ニュースレター

2014年09月16日

 

省エネルギー建築からエネルギー自立型建築へ ~ 日本の省エネルギー建築の変遷

Keywords:  ニュースレター  省エネ 

 

JFS ニュースレター No.144 (2014年8月号)

写真:パレスサイドビル
イメージ画像:Photo by Wiiii Some Rights Reserved.

日本でも世界でも、建築物のエネルギー消費量やCO2排出量の削減が大きなテーマとなっており、さまざまな取り組みが進められています。日本での取り組みを、丹羽英治氏の著書『エネルギー自立型建築――持続可能な低炭素都市を支える』(工作舎、2013年)から抜粋して紹介します。

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伝統的日本家屋にみる省エネルギーの手法

化石エネルギーを十分には使えなかった伝統的な建築では、パッシブ建築、すなわち自然を受け入れるかたちの建築とすることが基本でした。「自然との共生」、「自然エネルギーの利用」などによって、化石エネルギーの消費ゼロで美しい建築空間を創造、維持してきたのです。これらは、現代の建築計画に対しても貴重なヒントを与えてくれます。

写真:祝儀敷きによる畳の部屋
イメージ画像:Photo by ignis Some Rights Reserved.

1.室内環境の変動を享受する

伝統的建築では、室温等は変動することが前提でした。その変動を楽しんですらいたのです。現代においても室内環境の変動を許容すれば、自然エネルギーへの依存範囲を大きくすることができます。

2.徹底して負荷を抑制する

伝統的建築では、内部負荷はほぼゼロでした。したがって、日射を遮へいすることによって、屋外からの日射熱の侵入を抑制すれば、夏の暑さも換気だけでしのぐことができました。現代建築でも、このように冷房負荷を源から断つことが大切です。

3.自然エネルギー利用により室内環境を形成する

自然通風や自然採光によって、化石エネルギーに依存しないで良好な室内環境をつくりだすことがあたりまえでした。打ち水による蒸発潜熱を利用しての涼の取り方も広く見られました。自然エネルギーをいかに上手に利用して快適な室内環境を形成するかは、現代建築においても相変わらず重要なテーマであり続けています。

4.天然索材を活用する

壁・屋根・床などの材料は天然材を用いることが基本でした。最終的には「土に還る」素材を用い、廃棄物フリーを実現していたのです。現代の資源や廃棄物間題の解決の糸口はここにあります。


近代建築にみる省エネルギーの手法

1900年代、鉄筋コンクリート建築の普及により、建築物の大型化が始まり、建築外皮面積に比較して建築内部容積が肥大化していきました。その結果、内部発熱は増大し、自然採光、自然換気の比率は低下し、自然エネルギーによる生活が困難な状況が生じました。ほぼ同時期に照明用電球、冷房用機器が開発され、大型建築は電気などの人工エネルギー主体の運用に移行し始めました。

写真:パレスサイドビル
イメージ画像:Photo by Wiiii
Some Rights Reserved.

20世紀後半になると、電気エネルギーの安定供給、蛍光灯の普及等が急速に進み、自然換気、採光等の自然エネルギーの利用を考慮した、天井高が高く、奥行きの浅い建築は減少し、天井高の低い、奥行きの深い、言い換えれば、容積効率のきわめて高い高層建築が主流となっていきます。

1950年代後半からは建築用の大面ガラスが普及し、建築外壁に大開口を設けた、開放的な建物の実現が可能となりました。これに呼応するように、太陽直射を遮へいし、熱負荷の低減をはかる、ルーバー、ライト・シェルフなどの技術開発が進みました。


オイルショックと省エネルギー建築

写真:新宿NSビル
イメージ画像:Photo by Andywu476
Some Rights Reserved.

建築が大型化する1970年代、開放的な環境を提供する方法として、オフィスビルにおいてアトリウムの普及が進みました。アトリウムとは、建物の内部に設けた吹き抜けのことで、内部に光をとりこむことができます。奥行きの浅いオフィスは開放的でかつレイアウト上も使い勝手が良いことから、奥行き15~20メートル程度が理想とされており、大型建築においてこれを実現するためにはアトリウムが効果的だったのです。

この発想を進めて、外壁開口を小さくし、アトリウム内側を開放的にした、中庭方式の高層ビルも建設されました。熱的には外皮負荷を低減し、アトリウムを自然環境の緩衝空間として換気、採光に利用した省エネルギー手法でした。同時に、空調設定温度に幅を持たせ、一定の範囲においては人工エネルギーを使わない、ゼロ・エナジーバンド制御の概念も導入され、自然エネルギーと人工エネルギーとの共存が図られるようになりました。

1970年代には、二度にわたるオイルショックでエネルギー危機が叫ばれ、建築においても大規模な省エネルギーが要求される事態となり、冷房設定温度を28℃にする、照度を400ルクスに抑える、照明器具単体にプルスイッチを設けるなどの省エネルギー対策がとられました。これは、快適性をある程度犠牲にした、我慢する省エネルギー対策として、いわば緊急避難的な方式であったといえます。

1980年代後半になると、大気汚染、地球温暖化等の長期的視野に立った環境間題が提起され、建築における省エネルギー手法も、環境を配慮した、持続可能な自然エネルギー共存型に移行していきます。


持続可能な開発と環境親話型建

1987年のブルントラント委員会の報告書「持続可能な開発」という言葉が使われ、地球環境保全の重要性が認識されるようになりました。建築分野で、できる限り地球環境にインパクトを与えない「環境調和型建築」デザインが試みられるようになりました。熱や日射をうまくコントロールし、自然エネルギーを利用することで、できるだけ化石エネルギーを使わずに快適な室内環境を維持しようという試みです。


地球温題化防止と省CO2建築

日本の温室効果ガス排出量は、2011年の確定値では1990年比の3.7%増に留まっています。しかし、業務その他部門(事務所、商業、サービス等)においては50.9%、家庭部門では48.1%と、顕著な増加傾向を示しており、それらの低減が喫緊の課題となっています。

建築に由来する温室効果ガスは、設計、施工、維持・管理、運用、改修、解体、廃棄等の全活動において排出されますが、使用しているときのエネルギー消費によるものが大半を占めています。1997年のCOP3以後、建築のライフサイクルにおける温室効果ガスの削減が注目されるようになりました。

また、長寿命化、リサイクル材料の使用、建築物の軽量化等さまざまな手段を講じた省CO2建築が試みられるようになりました。近年では、「持続可能な建築」という意味で、「サスティナブル建築」と呼ばれています。


省エネルギー建築、サスティナブル建築の現状

近年(2000年以後)竣工した代表的な省エネルギー建築、サスティナブル建築の一次換算エネルギー消費原単位を東京都の事務所ビルの平均値と比較すると、40%程度削減されていますが、残りの60%程度は化石エネルギーに依存しています。「エネルギー自立」に至るには、さらなる省エネルギーと再生可能エネルギーの導入が不可欠であることがわかります。

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今回は、「省エネルギー建築からエネルギー自立型建築へ」の省エネルギー建築について、その変遷をお伝えしました。今後、エネルギー自立型建築についても、記事にしてお伝えしますので、お楽しみに。

(編集:枝廣淳子)

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