2009年11月24日
Keywords: ニュースレター
JFS ニュースレター No.83 (2009年7月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第81回
http://www.suntory.co.jp/
サントリーグループが掲げるコーポレートメッセージ「水と生きるSUNTORY」。その水色のロゴからは、フレッシュでさわやか、それでいてくっきりと鮮やかな企業イメージが浮かんできます。ビール、ウイスキー、ウーロン茶、清涼飲料水など、同グループが生み出す商品に「水」は欠かせない大切な存在です。
同グループは1899年の創業以来、赤玉ポートワイン(現在の赤玉スイートワイン)や日本で初めての本格的な国産ウイスキーを発売したことでもよく知られ、常に創業者、鳥井信治郎氏による「やってみなはれ」のチャレンジ精神を発揮してきました。今年で創業110年を迎えますが、その精神は脈々と受け継がれています。
1989年に「人と自然と響きあう」という企業理念を定め、2005年、さらにそれを広く社会と共有するために「水と生きるSUNTORY」を掲げました。このメッセージには、「水とともに生きる ~自然との共生~」「社会にとっての水となる ~社会との共生~」「水のように自在に、力強く ~社員とともに~」という3つの思いが凝縮されています。
中でも地球環境問題を経営の軸に据えている現在、特に注目したいのが「水とともに生きる ~自然との共生~」です。「水のサステナビリティ」の実現、CO2排出量削減を目指し、そして生物多様性を保全し、自然環境の大切さを次世代に伝えていくことが、これからの重要なテーマです。
「水のサステナビリティ」の実現を目指して
かけがえのない天然水の持続可能性を守るために、同グループでは2003年から工場の水源にあたる場所を中心に、国や自治体と協働して「天然水の森」と名づけた水源涵養活動を展開しています。
サントリーホールディングス(株)CSR推進部長の内貴研二さんは、「原料となる水をただ大切にということだけでなく、海の水が蒸発して雨になって降り、川や地下水となって流れ、また海に注ぐという大きな水の循環を考えることが重要。飲みものをつくるという事業がその一部だとすると、しっかりと川上にも川下にも責任を果たしていくことが、社会における企業の役割だと思うのです」と話しています。このような循環を自覚することが、同グループが掲げる「水と生きる」のメッセージに続き、さらに「水のサステナビリティ」という新たな言葉を生みました。
「天然水の森」は、2003年にサントリー九州熊本工場の水源地で始めた南阿蘇を皮切りに、山梨県の南アルプス、群馬県の赤城、子持山、大阪府と京都府にまたがる天王山周辺、京都府の西山、鳥取県の奥大山(おくだいせん)など、現在では全国8府県9カ所で展開しています。
たとえば2008年3月に新しい工場が稼動し始めた奥大山は、南阿蘇、南アルプスに続く「サントリー天然水」の第3の生産拠点です。工場は大山隠岐(だいせんおき)国立公園に隣接し、その水源地周辺に広がる計147haの森づくりに、国や県、地域住民と協働しながら参画しています。辺りは広大なブナが生い茂る西日本有数の豪雪地帯で、地中深くには、適度なミネラル分を含んだ清冽な天然水がたたえられています。
サントリービジネスエキスパート(株)環境活動部長の高屋雅光さんは、「今後、工場で使う量以上の地下水を涵養できる森を保全していくことが、『天然水の森』の目的です。2008年に、南アルプス・白州(はくしゅう)の森を従来の29haから209haまで拡大し、赤城では10haから1310haへと広げました。そして2011年には、『天然水の森』を全国でさらに今の4倍にあたる7000haにまで拡大する計画です」と、話しています。このような水源涵養の成果が出るのは、30~50年も先ということですが、将来を見据えた「水のサステナビリティ」の実現に向けて、着々と取り組みが進められています。
CO2排出量削減への取り組み
同グループでは2009年、国内事業活動全体のCO2排出量を、2012年までに2007年比で20%削減することを目標に掲げています。そのため、商品開発、製造から物流、販売に至るまで、サプライチェーン全体でのCO2排出量削減を図るため、部門ごとに課題を設定して取り組んでいます。
特に生産部門においては、さまざまな環境新技術を導入しています。天然ガスを燃料に自家発電し、発生する排熱も同時に利用するコジェネレーション(熱電併給)を導入し、エネルギー効率を70~80%にまで高めることで、導入工場においてCO2排出量を20~30%削減。また、重油に比べて熱量あたりのCO2排出量が低い都市ガス、液化天然ガス(LNG)を2008年までに主要工場すべてに導入し、当年度はCO2排出量を5,600トン削減しました。風力、太陽光、マイクロ水力発電といったクリーンエネルギーの活用も進めています。
また、豪雪地帯ならではの特徴的な取り組みが、雪室の活用です。新潟県にあるサントリーグループの岩の原葡萄園では、1898年、冬に積もった雪を利用して、ワインの発酵や貯蔵の温度コントロールするため雪室をつくりましたが、2009年にこの雪室を再建しました。また、冬になると1~3mも雪が積もる奥大山ブナの森工場でも、同葡萄園を参考に雪室を設け、約7℃の冷水を作っています。この冷水は夏の冷房や生産設備の冷却に用いられ、年間10トンのCO2排出量削減につながっています。
容器に関しては、ペットボトルの軽量化の推進に加え、「サントリー天然水」(2Lペットボトル)6本入りの梱包を段ボールから透明フィルム「エコクリア包装」へ転換するなど、試作を重ねながら商品化を進めています。一つひとつは小さな取り組みでも、その積み重ねで大きなCO2排出量の削減につなげようとしているのです。
2008年からは環境緑化事業「midorie」も開始しました。グループ企業のサントリーミドリエ株式会社が展開する「緑の屋根」「花のかべ」は、土の代わりとなる新素材「パフカル」を独自開発し、従来は土の重量がネックとなっていた建物の屋上も緑化できるというユニークなもの。ヒートアイランド現象の緩和や屋内への断熱効果などが期待されます。
生物多様性の保全と次世代環境教育
生物多様性保全に関する注目がますます高まっている昨今ですが、同グループでも健全な生態系を守ることを基本的な責務と考えています。工場建設にあたっては、周辺地域の生態系への影響を調査、分析するとともに、「天然水の森」では、複雑な植生の回復や多種多様な動植物が生息できる森づくりを進めています。
1973年には、すでに野鳥保護の活動「愛鳥キャンペーン」を始め、山梨県・白州蒸溜所に「バードサンクチュアリ」(野鳥保護区)を設定。募金活動や、公益信託「サントリー世界愛鳥基金」を創設し、絶滅の危機にあるアホウドリの復活を支援するなど、大きな成果をあげています。また、大阪の山崎蒸溜所では、工場内で希少植物カリガネソウ、サワギキョウなどの植物を栽培、育成し、山梨の登美の丘ワイナリーでは、オオムラサキ、キツネ、トビなどの生息状況を観察する「緑の国勢調査」を行っています。赤城でも、地元の人たちと一緒になって希少植物やヒメボタルを守る活動を行っています。
このような豊かな自然環境や水の大切さを次世代へ伝えていくためには、環境教育もまた大切な取り組みです。同グループが展開する「サントリー水育(みずいく)」は、「森と水の学校」と「出張授業」の2本柱。現代盛んに言われている「食育」に対して、「水育」はサントリーならではの貴重な環境教育と言えるでしょう。
「森と水の学校」は、「サントリー天然水」の工場がある阿蘇、白州、奥大山の3カ所で行われ、大自然の中で体を使って「水の大切さ、水を育む森の大切さ」を学習するもので、2004年から2008年までに、約200回にわたり、8,500人以上の親子が参加しました。小学校での「出張授業」は、高学年を対象として「生活や自然と水の関わり」を伝え、2006年から2008年までに194校で実施されました。2009年もすでに活動が始まり、その内容もさらに広がっています。
このように、人、社会、自然が共生する持続可能な社会の実現に向けて、あらゆる角度から「水と生きる」メッセージが生かされています。新しい視点で、さらなる「やってみなはれ」精神を生かしていくサントリーグループに、今後もますます注目したいところです。
(スタッフライター 大野多恵子)