ニュースレター

2010年01月19日

 

事業者や市民とのパートナーシップで進める京都市の取り組み

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.85 (2009年9月号)
シリーズ:地方自治体の取り組み 第27回

かつて日本の都が置かれていた京都市は、1200年を超える歴史を誇り、今も伝統文化が受け継がれ磨き上げられている、生き続ける歴史都市です。また、人口150万人を擁する大都市でもあると同時に、年間約5000万人もの観光客が内外から訪れる観光都市でもあります。一方で、市内の面積の4分の3は森林が占めており、美しい自然にも恵まれています。

京都市で国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)が開催されたのは、1997年12月のことでした。京都議定書によって、世界中にその名が知られるようになった京都市では、これまでどのような取り組みをしてきたのか、今、何をしようとしているのか、お伝えしましょう。

COP3に先立つ96年10月、京都市では、全国に先駆けてバイオディーゼル燃料化事業を始めました。家庭から使用済みのてんぷら油を回収して、市の精製プラントで燃料化し、市のごみ収集車および市バスで使用するというものです。

この取り組みは、リサイクルによってごみを減らし、化石燃料の使用量を減らして二酸化炭素排出量を削減し、排ガス中の黒煙・硫黄酸化物を減らし、回収作業を通じた市民の意識啓発、共同作業を通じた地域コミュニティの活性化にもなるという、一石五鳥の取り組みとして始められました。

97年11月からは、100%バイオディーゼル燃料を、すべてのごみ収集車に利用するようになり、3年後には一部の市バスの燃料として、軽油にバイオディーゼル燃料を20%混合して利用し始めました。2004年からは日量5,000リットルの燃料化プラントが稼働しています。

2007年度には、1,515キロリットルのバイオディーゼル燃料が使われ、3,969トンの温室効果ガス排出量を削減する効果がありました。2008年度末時点では、家庭からの回収拠点は1,352カ所、市の持つ約170台のごみ収集車すべてと約100台の市バスにバイオディーゼル燃料が使われています。

COP3の開催を控えた97年7月には、2010年までに京都市域の二酸化炭素排出量を1990年レベルから10%削減することを目標とする京都市地球温暖化対策地域推進計画を策定し、その実現に向けての取り組みが始まりました。

98年11月には、行政、市民、事業者のパートナーシップ組織「京のアジェンダ21フォーラム」が設立されました。ライフスタイル、企業活動、エコツーリズム、環境にやさしい交通体系の創出、エコミュージアム、食の循環、自然エネルギー、えこまつりの8つのワーキング・グループ(2008年6月からは5つ)が置かれ、さまざまな主体が参加し、活動を展開しています。
http://ma21f.jp/


今でこそ、多くの自治体で、市民・事業者とのパートナーシップ組織を作り、市民参画のもとでの取り組みを進めていますが、京都市の「京のアジェンダ21フォーラム」は、全国に先駆けての取り組みでした。そして、その後の京都市のさまざまな取り組みの大きな基盤となっています。

「京のアジェンダ21フォーラム」から生まれた取り組みの一つが、「KES・環境マネジメントシステム・スタンダード」(KES)と呼ばれる京都発の環境マネジメント・システムです。99年11月に京都市が中小企業を対象にアンケート調査を実施したところ、70%の企業は環境問題が重要と認識しながらも、80%弱の企業は「あまり取り組んでいない」と回答し、その理由として情報不足やコストを挙げました。

京のアジェンダ21フォーラムの企業活動ワーキング・グループでは、京都市内に約9万社ある中小企業の環境活動を促進することが重要だと考え、中小企業のISO14001認証取得を支援する活動を始めました。しかし、人手や高額な取得費用などが障害となり、うまく進みません。

そこで、中小企業でも取り組める環境マネジメント・システムを自分たちで創設することを考え、検討を重ねた結果、誕生したのがKESです。KESは、Plan、Do、Check、ActionのPDCAサイクルによって継続的改善を図るという、ISO14001と同様の環境マネジメント・システムの規格です。

内容や表現を平易にし、あらゆる規模、業種の組織(企業、自治体、学校、家庭等)で取り組めるよう、ステップ1(要求事項のレベルを抑え、環境問題に取り組み始めた組織が環境保全活動になじむことを目指す)とステップ2(要求事項をISO14001に近いものとし、将来のステップアップを容易にする)の2段階の規格を作りました。認証取得に要する費用は、ステップ2で30万弱で、ISO14001の10分の1程度です。2001年5月からKESの認証登録が始まりました。

京都市では、KESの普及を図るため、企業向けの説明会の開催や技術的・経済的支援を実施するほか、一般競争入札資格業者の格付けに際して、ISO14001と同等の優遇措置を設けるとともに、入札参加者をISO14001またはKES取得企業のみに限った建設工事の発注を行うなどしています。

現在、市内では739の中小事業者がKESを取得しています。エネルギー使用の効率化に取り組んだ503事業所の活動結果を集計したところ、年間・事業所当たり、約11.6トンのCO2が削減されたことがわかっており、その有効性が示されています。

京都市以外にも、KESに基づく環境マネジメント・システムを推奨する自治体も増えています。グリーン調達の条件の一つとしてKES取得を挙げる企業も全国に広がり、他の認証機関分を合わせると、現在では全国で2,600を超える事業所が認証を取得しています。また、それぞれの地域にあわせた中小企業向け環境マネジメント・システムを構築する自治体も増えています。

※ JFS関連記事:日本の地域版・中小企業版環境マネジメントシステムの潮流
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/027418.html


2004年12月には、全国の自治体で初めて、温暖化対策に特化した条例「京都市地球温暖化対策条例」を制定しました。2010年までに京都市域の温室効果ガス排出量を90年の水準から10%削減すると明記したもので、大規模事業者に対して、排出削減計画と実績報告の提出を義務づけています。

現在、日本全国で使われている「統一省エネラベル」。家電製品の購入者が省エネ型のものを選択できるよう、使用時の消費電力量等の情報を示し、製品の省エネ性能をランク付けしたものですが、この「統一省エネラベル」は、地域から始まった取組です。

京都では、京のアジェンダ21フォーラムを中心に、市民、市民団体、家電販売店等の団体からなる省エネ製品グリーン・コンシューマ・キャンペーン実行委員会を立ち上げて省エネラベルの作成を進めました。市民にとってわかりやすい省エネラベルについて協議を重ね、省エネ性能(省エネ基準値を元に5段階に分けて表示)と金額(製品販売価格と平均使用年数での電気代)を表示することにしました。

2004年7月には、京都省エネラベル協議会を設立し、京都市では同年に制定した「京都市地球温暖化対策条例」において省エネラベルの貼付等を位置付けました。同年10月には、省エネラベルを推奨する多くの自治体等が参加する全国省エネラベル協議会が結成され、同じ表示による省エネが全国的に普及しました。

このような省エネラベル普及運動の高まりを受け、2005年8月には国の省エネ法が改正され、「家電販売店等は省エネ性能についての情報提供に努めなければならない」と追加されました。そして国による統一省エネラベル制度が2006年10月から始まったのです。

京都市では、COP3の開催の地であることから、行政だけではなく、事業者や市民の意識も高かったことや、パートナーシップに関しても、環境問題以前から、行政、事業者、市民がともに話し合って取り組みを進める素地ができていたことなどから、このようなパートナーシップに基づいた先進的で実効性のある取り組みが進んだと考えられます。

2009年1月、京都市は他の12都市とともに、国から環境モデル都市に選ばれました。同市の温室効果ガスの削減目標は、2030年までに40%、2050年までに60%(いずれも90年比)です。温室効果ガスを削減することにとどまらず、排出しないという観点に立って、カーボン・ゼロ都市に挑むとしています。

環境モデル都市の取り組みも、パートナーシップに基づいて進めているところです。「歩くまち・京都」「木の文化を大切にするまち・京都」「"DO YOU KYOTO?"ライフスタイルの変革」というシンボル・プロジェクトに対して市民会議を設け、市民、事業者と一緒に企画から考え、行動につなげていく取り組みを進めています。現在戦略をとりまとめ中で、この秋~冬には策定され、実行に移されていく予定です。

環境モデル都市としての取り組みも、京都の歴史を活かし、よりにぎわいのあるまちづくりをめざして、市民、事業者とのパートナーシップに基づいて進めていくことでしょう。実効を示して世界中の自治体へのモデルになることを強く期待しています。

(枝廣淳子)

※参考資料:京都市平成20年度版地球温暖化対策に係る年次報告書
http://www.city.kyoto.lg.jp/kankyo/page/0000024419.html
京都市環境モデル都市行動計画 平成21年3月
http://www.city.kyoto.lg.jp/kankyo/cmsfiles/contents/0000056/56642/kyoto-actionplan-honpen.pdf

English  

 


 

このページの先頭へ