2011年11月08日
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JFS ニュースレター No.110 (2011年10月号)
日本は、温暖化対策としても、エネルギー安全保障上も(現在のエネルギー自給率はたったの4%)、世界中で加速する再生可能エネルギー関連の事業分野における技術開発や競争力強化のためにも、地域の活性化のためにも、再生可能エネルギーを一刻も早く大きく拡大する必要があります。
3月11日に起こった東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故で、その必要性はさらに切迫したものとなりました。再生可能エネルギーの普及促進のための全量固定価格買取制度を導入するため、奇しくも震災当日の3月11日午前に閣議決定されていた再生可能エネルギー法案が、参院審議を経て8月26日に成立しました。
この法律の正確な名称は「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」。再生可能エネルギー源を用いて発電された電気について、国が定める一定の期間・価格で電気事業者が買い取ることを義務付け、買取に要した費用に充てるため各電気事業者がそれぞれの需要家に対して使用電力量に比例した賦課金(サーチャージ)の支払を請求することを認めるとともに、地域間でサーチャージの負担に不均衡が生じないよう必要な措置を講じる、という内容です。
この固定価格買取制度とは、再生可能エネルギーで発電した電力を、ある期間、生産コストよりも高い一定の買取価格で買い取ることを電力会社に義務づけることで、設置や投資のリスクを下げ、普及を後押しするしくみで、世界50カ国以上で用いられていると言われています。1990年に世界で最初に本格的に採用したドイツなどでは、電力需要に対するシェアや太陽光発電ビジネスが飛躍的に拡大しました。
固定価格買取制度では、新規に設置される発電設備に対する売り渡し価格(タリフ)を一定期間固定しますが、発電設備の設置時期が後になればなるほど、タリフは下がっていきます。導入量が増えれば、発電設備の価格も低減していくからです。このように定期的にタリフを見直すことによって、事業者の設備導入費用の回収リスクを減らしつつ、国全体の助成費用を抑えるしくみとなっています。助成費用は、電気料金に上乗せする形で、電力の利用量に応じて消費者から集めます。
日本ではこれまで、電力会社による自主的な買い取り、RPS法(電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法)や各自治体による助成などで再生可能エネルギーの普及促進をはかってきました。ところが、世界一の生産量を誇った太陽光発電も2005年に補助金が打ち切られると、ドイツをはじめとする他国に抜かれ、国内市場も縮小してしまいました。
日本が2003年に導入したRPS法は、電気事業者に対し、毎年の販売電力量に応じた一定割合以上を再生可能エネルギー等でまかなうことを義務付けるものです。電気を小売する電気事業者は、(1)自ら発電、(2)新エネルギー等の電気を他者から購入、(3)他者から「RPS相当量(RPS価値)」を購入、のいずれかの方法で導入目標値を達成する必要があります。日本の場合は、導入目標値が低すぎたなどの理由で、大きな普及促進にはつながりませんでした。
2009年1月には経産省が太陽光発電への補助金を復活させ、2月には初期投資の回収年数を10年程度に短縮できるよう、余剰電力買取制度の導入を発表しました。当初は2010年から実施する予定でしたが、2009年11月1日に前倒しで始まりました。
買取制度には、発電した電力はすべて買い取られ、自家消費分の電力は系統電力でまかなう「全量買取」と、自家消費分を除いた余剰分の電力が買い取り対象となる「余剰買取」があります。前者は余剰電力が少ない設備や電力事業者自身の設備、市民発電所等も対象となることがメリットで、後者には節電を促す効果があるとされています。
このときの日本の買取制度は「余剰電力買取」で、開始時の買取価格は1kwhあたり48円、10年間の買取期間でした。その後の新規設置の買取価格は、年々引き下げられ、現在の余剰電力買取価格は住宅の太陽光発電が42円、非住宅が40円です。こういった制度や補助金が奏功して、日本の太陽光パネルの生産量や導入量もふたたび増えていきました。
しかし、この余剰電力買取制度は太陽光発電だけが対象となっており、その他の再生可能エネルギーの普及促進にはつながりません。そこで、再生可能エネルギーの導入を大きく進めるために、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」が成立し、全量固定価格買取制度の導入が決まりました。
この制度は、2012年7月1日に開始され、対象となるのは、太陽光、風力、中小水力(3万kW未満)、地熱、バイオマスです。太陽光は10kW以上の工場や施設などが対象となり、住宅用は対象外となっています。
固定価格買取制度では、買取価格が大きな鍵を握っています。買取価格が安すぎれば、設置や投資のインセンティブになりにくく、普及につながりませんし、買取価格が高すぎれば、国民負担が大きくなってしまいます。普及の度合いと負担のバランスをとることになる買取価格をだれがどうやって決めるか、も大事なポイントになってきます。
当初の民主党案では、経産省の諮問審議会で価格を決定するとされていましたが、透明性に欠けるという批判もあり、最終的には、国会の同意を得た第三者機関「調達価格等算定委員会」(委員は5人)によって決めるとしています。これは、経産省の資源エネルギー庁内に、年内にも立ち上げ予定ということです。
買取価格は発電設備の設置形態や規模を勘案して細かく定めるようです。買取による助成を電気料金への上乗せ分で負担する賦課金について、政府は試算時に2020年度に0.5円/kWhという仮価格を用いています。2020年の段階で標準家庭で月150円の電気代値上がりとなる計算です。
鉄鋼や化学などのエネルギー多消費型産業(売上高に占める電力使用量の比率が製造業平均の8倍以上)は、賦課金を8割以上軽減するとともに、東日本大震災の被災地企業や家庭についても2013年3月まで賦課金は免除されます。他業種や家庭への負担増を避けるため、軽減分の穴埋めにはエネルギー特別会計の石油石炭税や電源開発促進税の収入を充てることを検討しているといわれます。
買取期間は、住宅用太陽光は現行と同じく10年、他の発電は15~20年という経産省の想定が出されています。なお、少なくとも3年ごとに制度の見直しを行うこと、エネルギー基本計画が変更された際には変更後の同計画の内容を踏まえた見直しを行うことも定められています。
今回の固定価格買取制度を導入する法律には、いくつかの課題もあります。ひとつは、電力会社が「電気の円滑な供給の確保に支障が生ずるおそれがあるとき」買い取りを拒否できるという条項が設けられていることです。電力会社がこの条項を盾に、導入拡大を拒むことがないようにしなくてはなりません。
また、電力の生産地(主に北海道や東北、九州など)と大消費地(首都圏や大阪、名古屋など)が離れているため、送電網をしっかりと拡充する必要があります。日本は、明治時代に発電機を輸入した当初、関東にはドイツから50Hzの発電機が、関西には米国から60Hzの発電機が輸入されたことから、現在も東日本は50Hz、西日本は60Hzと異なる周波数を用いていることもあり、東西での電力の融通も利きにくい状況があり、これも再生可能エネルギーの普及を阻む一要因と言われています。
固定価格買取制度の導入は決まりましたが、多くの事業者は「買取価格が実際に決まらないと、投資の判断がしにくい」と言っています。それでも、ソフトバンクのほか、NHK、国際航業グループ、大和ハウス工業などがメガソーラー設置に名乗りを挙げるなど、市場は活気づき始めています。
インターネットのモールなどを運営する楽天は、ローンなどの金融サービスと設置サービスを提供して家庭用太陽光発電システム市場に参入することを計画中と報道されています。また、大手通信事業者のNTTドコモでは、国内約9万局の基地局の鉄塔周辺に太陽光パネルや風力発電を設置し、基地局で余った電力を売電するスキームづくりを検討しているそうです。
家庭用の太陽光パネルも、家電量販店でも販売されるなど、設置者はうなぎのぼりに増えており、国や自治体の補助金も底をつくところも出るほどです。矢野経済研究所では、国内の太陽光発電システム市場は2020年度には2010年度比263.2%となる1兆7250億円まで拡大する見通しと発表しています。
固定価格買取制度の導入を受けて、風力発電の設置や、洋上風力発電の実証実験なども進んでいます。また、日本は世界第3位の潜在可能性を持ちながら、発電容量は世界8位にとどまっている地熱発電も、数十年ぶりに新設の計画が動き始めました。
固定価格買取制度の導入が決まったことは、日本の再生可能エネルギーの普及にとって大きな一歩です。しかし、法的枠組みができただけでは十分ではありません。その実効性を高めるよう、買取価格などの条件を定めていく必要があります。私たち市民もしっかり見守り、必要な改善を申し入れていかなくてはなりません。
(枝廣淳子)
JFS参考記事:日本の再生可能エネルギーの現状
http://www.japanfs.org/ja/pages/029812.html