ニュースレター

2010年06月08日

 

2020年、2つの日本の姿(後編)

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JFS ニュースレター No.90 (2010年2月号)


前号では、10年後の日本、つまり「2020年の日本」の姿を2つの可能性のうち、「このままの状態が続くと......?」という10年後を描きました。今回は、全く異なる「2020年の日本の姿」を描いてみようと思います。私が描く、こういう日本にしたい、できるのだ!という姿を。

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2020年。この10年間で、日本は大きく変わった。2010年の段階で、「2020年は2050年に温室効果ガスを80%削減するための一里塚にすぎない」ということをしっかり認識し、議定書の単なる帳尻合わせのために、他国に資金を流出させるのではなく、本腰を入れての国内での削減と、途上国の削減支援のためのしっかりとした投資をし始めたからである。

また、「日本にとっての大問題は、温暖化だけではなく、化石エネルギーのピークの到来とそれに伴う食料問題である」こともしっかり認識して、取り組みを進めてきた。

人口減少や高齢化の進む日本の社会を、どのようにソフトランディングすべきか、どうしたら、福祉サービスを提供する行政の負担を減らしつつ、地域の人々の幸せを最大化できるか、という設計も同時に行い、どの地域も低炭素都市づくりを実践してきた。

つまり、COPでの議論や他国を待つことなく、日本はしっかりと自分の足で立てる国になるために、この10年間を費やしてきたのである。

この10年間に最も力を入れたのは、エネルギーだ。太陽光だけではなく、洋上を中心とした風力発電、地熱やバイオマス、太陽熱などの利用を進め、そのような間欠性のある自然エネルギーを広く受け入れられるよう、スマートグリットの整備も全国規模で急ピッチで進められ、ほぼ整備が終わったところである。どの地域でも、その地域の得意な自然エネルギーを大いに開発できるようになっている。

人々の移動は、公共交通やカーシェアリングがメインとなり、補助的に使われる自動車もほぼすべて電気自動車である。燃費が悪い上、燃料代も排出するCO2に対する税金も高いガソリン車は、今ではコレクターしか興味を示さない。かつて「ガソリンスタンド」と呼ばれていた場所は、今では太陽光パネルや風力タービン、小規模なバイオマス発電所から電気自動車に燃料を給電するための場所となっている。

こうして、エネルギーの脱CO2化を進めた結果、エネルギー消費量と二酸化炭素排出量のデカップリング(切り離し)ができ、日本の産業界は、何の遠慮もペナルティーもなく経済活動を増大することができるようになり、経済は大いに活性化している。

都市づくりも、輸入エネルギーや排出するCO2を減らすために、職住近接のデザインを中心とするようになった。通勤にかかわるCO2が減っただけではなく、通勤時間が減ったため家族の時間が増え、子育てがしやすくなったおかげで、出生率も上昇している。人々が地域に戻ってきたので、祭りや商店街など地域も活性化し、地域でのモノやお金の循環が、ますますその地域を元気にするという好循環が、各地で回り始めている。

2010年には、手入れされず荒れてしまい、国土保全上の大問題だといわれていた森林も、今では林業がエネルギー産業になったため、活況を呈している。間伐材や端材をバイオマスエネルギーとして利用することで、林業が十分に経済的に成り立つようになったのだ。森に若い人々と活気と誇りが戻ってきている。

電力会社は、10年前は「電力販売量が収益に結びつく」しくみだったが、現在では、「家庭に提供する快適さから利益を得る」しくみに変わっている。家庭にとっての快適さには、余計な電力を使わずに、排出するCO2もできるだけ最小化することも含まれている。従って、電力会社は、いかに多くの電力を使わせるかではなく、いかに少しの電力で快適さを最大化できるかにしのぎを削っている。

2010年に「住宅のエコポイント」が導入されてから少しずつ広がり始めた住宅の断熱だが、2020年の今では、新築のみならず既築も含めて、どの家庭にも高効率のペアガラスが入っており、単に省エネだけではなく、冷気や結露の悩みを解決し、周囲の騒音もシャットアウトするなど、静かで快適な暮らしに役立っている。

家電製品は、2010年の時点では省エネ家電として各家庭で導入が進んでいたが、10年後の今は、家電のすべてがスマートメーターでつながることで、互いに連携し合ってトータルに家庭に快適さを提供しながら、省エネを図っている。たとえば、住んでいる人は気がつかないが、冷蔵庫やクーラーなどは、電力網全体の需給状況を見ながら、1時間ごとに5分~10分程度、通電を止めたりすることもある。それでも快適性は変わらない。電気代が安くなるだけである。

農業は、化石燃料に頼らない農業に力を入れることで、自給率を高め、安全で安心な農作物を人々に提供している。この10年間に、森林だけではなく、土壌の炭素固定についても国際的な議定書の対象となったため、有機農法・不耕起栽培・バイオ炭の活用に力を入れている日本の農地は、カーボンクレジットを生み出し、農家に副収入をもたらしている。

省エネとエネルギー転換を進めていくことで、2050年には、日本の家庭から排出されるCO2はゼロになるだろう。日本の産業界は、ありとあらゆる高性能の個別の製品をシステムとして組み合わせて提供することで、あらゆる国の家庭や経済のCO2を減らせる力を擁しており、それが日本の国際競争力の大きな源泉となっている。日本政府や日本の企業は、今では「世界の必殺CO2削減人」と呼ばれ、各地からの依頼や注文が引きも切らないのだ。

このような状況の中、人々の暮らしに笑顔と自信が戻っている。人々は、将来世代や人間以外の種への罪悪感を抱くことなく、暮らしや経済活動を営むことができている。そして、たとえ石油がなくなっても、CO2の制約がさらに厳しくなっても、日本はしっかりやっていけるという自信に満ちている。世界の日本に対する敬意も、単にお金を出すだけではなく、「言ったことをやる」ことを通して、本当の意味での低炭素社会・持続可能な社会にシフトしてきた日本に対する称賛なのである。

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2回にわたってお届けした「2つの日本の姿」、いかがでしたか? 私が個人的に描いた現状維持の場合の見通しや望ましいビジョンに過ぎませんが、「ありたい姿、あるべき姿」をまず描いてみるというバックキャスティングの1つの例になったでしょうか?

読者の皆さんも、「2つのご自分の国の姿」を考えてみて、いかがでしたか?

世界も各国も各地域も、各企業も各家庭も、「こういう姿にしたい」というバックキャスティングでのビジョンを描き、具体的な取り組みを大胆に進めていく10年になれば、と願っています。

2020年最初のJFSニュースレターで、「この10年、世界中が本当に大きく変わりましたね!」という記事が書けることを夢見ています。


(枝廣淳子)

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