ニュースレター

2011年05月14日

 

原発事故は国民の「今後のエネルギー」に関する意識をどう変えたか?

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JFS ニュースレター No.104 (2011年4月号)

日本の電力会社の業界団体である電気事業連合会の「日本の電力消費」の予測を見ると、「電気需要は増加し続けており、今後もますます増加する」と書いてあります。(ちなみに、日本では、家庭など小口需要家に対しては地域ごとに一社が独占体制で電力を供給する体制になっており、一般電気事業者は全国に10社しかありません)

政府は、発電電力量に占める原子力発電の割合を2005年の31%から2030年には49%まで増加させることをめざすなど、原子力発電を日本のエネルギー政策の中核に据えてきました(エネルギー基本計画を見直すという話が出てきているので、今後変わっていくでしょうが)。

それに対して、「エネルギーや電力の消費量が永続的に増えていくことは地球の限界を考えると無理だ」という声は一部の市民の間にはありましたが、主流派ではありませんでした。また、反原発・脱原発運動も"限られた市民グループのもの"だったといえるでしょう。

日本では今のところ、グリーン電力証書などを活用することはできても、基本的には住む場所によって電力会社が決まっており、その電力会社が決めた電源ミックスが生み出す電力を使うしかありません。スウェーデンなどのように「うちは風力発電の電気をちょうだい」と選ぶことができないのです。

選ぶという選択肢がなかったことに加え、「停電時間の短さ」では世界の中でもずばぬけている日本では停電を体験することもほとんどありませんでした。「電力は使いたいときに使いたいだけ、安定的に得られるもの」であったことも、一般市民のエネルギー源に対する関心が、これまではそれほど高くはなかった背景にあるといえるでしょう。

そんな日本で、東日本大震災が起こりました。電車も止まり、何時間も歩いて帰宅した人々もたくさんいました。 震災後には広範な地域で停電となりました。

また震災の影響で、東京電力福島第一原子力発電所の事故をはじめ、いくつもの原子力発電所や火力発電所が操業不能となったため電力供給量が落ち込み、地域輪番制での計画停電が行われ(あまりじょうずに計画・伝達されていないため、「無計画停電」と揶揄する人もいます)、東日本の産業界や人々の暮らしに大きな影響を与えています。この夏はピーク時の電力需要の75%しか供給できないと予測されています。これから大規模な節電が必要となり、万一じょうずに需給バランスがとれなければ、大停電もありうると危惧されています。

テレビのニュースはもちろんワイドショーも、職場や家庭、近所とのおしゃべりも、「電力」「節電」の話題で持ちきりです。今回の震災・原発事故がもたらした状況が、これまで"眠っていた"日本人の「エネルギー意識」を揺り動かしているということができるでしょう。

JFSが海外発信パートナーとして協力している「幸せ経済社会研究所」(所長:枝廣淳子)では、4月5~6日に今回の東日本大地震および東京電力福島第一原子力発電所事故が国民の日本の今後のエネルギーに関する意識をどのように変えたかを知るために、「日本の今後のエネルギーに関する国民の意識調査」をおこないました。4月8日にその結果を発表しましたので、以下、その結果をお伝えします。

アンケートは、インターネットアンケート調査会社(株式会社マクロミル)に委託し、20歳~70歳の1,045人(年代、性別および大都市/中小都市・地方の割合は日本人口比に合わせる。被災県からの回答もあるが人口比に比べて少ない)を対象におこないました。

「今回の震災・東京電力原発事故を受けて、『日本のエネルギー』についてのあなたの考えや意見は変わりましたか?」という質問に対して、全体の4分の3にあたる74%(774人)が「変わった」と答えました。今回の震災および東京電力福島原子力発電所事故が多くの日本国民の「日本のエネルギー観」に影響を与えたことがわかります。
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考えや意見がどのように変わったかを自由記述で尋ね、その回答を分類したところ、意見が変わった人の47%(360人)が「原発の安全性に対する信頼が揺らいだ」、24%(187人)が「節電・省エネ意識が高まった」と答えました。
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エネルギーの中でも暮らしや経済にとって特に重要な電力について、詳しく尋ねました。電力の課題には「量」(どのくらいの電力を使うのか)と「質」(その電力を何で発電するのか)の2つがあります。

また電力に関するシフトを考える場合、「時間軸」を意識することも重要です。特に発電所を作るなどの供給側はシフトに数年~数十年かかる場合も多いからです。今後のエネルギーについては「今日明日にどうしたいか」と「長期的にどうしたいか」を分けて考える必要があります。今回の調査では、日本のエネルギーを「長期的にどうしたいか」に関する意識を尋ねました。

まず電力の「量」について聞きました。「30年前の日本が使っていた電力の量は現在の約半分だった。30年後の日本が使っている電力の量は、現在と比べてどうあるのが望ましいか」という質問に対して、51%が「減っていることが望ましい」、38%が「変わらないことが望ましい」、11%が「増えていることが望ましい」と答えました。
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半数強が「長期的には日本の電力消費量は減少すべき」と考えていることがわかります。望ましい減少の割合を尋ねたところ、30~39%の答えが最多で、次が20~29%、全体の「望ましい削減割合」の平均値は28%でした。
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次に、電力の「質」について聞きました。30年前の日本の電源構成と現在の日本の電源構成の2つのグラフを示した上で、「30年後の日本の電源構成は現在の電源構成に比べてどうなっていることが望ましいか?」と尋ね、「水力」「天然ガス」「石炭」「石油等」「原子力」「水力以外の自然エネルギー(太陽、風力、地熱など)」の各電源について、望ましいのは「大きく増加」「やや増加」「変わらない」「やや減少」「大きく減少」「ゼロになっている」のいずれかを答える形で望ましい構成比の増減を聞きました。
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30年後の原子力発電については、22%が「ゼロに」、28%が「大きく減少」、22%が「やや減少」と、全体の72%が減らす(ゼロを含む)ことが望ましいと考えています。
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30年後の自然エネルギー(太陽、風力、地熱など。水力以外)は78%が「大きく増加」、15%が「やや増加」と、全体の93%が増やすことが望ましいと考えています。
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その他の電源の構成比の望ましい増減を見ると、「水力」は65%が増加を望み、「天然ガス」は40%が増加を望み、「石炭」は54%が減少(ゼロを含む)を望み、石油等は66%が減少(ゼロを含む)を望んでいることがわかりました。
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それぞれの望ましい構成割合の増減の理由については尋ねていませんが、放射性物質の安全リスクのほかに、CO2排出量や資源の枯渇性、地政学リスクなどの要因が係わっているのではないかとうかがわれます。

今回の調査を通して、このたびの震災および東京電力福島原子力発電所事故が、多くの日本国民の「今後の日本のエネルギー」に関する意識を変えたこと、日本の電力消費量は「減っていくべき」と考えている人が多いことがわかりました。その電源構成については、4分の3近くが「原子力は減らすまたはゼロが望ましい」と考え、全体の5人に1人は「原子力はゼロにするのが望ましい」と考えています。他方、太陽、風力、地熱、水力などの自然エネルギーが増えることを望んでいる人が多いことがわかりました。

持続可能で幸せな日本の社会や経済を考える上で、エネルギー・電力のあり方はとても重要です。「いますぐどうあってほしいか」という短期的な視点ではなく、「30年後にどうあってほしいか」という長期的な視点で考えたとき、「右肩上がりの電力需要をまかなうために、発電量の大きな原子力発電所をどんどん建設する」というこれまでのパターンとは異なる姿――「電力消費量は減っていき、その電源は、安全性への信頼がゆらいだ原子力ではなく、自然エネルギーが大きな役割を果たす」暮らし・経済・社会を望んでいる人が多いことは、今後の日本のあるべき姿を考えるうえで確かな方向性を示すものだと考えられます。


(枝廣淳子)


このページは Artists Project Earth の助成を受けています。
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