ニュースレター

2009年07月14日

 

ファッション・スワップという新しい動き

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『xChange』--誰でも気軽に参加できるファッション業界の環境運動

JFS ニュースレター No.79 (2009年3月号)

http://letsxchange.jp/

JFS/xchange01


世界で盛り上がるファッション・スワップ

今、欧米を中心に、ファッション・スワップ(Fashion Swap)が注目を集めています。これは、サイズが合わなくなり着られなくなった服など、使わずに眠っているファッション・アイテム(服、靴、バッグ、アクセサリーなど)を持ち寄って無料で交換することで、資源を有効活用しようという運動です。

たとえばアメリカでは、衣料の交換と古着をリメイクするワークショップを同時開催するスワップ・オ・ラマラマというイベントが2005年から始まっています。またロンドンでは、VISAがスポンサーとなり、特定のブランドに限ったファッション・スワップが開催されています。

スワップ・オ・ラマラマ
http://www.swaporamarama.com/(英語)
VISA・スワップ
http://www.visaswap.com/(英語)

ファッション・スワップは、知り合い同士が少人数で行うものから、大企業がスポンサーについて行う大きなものまで様々な規模で開催されています。「おしゃれを楽しみながら、サステナブルなライフスタイルを提案する」という思いのもと、個人やNGOから大企業まで、さまざまな運営母体が自由にイベントを開催できるのが、ファッション・スワップのひとつの魅力です。

また、衣料を持参する量や持ち帰る量は人によってさまざまですが、善意が善意を呼ぶように、不要なものを持ち寄り、必要なものを必要なだけ持ち帰るというスタイルがうまく機能し、世界各地で好評を博しています。このファッション・スワップが日本でも広がりつつあります。

日本でもファッション・スワップがスタート

JFS/xchange02

日本では2007年9月に『xChange』という名称で、東京ではじめて開催されました。日本でこの取り組みをスタートさせた丹羽順子さんは、この名称について、こう説明しています。『xChange』の『x』には、『何でも』という意味があります。服の交換だけでなく、アイディアや知識、思いなど、何でも交換(Exchange)して、新しい何かを生み出し、よい変化(Change)を創り出す場にしたいと考えています」

xChange
http://letsxchange.jp/

xChangeでは、ファッション・アイテムだけでなく、情報や思いも一緒に交換できる工夫をしています。そのひとつが「エピソード・タグ」。参加者は、自分で持参した衣料にタグを付け、名前(ニックネーム)と、その衣料にまつわるエピソードをひと言書き込みます。

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たとえば、白いジャケットには「友達からプレゼントされたけど、自分には上手く着こなせなかったので」というタグが、赤いパンプスには「私にはサイズが合わなくなりました。赤が好きな方にどうぞ」というタグが付けられています。値札を見るように、「この服はどんな人が着ていたのだろう?」と、エピソード・タグを読みながら選ぶ人もいます。「人とのふれ合い」というお金では計れない価値に目を向け、心や思いの交換を促進する工夫が生きています。

参加者からは、「ただでこんなに素敵な服がもらえるなんて、お得!」「自分が持ってきたものを、他の人が試着して持ち帰るのを見るとうれしくなる」という声があがっています。本人は不要と思って持参したものでも、他の人にとっては新しくわくわくする一着となるのです。
※xChangeでは、引き取り手のない衣料は、古着のリユース・リサイクル業者に寄附し、途上国への寄贈や、ウエス(機械類の油や汚れ・不純物などを拭き取るための布)への再利用というかたちで、ほぼ100%リユースしています。

衣料にまつわるさまざまな問題

昨今、食品業界で、オーガニック商品やフェアトレード商品への注目が高まってきました。しかし、ファッション業界ではまだ見落とされがちなテーマです。あまり知られていませんが、衣料の素材によく使われる綿は、生産過程の環境負荷が大きい植物なのです。綿の生産に使われる殺虫剤の量は、世界中で使われる殺虫剤の約25%に相当するとも言われています。栽培中には大量の殺虫剤・防虫剤・化学肥料などが使われ、刈入れ時には綿の葉を落とすために枯葉剤が撒かれることもあります。こうした大量の農薬は、生産地の環境や生産者の健康に深刻な被害を与えています。

また、綿の栽培には大量の水を必要とするため、無理な灌漑を行って水不足が生じている地域もあります。特に中央アジアにあるアラル海は、綿花栽培の水利用が原因で枯渇が危惧されています。

さらに、日本人は年間平均10キロの服を買って9キロ捨てているという統計や、年間210万トンを越える繊維製品が「燃えるごみ」として焼却・埋め立てされているという報告もあります。また、女性は自分の持っている服のうち20%のお気に入りの服だけを80%着まわしている、とも言われ、着ない服がタンスの肥やしになっていることが多いなど、衣料がもたらす環境負荷は、原材料の調達から廃棄まで考えると、想像以上に大きいことが分かります。

大量生産・大量消費・大量廃棄の社会システムに、オルタナティブを

こうした問題に向き合いながらも、xChangeは我慢や規制を課すのではなく、環境や生産者に負荷の少ないファッションで、おしゃれを楽しむ方法を提案しています。xChangeは「服を買わないようにしよう」という呼びかけではありません。一着一着を最後まで大切に着て、まだ着られるものは廃棄せずに、有効活用しようと働きかけています。「浪費を抑えて消費のパターンを変えよう」が、ひとつの中心的なメッセージです。

xChangeのもうひとつのメッセージは、「ものとのつながりを考えよう」ということです。自分が使うものが、どこから来てどこに行くのかという道筋を知ることや、ものを買うことが環境や生産者にどのような影響を与えているのかを考えようと呼びかけています。丹羽さんは、「私たちが知らず知らずのうちに買っているものが、環境破壊や貧困問題につながっていることを自覚することが大事です。こうしたことに思いを巡らせることができれば、今あるものを大事にしようと思うのではないでしょうか」と話しています。

xChangeで行われる「物々交換」は、昔から行われている原始的なもののやりとりですが、貨幣経済を中心にグローバルマーケットが形成された現代において、新しい試みと言えるでしょう。人間の基本的なコミュニケーションに立ち返り、これまでの大量生産・大量消費・大量廃棄の社会システムを考え直し、よりシンプルに豊かにものと付き合う暮らしを提案しています。

エシカル・ファッション・ブランドの広がり

xChangeでは、中古衣料の交換の他に、環境負荷が少なく、生産者の労働環境に配慮して作られたエシカル・ファッション・ブランドの紹介も行っています。環境を破壊せずに生産されたオーガニック原料を使用し、児童・奴隷労働を用いない体制で、倫理的・道徳的に反しない衣料を生産するファッション・ブランドが出てきています。

日本では、全国に350の小売店をもち、カタログによる通信販売とオンラインショッピングを展開しているピープル・ツリーが有名です。1995年設立以来、アジア・アフリカ・南米の国々で、環境に配慮して生産された商品をフェアトレードで取引し、販売しています。ピープル・ツリー代表のサフィア・ミニー氏は、2007年ニューズ・ウィーク誌の「世界を変える100人の社会起業家」の一人に選ばれました。このことからも、世界がエシカル・ファッションに注目し始めていることが伺えます。

ピープル・ツリー
http://www.peopletree.co.jp/

xChangeは、2007年9月にスタートして以来、2~3ヶ月に一度、日本各地で開催されています。毎回大盛況のわけは、誰でも気軽に参加でき、環境にも経済的にも負担をかけずにファッションを楽しめるポジティブな運動だからでしょう。丹羽さんは、「社会起業家、アーティスト、ジャーナリスト、ファッション美容専門学校、スポンサー企業、自治体などとコラボレートし、より大きな深いムーブメントにしていきたい」「服に限らず日用品の交換の場も設けて行きたい」と抱負を語っています。今後、更なる広がりを見せるxChangeとファッション業界の動向に注目していきたいと思います。

(スタッフライター 星野敬子)

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