ニュースレター

2012年03月27日

 

自然に学ぶものづくり:事例紹介

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.114 (2012年2月号)
シリーズ:JFS「自然に学ぼう」プロジェクト 第5回

2000年に入って以来、環境負荷を下げるものづくりの観点から、バイオミメティクスと呼ばれる自然に学ぶものづくりの研究・開発が急速に進んでおり、関連の発表論文数は2009年には、2000年の実績の約6倍に達しています。

2005年のバイオミミクリプロジェクトに続き、昨年からスタートしているJFS自然に学ぼうプロジェクトでは、これまで国内の専門家のインタビュー、子どもレポーターによる訪問取材のほか、国内外の研究・実用化された事例などをお届けしてきました。
http://www.japanfs.org/ja/pages/031297.html

今月のニュースレターでは、本プロジェクトで情報収集を進めているボランティアメンバーが選んだ、特に面白い事例をご紹介します。

*-*-*-*-*-*-*-

Cathedral Termite Mound
イメージ画像: Photo by Bankside.
Some Rights Reserved.

シロアリはエコ建築家

ジンバブエの首都ハラレに1996年にオープンした9階建ての複合商業ビルであるイーストゲートセンターは、人工的な設備に頼らずに、快適な換気と冷房を実現しています。

このような素晴らしい空調を実現するために、建築家ミック・ピアース(MickPearce)と技術コンサルタント企業アラップ社(Arup)は、アフリカの大地に生きるシロアリがつくった蟻塚の構造に眼をつけました。

Zimbabwe Harare Eastgate Shopping Mall
イメージ画像: Photo by garybembridge. Some Rights Reserved.

イーストゲートセンターの内部は、煙突のように空気が上下に流れる構造になっています。建物下部の通気孔から高密度の(重い)冷たい空気を取り込むことにより、低密度の(軽い)熱い空気は煙突を通って上昇し、建物外部へと放出されていきます。このような通気孔と煙突の仕組みは、まさにアフリカに棲むシロアリの蟻塚に見られるものです。この仕組みにより、同センターは、通常の換気・冷房装置を持つ同じ規模の建物の10%程度のエネルギー消費を達成しています。

人が地球温暖化などの環境問題に直面するはるか昔から、シロアリが自らの身を守るために行って来た工夫に、私たちはようやく追いつきました。未来の都市には、いろいろな動物たちの巣のような形や構造を持った建物が立ち並ぶのかもしれません。

参考URL:
AskNature(English)
Inhabitat(English)


筋トレいらずの跳躍力とは - ノミに学ぶ超人ジャンプ

Cat flea, Ctenocephalides felis (Bouche')
イメージ画像: Photo by Armed Forces Pest Management Board. Some Rights Reserved.

通り過ぎる動物に器用に飛びつき、血を吸うノミは、体長の100倍の距離を軽々と跳躍することができます。これは人間なら、実に30階建てのビルを飛び越えることになります。どこをどう鍛えればそんなことができるのか、その疑問は1967年に解明されました。

あのか細い脚には筋肉の他に、レジリンというゴムのような性質をもつ弾性たんぱく質が備わっていることがわかりました。筋肉の場合、低温化では伸縮率や出力(performance)が下がるのに対して、レジリンは温度の影響を受けて機能が落ちることはありません。しかも、普通のゴムは変形してから元に戻る際に60%の弾性エネルギーしか使っていないのに比べ、レジリンは加えられた弾性エネルギーの実に97%を一瞬にして解放することができます。

そしてレジリンの確認から44年後、ケンブリッジ大が超高速カメラでノミの跳躍の瞬間をとらえ、ノミが脛の部分からつま先に力を伝え、膝は使わずにつま先のみで地面を蹴ることを確認、跳躍のしくみも明らかになりました。

レジリンの人工合成はすでに成功しています。 あとは十分な強度が実現すれば、補助関節、人工椎間板、心臓の弁など、応用の範囲が広がるでしょう。そしていつの日か、スパイダーマンならぬ、フリー(ノミ)マンが現れるかもしれません。

参考URL:
The Flying Leap of the Flea(English)
MSNBC(English)
多摩美術大学 高橋士郎教授HP

参考書籍:
『自然にまなぶ!ネイチャー・テクノロジー: 暮らしをかえる新素材・新技術』 石田秀輝 (監修)、下村政嗣 (監修)  学研パブリッシング


塩害対策への応用も - アイスプラント

nl201202-02.jpg
Photo by Japan for Sustainability

アイスプラントは、根から塩分を吸収する特性がある植物で、南アフリカの乾燥地帯に生息する多肉植物です。現在、食用としても目にする機会が増えており、土壌から吸い上げた塩分を葉の表面にある水泡、「ブラッダー細胞」に貯めているので、しょっぱい味がします。塩を吸収する能力は約1kgの個体で約14gと高く、乾燥などにも強いことがわかっています。

この特性を塩害対策に生かすため、2008年、佐賀大学では、中国でアイスプラントの試験栽培を実施しました。中国では温暖化の影響もあり、極度の乾燥で地中の水分が奪われ、農地の塩害が拡大しています。アイスプラントは自然の力だけで土壌を改良することができるため、土地再生への活用が期待されます。

参考URL:
すごい自然データベース
佐賀新聞社

*-*-*-*-*-*-*-

これらの事例のように、生き物や植物のしくみなど、自然にはまだまだ学べることがたくさんあります。豊かな生態系は、食料、生活用品の原材料だけでなく、自然の叡智をもたらしてくれるのです。

一方で、自然に学ぶ技術や素材の研究が発達し、より環境負荷の低いものを作ることができるようになったとしても、これまでどおり、またはそれ以上にたくさんのものを作っていては意味がないのではないか、という問題提起も出てきています。

3月号のニュースレターでは、そうした問題点にたどりつき、人間社会のあり方、社会システムのあり方について、自然から学ぶ視点をどう生かしていくのか、インタビューを交えて考えていきたいと思います。


(「自然に学ぼう」プロジェクトチーム)

English  

 


 

このページの先頭へ