2011年07月19日
Keywords: ニュースレター
JFS ニュースレター No.106 (2011年6月号)
2011年5月21日に、私(JFS代表・枝廣淳子)は東京で開催されたTEDxTokyo というイベントに招待され、短いスピーチをしてきました。
このイベントは、1984年から毎年、アメリカのモントレー で、学術、エンターテインメント、デザインなど、さまざまな分野において、第一線で活躍している人々を招いて講演を行うTED (Technology, Entertainment and Design) カンファレンスというイベントから始まったものです。Ideas Worth Spreading というコンセプトのもと、TEDのイベントは世界中に広がりを見せており、TEDx と称した有志のコミュニティによって、同様のイベントが世界60カ国以上で自主開催されています。2006年以降に出演した講演者のスピーチは、すべてオンラインで視聴できることも大きな特徴です。
※TED:Talks in 日本語
http://www.ted.com/translate/languages/jpn
TEDxTokyo は、TEDの東京版として、2009年から年1回開催され、今年で3回目になります。今回のイベントは、3月に発生した東日本大震災を受け、イベントのメインテーマを、「日本を再建し再生させる現実的で独創的な方法と、日本の国民の心意気を高めること」に修正した上で開催されました。私からは、これからの日本を生きる若い世代へのメッセージとして、伝えたいことをお話ししてきました。今回のニュースレターでは、この時のスピーチの内容をお届けします。
※TEDxTokyo 2011: Enter the Unknown ~未知への扉~
http://tedxtokyo.com/ja/tedxtokyo-2011-enter-the-unknown/
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年配の人たちが、「最近の若者は、昇進しようとか成功しようというガッツもなければ、野心もない。情熱もなく、やる気もない」と言うのを耳にすることがあります。
もちろん、そういう人もいるかもしれません。しかし実際には、自分の目標を達成しようと一生懸命頑張っている若い人たちがいます。でも、上の世代に比べると、その目的や野心は違うものなのです。
塩見直紀さんという若い日本人はその一人です。「自分の一生を会社にささげ、その対価として給与を受け取るのはどんなものなのだろう?」と彼は考えました。時間と金の究極のトレードオフです。自分の時間のほとんどを会社に差し出さなければ家族を支えるのに十分な収入を得ることができないかもしれない......。多くの大人はそういった選択肢を受け入れていますが、塩見さんは「どうすれば最も満足のいく生き方ができるのだろう」と考えました。
今日、塩見さんは「半農半X」と自ら名づけた新しいライフスタイルを生きています。彼の考え方やライフスタイルは、多くの人たちにインスピレーションを与え、あとに続く人たちが出てきています。
その考え方は、「売るためではなく、家族を養う食べ物を育てるために農業をする。そして残りの時間は自分の人生のミッション――つまり自分にとって一番大切なこと――に使う」というものです。
このような生き方をすれば、収入は減るかもしれませんが、家族と過ごす時間や自分が本当にやりたいことをやる時間は増えるでしょう。この選択肢は、人生を満足で満たしてくれる可能性があるのです。私のまわりにも、「半農半歌手」「半農半作家」「半農半NGO」といった人たちがいます。
※JFSニュースレター:農のある暮らしとライフワーク 私がヨロコブ、地球がヨロコブ 21世紀の生き方提案 ~半農半X~
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/028997.html
私は12年以上にわたって、日本の持続可能性の動きにかかわってきました。そして人々の考え方が変わってくる様子を目の当たりにしています。特にほかの世代とは違う新しいライフタイルや価値観を支持する若者がどんどん増えつつあります。こういった若者は、モノを買ったり所有することではなく、ほかの人や自然とのつながりを大切にし、そこに平和や幸せを見いだしています。
私は、9年前に仲間と一緒に「キャンドルナイト」運動を始めました。電気を消して、友だちや家族とロウソクのあかりでゆっくりした時間を楽しもうと呼び掛けるものです。毎年行われるキャンドルナイトのイベントには、日本中で1000万人が参加しているといわれています。
それから農業も、若い人たちの間でブームになっています。仕事時間を減らし、買い物に費やす時間を減らし、代わりに、自分の時間やお金を田んぼや小さな野菜畑の世話につぎ込んでいます。
また、ハイキングやアウトドア活動を楽しむ若い人たちが増えています。こういった人たちから、「山ガール」という新しい言葉も生まれています。ファッショナブルなアウトドア衣類に身を包んで、山道をハイキングするのが大好きという女性たちのことです。こういった人たちにとって、自然とつながることはカッコいいことなのです。
このような動きや傾向を見ながら、私は、「脱」で始まる言葉で3つの重要な考え方を表現できると思っています。そこで、「脱世代がやってきた」ことを宣言したいと思います。
最初の「脱」は、「脱所有化」です。モノを所有することから、共有することへのシフトです。日本の自動車販売店は、必死になって若い人たちに車を売ろうとしていますが、若い人たちは、「車を所有するなんてカッコ悪い」と言って、カーシェアリングで十分幸せでいたりします。
2つ目の「脱」は、「幸せの脱物質化」です。物質的なモノを買ったり所有することで幸せを追求するのではなく、人と人とのつながり自然との触れ合い、あるがままの自分でいることに幸せを見いだす人たちです。
3番目の「脱」は、「人生の脱貨幣化」です。貨幣経済に牛耳られることなく、自分自身の人生に幸せをつくり出していくということです。「半農半X」のような生き方がその例でしょう。この"ライフスタイル革命"が、静かに日本の中で広がっているのです。
上の世代の多くの人たちは、「脱」世代を理解することができず、「こんなに多くの人たちが会社のために死ぬほど働かないなんて、日本の将来の経済成長はどうなるのだろう」と心配しています。彼らは、私たちが新しい世代に入りつつあることをわかってないだけなのです。
「脱」世代の人たちは、お金のために熱心に働くことはしません。会社の出世のはしごを上ることにも、それほど関心をもちません。はしごを上るならりんごを摘むためのほうがいい!と言うかもしれません。こういった「脱」世代の人たちは、上の世代が経済効率、GDPの成長、企業の利益、より高い給料のために、自分自身のための時間がほとんど持てないほど必死になって働くようすを見てきました。また、この"GDP中心社会"が、孤独やメンタルヘルスの問題、ときには自殺さえ引き起こし、人々の人生をひどく傷つけてきていること、そして同時に、地域の破壊や気候変動、生物多様性の喪失など、地球にも甚大な被害を与えていることを感じているのです。
「脱」世代の人たちは、発展途上国の人たちや地球上のその他の生きとし生けるもの、将来世代に負担を与えることなく、幸せで満足できる人生を送ることは可能だということを一生懸命証明しようとしています。彼らは、人にとっても地球にとっても真に持続可能な「脱」ライフスタイルを確立しようとしているのです。
あなたの人生は、自分自身にとってだけではなく、ほかの人や地球にとっても本当に持続可能なものだと思いますか? ぜひ「脱」世代に加わって、自分自身の「脱」ライフスタイルをつくり出すために、何を変えたいかを考えてみませんか。
「脱」は、自分の人生に持続可能性と調和と幸せを求めているあらゆる世代の人々のものです。今では誰もが持続可能性について語りますが、古い思い込みを解き放ち、本当に自分にとって大切なことに集中することで、持続可能な「あり方」ができるのです。
「脱」の時代へようこそ!
※TEDxTokyo 2011:未知への扉 5月21日 ~ "De" Generation 以下で枝廣の講演動画をご覧いただくことができます。 ぜひ、ご覧ください。
http://www.youtube.com/watch?v=y395J6W6i1E&feature=relmfu
(枝廣淳子)