I、Uターン者が非常に増えていて、現在「森林組合で働きたい」という人が常時20~30名くらいいて、空きがあれば入れるという状況です。

間伐材も細い木から太い木まで、多種多様にぶどうの房のように加工しており、そこに小さな経済をぶら下げていきます。山の手入れや、そこから出てくる間伐材のほか、トドマツの葉っぱから油を抽出してエッセンシャルオイルとか、葉っぱを枕にするとか、森の恵みをしゃぶりつくす仕組みができているので、捨てるものはなく全ていただきます。

下川町の人口動態を見ると、森を買って、森を手入れしたり、森から小さな産業を興し、働く場所を作ったりしてI、Uターン者を受け入れることで、人口の流出による減少が止まってきました。働く人が増えているから、家族として子どもたちも一緒に入ってくるので、子どもの数も増えています。このような分析を大学の先生にしてもらったのですが、専門家などの意見を聞いて、構図やメカニズムがどうなっているかをしっかり理解した上で、的確な政策や行動を起こしていくことが非常に大切だと思っています。

1998年に、「産業クラスター研究会」を作りました。町民を中心に、「産業、自然、社会といったものが持続可能でなければ、良質な生活は送れない」ということをみんなで議論しながら、グランドデザインを描きました。今考えると、1998年の時点で、産業だけにとらわれず、社会や自然も包括して全体的なバランスを考えて議論しながらグランドデザインを描いたというのが、今日につながっています。

2002年に、グランドデザインを具現化するために組織を作り、現在、明確なビジョンの下に具現化を進めています。イメージは、地域には農業もありますが、森林をベースにしながら、地域に森林に関わる小規模な産業が起きる――森林の整備業やNPO、ツアー業やサービス業など、土木も、環境土木や森林土木へ移行していく。そして、下川のサポーターズクラブやファンクラブなどを通して、外との顔が見えるお付き合いをしていく。一方で、外でサービスを提供して外貨を稼いでいくという地域をつくっていこう、というものです。

こうして、「資源あるところには必ず産業が興る」という考えのもとで、50~60年かけて地域に資源を作り、産業を興してきました。これを受けて2004年から、公共温泉など石油を使っているものを、計画的に化石燃料ではなくて木くずを焚くという取り組みを始めました。現在、「エネルギーあるところに産業が興る」という考え方で進めており、幼児センターや農業用施設など公共施設の約6割が木くず焚きのボイラーです。その分、公共施設のCO2排出量はどんどん減っています。今後も化石燃料から木くずやチップ炊きの木質ボイラーに変え、自給しながら進めていくと、2022年には4,700トンのCO2を削減できます。

化石燃料も高くなっており、木くずは地元にあるので、石油焚きから木くず焚きに替えることで、実際に約1700万円のお金が節約できています。1700万円の半分は、将来のボイラー更新用に積み立て、残り半分は子育て資金として使っています。給食費を補助し、保育料を安くし、中学生まで医療費を無料にし、不妊治療の費用を補助し、2歳児までは年間3万6千円支給します。化石燃料をやめて、バイオマスチップを焚いて経費を浮かせ、そのお金を、子どもたちが地域で活き活きできるよう、子育てサービスとして提供するという仕組みです。

3~4年前くらいに大学等の研究で、「下川町のお金の流れ」を調べました。現在、下川町の域内生産額が215億円。農産物や林産物を売って、外貨を稼ぐ。金食い虫は燃料です。石油、石炭、石油製品が7億円、電気が5億円、合わせて12億円のエネルギー代が全部域外へ出ていく。域内収支は52億円の赤字です。

エネルギーを地域で自給して、この12億円の流出を止めた場合、どう経済が回るかというのをシミュレーションしたところ、年間28億円くらい域内生産額が増え、林業・林産業が7億円増え、働く人が100名くらい増えるという結果でした。森に仕事ができ、加工するのに仕事ができる。域内の経済規模が拡大するので、いろいろな働く場所ができるという構図です。下川は木材の町なので、東京赤坂のティータイムの床材や港区の公共施設にも下川の木材を使っていただいています。言うまでもなく、国際認証であるFSC森林認証も取得しています。これを「下川モデル」と呼んでいます。

日本の3分の2は森林で、日本にある1,718の自治体のうち、林野率が75%以上の、国が指定する山村振興自治体は734あります。43%が山村なのです。下川町がこういうモデルをしっかり作り、全国に波及することで、日本の農山村は元気になるし、働く場所も増え、みんなの自己実現もはかれるフィールドとして提供できる。これが日本の発展の一つのモデルになるのではないか、と考えています。北海道にある179の自治体のうち13自治体が、下川町と同じようなバイオマスの取り組みをしています。これを全国に進めていこう、海外に進めていこうと考えています。

バイオマスエネルギーへの転換でポイントになるのは、今まで油を売って生計を立てていた人たちです。現実に売り上げが減るわけですから、困るわけです。バイオマスが普及しない一つの理由は、既存の事業者の反対です。当然です、明日から食べていけなくなるわけです。

下川町にも、油を売っているスタンド組合が3軒あるのですが、その人たちで木くずを売る協同組合を作ってもらいました。油が売れなくなった分、木くずを生産して売っていくという、いわゆる業種転換を町がお手伝いさせていただいたのです。このように、働く場所を変えていかない限りは、いつまでたっても平行線で進みません。

もっとも、100の売上があったものが、木くずを売っても20くらいしか売上がないわけですから、根底ではやはり反対です。「やることが反対」ということではなく、自分たちのビジネスに影響があるから反対なのであって、そこは、どう転換するか、激減を緩和するのか、という話になるのだと思います。実際には、2013年度にはこの組合で1000万円の利益があったのですが、協同組合と町で折半をしました。町も投資をするお金は回収し、赤字を垂れ流さないという考え方です。

下川町の市街地に、分散的にバイオマスによる熱電併給プラントを作って、電気は売るか地域内で使い、分散して住んでいる住民に集住化してもらって、熱導管で熱を供給するという取り組みを始めています。これが実現すると、先ほどの100人くらいの雇用と28億円の生産が生まれます。

また、地域にお金を入れる方法の1つは、整備と間伐によって森林が成長し、二酸化炭素を固定する分をクレジットとして売ることです。平成21年に音楽家の坂本龍一さんが代表の more treesと協定を結びました。森林によるオフセットクレジットを日本で最初に実施したのは下川町です。日本野球機構とも連携し、3時間以上の延長戦をオフセットゲームとして、下川町の森で、試合で排出するCO2をオフセットしています。ほかにもビール会社などでオフセットを活用いただき、約1億4000万円を資金化し、森づくりに還元しています。


次号では、「人」の側面から見た下川町の取り組みについてお届けします。どうぞお楽しみに!

後編につづく)

下川町 環境未来都市推進本部長・春日隆司
(編集:枝廣淳子)

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