ニュースレター

2009年10月13日

 

地域冷暖房から地域エネルギーセンターへ!

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日本の地域冷暖房

JFS ニュースレター No.82 (2009年6月号)

はじめに

四季を通じて快適に生活するために、私たちは冷房や暖房を使っています。それぞれの建物が設備をもって冷暖房をするのではなく、「一定地域の複数の建物に一カ所または数カ所の熱発生プラントから冷水、温水、蒸気を導管を通して供給し、冷房、暖房、給湯などを行うシステム」が地域冷暖房です。今回は、日本の地域冷暖房の取り組みをご紹介しましょう。

2棟の東京都庁舎を含む超高層ビル群がそびえ立つ新宿新都心。ここでも、地域冷暖房方式が採用されています。新宿地域冷暖房センターで都市ガスを熱源として作られ供給される冷水と蒸気が、地域内のビルの冷暖房に使用されているのです。冷凍能力207,680kW、加熱能力173,139kW、供給延床面積220万平方メートルという同センターの規模は日本最大で、世界でも最大級となっています。

地域冷暖房は配管敷設が必要になりますが、個別に設備を持つ方式に比べてさまざまなメリットがあると言われています。冷暖房機器の大型化と集中管理によるスケールメリットが得られ、高効率な熱源方式を導入できます。未利用の低温熱源も活用できます。その結果、省エネが実現できると共に、大気汚染や騒音、振動などについても、設備・管理面から有効な対策が行えます。個別ビルは冷暖房プラントや燃料という危険物が不要になるので、機械室のスペースを他に活用でき、安全性も向上します。さらに煙突や冷水塔も不要となるので、ビルの景観も改善されます。

省エネに関して経済産業省の行った調査によると、個別熱源と比べて地域熱供給は、一般方式では約12%、コージェネレーション排熱利用方式では約15%、未利用エネルギー利用方式では約22%と、全体として約15%の省エネ効果があるとされています。
http://www.enecho.meti.go.jp/policy/dhc/hpver1/gaiyo.pdf

日本における地域冷暖房の歴史

日本では、1970年に大阪万国博覧会会場へ地域冷暖房が導入されたのが最初でした。当時は、日本経済の高度成長に伴って、公害問題が深刻化し、特に大気汚染防止の規制が強化されつつある時期でした。地方自治体は、地域冷暖房は大気汚染防止の有力な手段であるとして導入促進を図り、東京をはじめとする大都市圏で急速に導入が進められました。

そうした中で、地域冷暖房は1972年に制定された熱供給事業法による規制を受けることになりました。熱供給設備の加熱能力が毎時210億ジュール(21GJ ※)以上の場合は公益事業と位置づけ、同法による熱供給事業の対象となります。熱供給事業は経済産業大臣の許可制となり、区域内の需要に対して供給義務が課され、料金その他が許可制になる等、消費者の保護と保安の確保が図られます。

※21ギガジュールの加熱能力は、家庭用の一般的なエアコンのおよそ2,500台分の能力に相当し、オフィスビルでは延床面積5万平方メートル程度の空調が可能な能力規模。

1972年度から3年間で、16の事業者が認可され、事業を開始した地区数は21カ所となり、各地で新規の計画が進められました。しかし、1973年末からの2回にわたるオイルショックによる石油価格の高騰の打撃が大きく、1975年度から1980年の6年間で、新規事業者は4、地区数は11カ所と、地域冷暖房事業は停滞を余儀なくされました。

オイルショック後の原油価格の下落と円高によって原燃料価格が低下し、熱供給事業者の経営も次第に安定し、1981年からは新規事業者も参入するなど新たな発展の時期に入りました。特に1986年頃からは都市再開発の進展にともない、東京都を中心に各地で地域冷暖房の導入が行われました。

1986年度の事業者数は32、営業区域数は42カ所、熱売上高は372億円でしたが、2002年度にはそれぞれ90、147カ所、1514億円となりました。しかし、その後はほとんど伸びていません。その理由としては、大規模な開発が少なくなっていることが大きいと(社)日本熱供給事業協会はみています。

2007年度末の事業者数は86、営業区域数は148カ所で、区域の内訳は、北海道12、東北・関東89、中部12、近畿・中国・四国27、九州8。供給区域面積は4424万8000平方メートル、供給延床面積4867万4000平方メートル、2007年度の販売熱量25,072兆ジュール(25,071,818GJ)、総売上高1531億4800万円となっています。

この間、冷凍機をはじめとする機器の大容量化、高効率化を図る技術開発、発電と同時に発生する熱を利用するコージェネレーション方式の普及、都市排熱(ごみ焼却熱、下水保有熱、地下鉄排熱など)や河川水、大気といった未利用の低温熱源から熱を汲み上げるヒートポンプ方式の採用など、技術的にも大きく進歩しています。

参考:熱供給事業便覧(平成20年版):(社)日本熱供給事業協会発行
http://www.jdhc.or.jp/

最新事例

最新の地域冷暖房の事例として、エネルギーアドバンス社が運営する幕張地域冷暖房センターの最新技術の概要をご紹介しましよう。同センターは、幕張副都心(千葉県千葉市)のインターナショナルビジネス地区61.6ヘクタールを対象に、地区内のコンベンションセンター「幕張メッセ」、ホテル、オフィスビルなど9棟(延床面積66万平方メートル)へ、冷暖房用の6.5℃の冷水と170℃の蒸気を供給しています。
http://www.energy-advance.co.jp/area/makuhari_district.html

同センターは1989年から都市ガスを熱源として「ボイラ+蒸気吸収冷凍機+蒸気タービン駆動ターボ冷凍機」方式により稼働していましたが、2007年3月にフィンランド・バルチラ社製の2基のガスエンジン発電機を導入し、高効率ガスエンジンコージェネレーションシステムを追加する改造を行いました。V型20気筒の20V34SGは8730kW、V型16気筒の16V34SGは6970kWの発電出力があり、この電力は主に電動ターボ冷凍機(冷水製造)に使用されます。エンジンを冷却した温水は温水吸収式冷凍機の熱源として利用されます。

エンジンの高温の排気は排熱回収ボイラで蒸気として熱回収し、他のボイラの蒸気と合わせて、蒸気供給と蒸気を動力とする冷凍機に使用されます。これらの機器が加わったことで、熱需要の変動に対して最適な機器の組み合わせで対応することが可能になりました。

本ガスエンジンの発電効率(LHV基準)は約45%と、一般的な火力発電所の需要端効率を上回っており、温水と排気熱回収を合わせた総合効率は約77%に達しています。総合エネルギー効率(COP)は従来の0.7(※)から1.2を目指しており、燃料消費量24%削減、年間2万4000トンのCO2排出削減を達成しています。

※COP=0.7とは、入力エネルギー1に対して出力エネルギーが0.7であることを示す。

今回の改造の特徴は、発電したうち自家使用分を超える余剰電力を外部に販売していることです。これは2000年以降の電力自由化に向けた規制緩和によって可能になりました。その結果、自家使用に制限されず最大出力で発電し、その排熱を最大限利用し、総合効率の向上を図ることができます。

同センターを見学して、今後の地域冷暖房が、従来の熱供給のみから、熱と電気を供給し、大幅な省エネを実現する「地域エネルギーセンター」へ向かうことがよくわかりました。同社は幕張地域冷暖房センターを「地域エネルギーセンター」へ転換するモデルケースと位置づけ、その評価を踏まえて水平展開する考えです。

今後の展望

最近、日本でもマイクログリッドが注目され始めています。マイクログリッドとは、ある地域内で、複数の多様な分散型電源をネットワーク化し、地域内の発送電を最適制御するシステムです。分散型電源には、太陽光発電、風力発電、バイオマス発電、コージェネレーションなどがありますが、自然エネルギーは変動電源であり、また地域内の需要変動もあるため、安定したエネルギー供給をするため、IT技術を利用してネットワーク全体を管理することが必要不可欠です。進化した地域冷暖房センターは、マイクログリッドの中核施設として期待されています。

マイクログリッドの実現に向けて、エネルギーアドバンス社の親会社である東京ガスでは、「個と全体の有機的調和」を意味する言葉を冠した「ホロニック・エネルギーシステム」を研究しています。2006年10月からは同社横浜研究所内に本システム(ガスエンジン、太陽光発電、風力発電、電池など)を構築し、実証試験を行っています。
http://www.tokyo-gas.co.jp/env/challenge/category01.html
http://www.tokyo-gas.co.jp/Press/20080331-01.html

地域冷暖房センターの進化と自然エネルギーの利用拡大を支えるホロニック・エネルギーシステムの構築に大きな期待が寄せられています。

(スタッフライター 小柴 禧悦)

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