ニュースレター

2011年02月08日

 

「いのち」未来への継承 ~私たちの地球のために~ワイズメンズクラブ 横浜国際大会でのスピーチより(後編)

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JFS ニュースレター No.98 (2010年10月号)


前号に引き続き、第69回ワイズメンズクラブ 横浜国際大会で行った講演、「いのち」未来への継承 ~私達の地球のために~ の後半部分をお届けします。

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命を未来へ継承するために、大切だと私が信じていることの2つ目は、さまざまなつながりを見ようとすることです。どのような状況も問題も、目に見えるものも見えないものも含めて、さまざまなつながりからできています。私たちは自分たちが想定しているつながりや自分たちに見えるつながりは考えますが、気づいていないつながりも含めて考えることが重要なのです。

1つ、実際にあった話をご紹介しましょう。日本の南にある奄美大島には天然記念物のアマミノクロウサギが生息しています。この島には猛毒をもった蛇であるハブも生息しており、時々人が噛まれて被害が出ていました。ハブを退治しようと、人々はもともとこの島にはいなかったマングースを連れてきました。マングースはハブと戦う蛇として知られていて、檻の中でハブと戦うマングースの様子をテレビなどで見たことのある方もいるでしょう。

マングースを連れてくれば、ハブをやっつけて、島は平和になる、と人々は望ましいつながりを考えたのでした。ところが、実際には予想外の事態が起きました。マングースは確かに檻に入れられれば命をかけてハブと戦います。けれども、島に離されたマングースにとってみれば、別に危険なハブと戦わなくても、弱い獲物がたくさんいます。そこで、マングースはアマミノクロウサギを獲物としてどんどん食べてしまったのでした。その結果、この島では、ハブは減らない、マングースは増える、天然記念物のアマミノクロウサギは絶滅寸前、という状況になってしまったのです。

このように、私たちが何かやることは、目指していたもの以外にもさまざまな影響を与える可能性があることを忘れず、全体の構造を、つながりをたどることで見ようという物の見方――システム思考と言います――が、あらゆる人にとって大事だと思うのです。

つながりをたどって見ていくということは、時間軸を延ばすことでもあります。イロコイ族というネイティブ・アメリカンは、「何をするのにも7世代後のことを考えなさい」という掟を守っていたそうです。今日では、とても時間軸が短く、自分の周りや現在のことしか考えられなくなっています。さまざまなつながりをしっかりと考えていくこと、これをやることは、自分が想定していること以外にも、どんな影響があるんだろうか、ということも考えていくこと、時間軸を延ばして考えることが必要です。

そして3番目に大事なことは、仕組みをつくること、変えることです。人々の意識啓発によって、温暖化への取り組みを進めることは、部分的にしか成功していません。意識は高まっても、必ずしも行動につながるとは限らないからです。

意識があってもなくても、人々の行動変容につながるような仕組みをつくったり、望ましくない行動を続けさせる原因となっている仕組みを変えたりすることが大切です。そうすれば、人を責めず、自分も責めず、効果的に多くの人々の行動を望ましい方向に変えることができるからです。

アメリカの新婚夫婦のこんな話を聞いたことがあります。お婿さんがお嫁さんの料理をするところを見ていたら、ローストビーフを作ろうと、お肉の両端を切り落としてオーブンに入れていました。「なぜ両端を切り落としてオーブンに入れるんだい?」と尋ねると、お嫁さんは、「さあ、どうしてかしら。実家の母がいつもそうしていたから」と答えます。2人がお嫁さんの実家に遊びに行った時、実家のお母さんがローストビーフを作ってくれました。作るところを見ていたら、やはりお肉の両端を切り落としてオーブンに入れています。お婿さんは、実家のお母さんに聞きました。「なぜ両端を切り落としているのですか?」。お母さんはこう答えました。「さあ、なぜかしらね。うちの母がいつもそうしていたから」。

そこでお婿さんは、実家のお母さんのお母さんの所へ行きました。そして、「なぜローストビーフを焼くときに両端を切り落としているのですか? あなたがそうしているからと言って、あなたの娘さんも、お孫さんもそうしているのですが」と聞いたところ、おばあさんは、にこりと笑ってこう言いました。「昔はオーブンが小さかったからね、両端を切り落とさないと入らなかったのよ。でも、今はオーブンが大きいから、両端を切り落とすなんてことはしていないわよ」。

このように、昔そうだったから、いつもそうだから、ということで、その目的や状況が変わったにもかかわらず、続けてしまっていることが、私たちの個人でも、社会にもたくさんあります。それに気がついて、新しく望ましい行動に人々を導くような仕組みを変えていくこと、つくっていくこと。これが大事です。

そして4番目は、本当に大切なことを大切にすることです。人口増加と経済の拡大が、さまざまな環境問題を引き起こしていることは、よく理解されていると思います。それでもなお、私たちの政府は、GDPは何%成長しなくてはならないと、躍起になっています。

私たちは、GDPや経済成長のために生きているのでしょうか? 本当に大切なのはGDPや経済成長ではなく、私たちや人々、未来世代も含む、みんなの幸せではないでしょうか。GDPで測られる経済成長がみんなの幸せにつながると信じていたからこそ、経済成長を大事にし、GDPを指標としてきました。しかし、経済成長もGDPも手段でしかありません。ところがある時期から、それらが目的化してしまいました。

GDPは、ご存じのように、どんなモノでもサービスでも、それがお金を動かせば計上されます。それが幸せにつながっていても、つながっていなくても関係ありません。つまり、犯罪が増えれば増えるほど、環境破壊が増えれば増えるほど、GDPは増えます。なぜなら、それだけお巡りさんの時間や環境浄化のための薬品や機械が使われ、それはすべて経済活動としてカウントされるからです。でも、そんなものが増えてGDPが増えても、私たちはうれしくありません。

現在、GPI(Genuine Progress Indicator)という「真の進歩指標」が考案され、十数カ国で計測されています。これはGDPから、犯罪や環境破壊や家庭崩壊など「幸せにつながっていないもの」を引き、家事やボランティアなど、「幸せにつながっているがGDPに計上されていないもの」を経済価値に換算して、計算しています。

アメリカのグラフを見ても、日本のグラフを見ても、1人当たりのGDPはどんどん増えているのに、GPIは、ある時期から停滞しており、場合によっては減りつつあります。つまり、GDPはどんどん増えても、私たちは幸せになるどころか、不幸せになりつつあるということです。

こんな中で、アジアの途上国であるブータンが、GNHという興味深いコンセプトを打ち出しています。前国王が数十年前に、「GNPよりGNHのほうが大事だ。ブータンはGNPではなく、GNHで国の進歩を測る」ということを提唱し始めたのです。GNHとはGross National Happiness。このような指標で人々の幸せを測り、ブータンが国として進歩しているかどうかを測ろうとしています。

日本を含め、各国の歴史を振り返れば、大切なことを大切にするための知恵がたくさんあるのではないかと思います。たとえば日本の江戸時代は、鎖国をしていたため、エネルギーや食糧も外から入ることはなく、すべて自給自足をしていました。その江戸時代の260年の間、日本では戦もなく、素晴らしい文化が花開き、平和な時代が続いたのです。

私たちは、経済性至上主義の中で捨て去り、忘れてきましたが、大事なものを本当に大事にするということの中で、それぞれの文化の中にあった持続可能な生き方を、もう一度取り戻す必要があるのではないかと思います。

そして最後、5番目に大切なことは、「伝えること」です。バックキャスティングであるべき姿としてのビジョンを描くこと、見えないものも含めて、つながりを感じ、考え、つくり出していくこと、根性に頼らず、仕組みをつくったり、変えていくこと、本当に大切なことを大切にすること――こういったことを、先に気がついた私たちが、どんどんと伝えていく必要があります。

どのような伝え方をすれば、どのように伝わるのか。効果的な伝え方をいろいろと試しながら、伝える力も鍛えていくことが大事です。

たとえば環境問題について伝えたいとき、環境問題に関心のない人にどう伝えるかが、大きな課題です。私もその課題に直面しました。環境問題の本を書いても、もともと環境に関心のある人しか読んでくれない。環境に関心のない人たちに伝えるにはどうしたらいいだろう?

その考えた結果書いた本が、『朝2時起きで、なんでもできる!』という本です。この本は、2年間で同時通訳になるためにどのように英語の勉強をしたかという話や、朝2時に起きるという変わった生活で自分の時間をつくり出す工夫など、私の個人的な話を自己実現の本として書いたものです。これはビジネス書や自己啓発書の棚に置かれますから、環境問題に関心のない人も手を伸ばしてくれます。

しかし、その本の中で2ページだけ、私が楽しそうにやっている活動の1つとして、環境問題の話が載っているのです。そして私が発行している無料のメールマガジンの面白い部分の抜粋と登録先が、さりげなく載っています。

実際、『朝2時起きで、なんでもできる!』は15万部ほど売れ、この本の読者のうち数千人が、私の環境メルマガに登録してくれました。「こんな面白いメルマガだったら読んでみよう」と思ってくれたようです。

このように、伝えたいことを前面に出すばかりではなく、ときには本当に伝えたいことは隠して、違う入り口から入っていくことも大事だと私は思っています。私はこれを「トロイの木馬作戦」と呼んでいます。今でも、伝え方をいろいろと工夫しながら、1人でも2人でも多くの方々に大事なことを一緒に考えてほしいと思って活動しています。

そのような伝える活動をしてきた私から、最後にもう1つ、一番大切なことは何かを、皆さんにお伝えして、私の話を終わりにしたいと思います。それは、言葉より行動が、伝える力が大きいということです。どんなに言葉を尽くして伝えるよりも、行動を1つでも2つでも変えていくこと、そのことこそがまわりに伝える力が大きいのです。

言葉よりも行動すること――そのことを最後にお伝えして、私のスピーチを終わりにしたいと思います。

ありがとうございました。

※ワイズメンズクラブ国際協会
http://ic2010yokohama.web.fc2.com/japan/index.htm


(枝廣淳子)

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