ニュースレター

2009年02月09日

 

陶磁器リサイクルが生み出す使用者参加型のものづくり

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JFS ニュースレター No.74 (2008年10月号)

日本の伝統文化のひとつに「やきもの」があります。やきものとは、粘土などを練り容器をかたどり、火に入れて焼いてつくる陶器や磁器のことで、日本各地に窯業地がありますが、東日本では「せともの」、西日本では「からつもの」と呼ばれて親しまれてきました。

やきものに適しているのは、珪酸化合物の石英、長石、粘土及びカオリンの要素が含まれている土です。長石は、熱を加えるとそれ自体あるいは他の成分と反応してガラスをつくる物質で、この長石の含有量が少ない陶土を用いたものを「陶器」、含有量の多い陶石(磁石)などを用いたものを「磁器」といいます。

陶器は吸水性がありますが、磁器は吸水性がなく、品質の良いとされるものは、透光性があります。いずれも硬くて変形しにくく、耐熱性、絶縁性に優れているため、食器以外にも、耐火物、タイル、レンガ、便器などの衛生陶器などにも使われ、ファインセラミックスと呼ばれるものは、自動車部品、精密機械部品、化学機械部品、工具など、広範囲に利用されています。

硬くて変形しにくいという特性は、一方で割れる、欠けるという弱点でもあります。日本では割れたり不用となった陶磁器は、不燃ごみとして回収され、ほとんどが最終処分(埋め立て)されてきました。その量は推定で年間およそ15万トン、不燃ごみの5%弱を占めるといわれています。

このような中、廃棄処分される陶磁器製食器を、再び食器によみがえらせることで、やきものの産地を再生しようという取り組みが、日本の窯業地で始まっています。

陶磁器製食器をリサイクルする取り組みは、美濃焼の産地から始まりました。美濃焼は岐阜県多治見市を中心に、土岐市、瑞浪市、可児市と広域にわたり、平安時代後期に始まり、室町時代の茶の湯の流行とともに栄えた窯業地です。明治時代以降の近代的量産体制の進展により、日本の国内食器生産量の約半分を占めています。

1997年、岐阜県セラミックス研究所の呼びかけで、産地の企業9社とともに、陶磁器リサイクルを課題に「グリーンライフ21・プロジェクト」が発足しました。背景には、枯渇性資源である原料の石英、長石、粘土、カオリンなどの延命消費や、海外からの安い陶磁器食器の輸入で、地場産業が低迷し、新たな振興策を必要としていたことがあります。その危機感のなか、環境の世紀といわれる21世紀社会に通用する産地形成を目指して活動がスタートしました。
http://www.gl21.org/gl21.html

「器から器へ」をテーマに始まった同プロジェクトは、粉砕、製土、製陶、卸売り、廃棄物処理に関る産地企業30社あまりと、岐阜県内の大学や研究機関、行政が参画して、陶磁器の使用済み食器を回収、原料化し、「Re-食器」という新しい製品に再生する取り組みを行なっています。回収を食器に限定するのは、食器が食品衛生法の規格基準により、有害物質の溶出が規制されて安全性が担保されているためです。

回収された陶磁器食器は、巨大な粉砕機でセルベン(陶磁器の焼成品の粉砕物)という粒になります。セルベンを20%以上新しい原料に混ぜ合わせて坏土(はいど:焼く前の土)をつくり、形をつくって1,250度以上の高温で焼成すると、暖かさやなごみ感のあるRe-食器が誕生します。

Re-食器は、1999年に初めて商品が店頭に並び、2002年10月には東京の百貨店が、開店40周年記念事業の一環として、陶磁器食器の回収を企画しました。7日間で述べ2,000人を超える人が家庭内に眠っていた食器を持ち込み、5トンの食器が回収されたということです。

このできごとはRe-食器の展開を大きく飛躍させました。翌2003年には、2001年のエコロジーデザイン賞に続き、新領域デザイン部門でもグッドデザイン賞を受賞し、2004年には財団法人日本環境協会が世界で初めて制定した「日用品・焼物」のエコマーク商品の第一号認定を受けました。オーガニックカフェや有機野菜の宅配をおこなう企業、NPOや市民団体、自治体などが、つぎつぎに不用食器や使用済み食器の回収及びRe-食器商品の取り扱いを始め、学校給食にも取り入れられるようになりました。

回収拠点や販売拠点も全国に広がっています。割れた、欠けたという理由がなければ、なかなか廃棄できずに各家庭の食器棚の中で増え続けてきた不用食器も、次々とRe-食器に生まれ変わっているのです。

2008年7月の洞爺湖サミット開催期間中は、国内外の報道関係者に日本の優れた省エネルギーや環境技術などを紹介するための建物「ゼロエミッションハウス」において展示され、実際に使用もされました。

岐阜県セラミックス研究所、主任専門研究員の長谷川善一氏は、「この取り組みは、使い手が参加することではじめて成り立つ、使用者参加型のものづくりだ」といいます。すなわち、産地が製品をつくり、消費者が購入し使用後に廃棄するという一方通行ではなく、使い手側の「廃棄ではなく、もう一度食器に戻そう」という意識から、実際の不用食器リサイクルの行動がおこり、さらに、「セルベンの配合率をもっと上げてほしい」「洗いやすい食器をデザインしてほしい」などの要望が作り手側に返されることで、新しい技術やデザインの創出が促され、さらなる支持が広がる循環が生まれるというのです。

地域の市民団体の取り組みが、全国的なネットワーク活動に展開した事例もあります。東京都多摩地区では、最終処分場の残余不足による新たな処分場建設問題、動植物の生息地の破壊への危惧に端を発して、2004年に、不用食器のリサイクルを推進する「おちゃわんプロジェクト」が始まりました。現在は、「食器リサイクル全国ネットワーク」に発展し、産・官・学のパートナーシップのもとで、陶磁器製廃食器循環システムが、市民主体で推進されています。

日本各地の窯業地でも、家庭から排出される不用食器や使用済み食器、製造工程から出る不良食器の有効活用が始まりつつあります。九州の有田焼では、難しいとされていた白磁の再生が行われていますし、「せともの」の由来の瀬戸焼でも、瀬戸市と愛知県陶磁器工業協同組合の連携による回収が2004年春から行われています。また、関東地方の笠間焼や益子焼では、若い陶芸作家を中心にエコロジーへの関心が高まり、2008年12月から、勉強会が始まる予定だということです。

前述の長谷川善一氏は、以下の3点が廃陶磁器リサイクルの今後の課題であるといいます。ひとつは、低炭素社会に向けて、製造段階などにおける二酸化炭素を減らし、環境負荷の低い循環型の社会を築いていくことです。そのためには、現在の20%のセルベンの含有率を、今後は50%、70%と高めると同時に、焼成温度の低下を実現するための技術開発を進めていくことが必要です。また、大量生産した商品をリサイクルするだけではなく、リユースを進め、デポジット制を導入するなど、脱物質化を促進する新しいビジネスに結びつくような展開が求められます。

二つ目は、地域の環境保全に貢献できるやきもの作りです。例えば、里山の維持管理のために刈り取られた草本類を買い取り、釉薬原料に用いることで資金が維持管理活動に流れ、間接的に地域の自然環境の保全に役立つことができます。そして最後に、やきものはもともと、四季の演出や家族の団欒など、スローで心豊かな場を提供することで成り立ってきた用品です。このやきものの伝統の中に受け継がれてきた、精神的な価値観を継承することです。

私たちの日常生活に当たり前にある用品には、自然背景や歴史を通じた文化が反映されています。伝統文化の中に受け継がれてきた価値観が、Re-食器という新しい発想とともに、日本から世界に広がることを期待しています。

(スタッフライター 八木和美)

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