2011年09月27日
Keywords: ニュースレター
JFS ニュースレター No.108 (2011年8月号)
生命が地球上に誕生して38億年。過酷な環境で生き延びていくために、生命はさまざまな「技術」を進化させてきました。たとえばアワビは、合成接着剤を使わずに、自由自在に自らを吸着・剥離させることができます。世界有数の大高木であるセコイアは、滑車やレバーやポンプなどの機械を使うことなく、太陽光のみで数トンもの水をくみ上げることができます。
私たち人間も、特に産業革命以降、いろいろな技術を生み出してきました。しかし、その技術は、地球温暖化や生物多様性の危機などの環境問題を引き起こしていることからもわかるように、何億年も人類を生き延びさせてくれる持続可能な技術とはなっていません。
そのような反省に基づき、自然や生命に技術を学ぼうという動きがあります。たとえば、米国のジャニン・ベニュス氏は「バイオミミクリ」と名付けてこの分野を切り拓いてきた一人です。
私たちジャパン・フォー・サステナビリティ(JFS)は、2004年度に日立環境財団から「バイオミミクリの観点からのエコイノベーションの普及戦略研究」への環境NPO助成をいただき、当時日本ではほとんど知られていなかったバイオミミクリの考え方や事例を集めて整理し、ウェブサイトやセミナーで発信するという事業を行いました。
http://www.japanfs.org/ja/pages/008926.html
JFSのウェブサイトの中でも、バイオミミクリのコーナーは常に人気ページの一つで、今なお内外から数々の問い合わせが入ってきます。全国紙をはじめ、英字新聞、さまざまな雑誌、ラジオ番組などでも取り上げられたほか、米国モントレー湾水族館では、JFSが紹介した新幹線の開発にまつわる話を読んで、その他の海の自然に学んだイノベーションとともに映像にまとめ、15分の入館者向けの映像教育プログラムを作って上映しているそうです。
このプロジェクトを行った後も、バイオミミクリについての認識や関心は広がりを見せています。同時に、環境問題の悪化などを背景に、この分野の研究や実践はこの数年間に大きく進んできました。現在では、「バイオミミクリ」のほかにも、「ネイチャー・テクノロジー」(東北大学石田秀輝先生)、「Biologically Inspired Design」(ジョージア工科大学ジャネット・イェン氏、マーク・ワイスバーグ氏)などの呼び方で、自然に学び、持続可能な技術を開発していこうという取り組みが広がっています。
こうした広がりとともに、自然に学ぶ技術の説明や事例を掲載しているウェブサイトも増え、書籍もいくつも出版されています。また、自然に学ぶ技術が実用化され、商品化されている事例も数多く出てきています。
このように「自然に学ぶ技術」は、温暖化や生物多様性の危機などに直面している人間にとって、問題解決への大きな切り口になると期待されています。しかし一方で、現状は、国内外における研究者や研究機関の取り組みや事例などの全体を俯瞰することはできず、関心のある一般の人々へのアウトリーチもまだこれからといった状況です。
国内外をつなぐ持続可能性に関する情報のポータルサイトであるJFSでは、今年度、ふたたび日立環境財団の助成を得て、自然に学ぶ技術に関するグローバル・ポータルサイト「自然に学ぼう」を立ち上げることになりました。世界191ヶ国に発信しているネットワークを活用して、その一層の普及と研究促進を進めるとともに、特に子どもへのアプローチに力を入れることで、科学に興味を持ち、自然に学ぶ心を持つ子どもたちを育んでいきたいと考えています。
具体的な活動内容としては、「自然に学ぼう」のポータルサイト(日本語/英語)を立ち上げ、運営することを通じて、自然に学ぶ技術に関するサイトや文献の調査・収集、内外の専門家へのインタビュー、自然に学ぶ技術に関する内外の書籍の情報収集と紹介、自然に学ぶ技術の実用化の事例の収集と紹介を進めていきます。
同時に、JFSのニュースレターを通じて、自然に学ぶ技術の考え方や事例を発信するとともに、世界中から事例やウェブサイトをさらに収集するための窓口機能を持つ予定です。
加えて、日本の子どもたちにレポーターとなってもらい、研究者を訪ね、学んできたことをウェブに掲載していきます。日本では子どもたちの「理科離れ」が問題視されていますが、子どもたちは自然に学ぶ技術の話に目を輝かせます。夏休みの自由研究を兼ねて、子どもレポーターが自然に学ぶ技術の研究や実用化されている技術(たとえば、いつも室内を快適な温度や湿度に保っているシロアリの巣)など、学んできたことを広く発信することで、世界中の子どもたちにも科学や自然の面白さ、素晴らしさに気づいてもらう大きなきっかけを提供したいと考えています。
現在、関心を持つボランティアを中心としたプロジェクトチームが国内外の自然に学ぶ技術に関する事例や文献等の調査を進めています。8月には子どもレポーターによる研究者への訪問を行いました。
9月にJFSウェブサイトにて「自然に学ぼう」ポータルサイトを公開する予定です。その後は、継続的に情報収集・整理・発信・交流・ウェブサイトへのアップを続けていきます。
「自然に学ぶ」必要があるのは技術だけではありません。38億年という悠久の時間を生き抜き、進化しつづけ、繁栄を続けてきた地球上の自然のしくみとあり方そのものから、私たちの暮らしや考え方、社会の作り方、人間文明は学ぶことがたくさんあるはずです。
単なる技術論ではなく、社会論・文明論としての観点からも、「自然に学ぼう」プロジェクトを展開していきたいと思っています。世界のみなさんとも広く意見・情報交換ができれば、と願っています。ご意見や情報等、どしどしお寄せください。
(枝廣淳子)
本プロジェクトは、財団法人 日立環境財団(2011年度環境NPO助成)の支援によって実現しました。